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6章 やんちゃ少年レンといたずらスライム
第38話 レース決着、しかし
しおりを挟むユウキは慌ててレースに視線を戻す。
池の外周コースも終盤、最後のコーナーに差し掛かるところだった。
スライムが、ほんのわずか前に出たのである。
「みょんみょーん!」
スライム一家の応援にも熱がこもる。
一方の家族院側も、負けじと応援の声を張り上げた。
仲間たちの声援に力をもらったのか、それとも――焦ったか。
汗を噴き出しながら疾走するレンの表情が、一瞬だけ歪んだ。
直後、彼はコース脇の岩の上に飛び乗った。池と地面との境に突き出たその岩を踏み台にして、勢いよく跳躍する。さらにせり出した木の枝を空中で引っ掴み、まるでターザンロープのように身を躍らせたのだ。
流れるような動きにユウキは目を丸くする。
レン、本当に身体能力がすごいんだ……!
コーナーの一部を空中ショートカットするという荒技で、レンはスライムの前に出ることに成功した。それなりの高さから着地したにもかかわらず、速度をほとんど維持したまま再び走り出す。
ヒナタとソラが湧いた。スライム一家が戸惑って騒然となる。
ひとり、ユウキだけがその大技に眉をひそめた。ついさっきまで感動していたはずの表情が、曇る。
ズルだと非難したいわけじゃない。
レンの表情が――あまりにも必死だったからだ。
レンの性格やこれまでの言動から考えれば、この改心の一手に得意満面だったことだろう。後ろを行くスライムに「どうだ!」と言わんばかりの態度を示しても不思議じゃない。
なのに、今のレンには一切の余裕がない。ただただ必死にゴールを目指している。
ユウキは思い出した。岩場からジャンプする直前と、着地した直後の表情を。
「レン……もしかして、どこか身体を痛めた……?」
そのつぶやきは、レースに熱中する仲間たちの耳には届かない。
レースは最終盤になる。
レンの勢いは止まらない。差は少しずつ詰まっているが、そのまま押し切ると思われた。
「みょみょみょーん!!(ぼくだってぇーっ!!)」
そのとき、スライムが気合いを入れるように大きな声を出した。
そしてなんと――池の方にコースアウトしたのである。
水の中に落ちる!
ソラがつぶやいた。
「ああ……やっぱり。そっちに行くよね……」
どういうことか――ユウキがたずねる前に、ソラの言葉の意味がわかった。
スライムは池に突っ込むと、そのまま水上を疾走し始めたのだ。小さな身体で後方に水飛沫を残しながら、もの凄い速さでゴールへと向かう。
レンが空中ショートカットなら、スライムは水上ショートカット。
これがソラの不安視していた、スライムの力。水上疾走能力。
池の中に住む生き物なのだから、確かに水の上を走る力があっても不思議じゃない。
「あっ!」
ヒナタが口元に手を当て、小さく叫ぶ。
ゴールを目と鼻の先にしたとき、レンの前にスライムが割り込んだのだ。レンの表情がさらに険しく歪む。
状況は変わらなかった。
そのままスライムがゴールを越える。数歩分遅れて、レンがゴールの線を越えた。
「みょみょみょみょーんっ!(やったやったやったぁー!)」
「ああちくしょう! ちくしょーっ!」
喜びを爆発させて跳びはねるスライム。
ゴールするなり、その場に大の字に寝転がって悔しがるレン。彼は汗だくだった。
すぐに彼は上体を起こす。
「無効だ反則だやり直しだっ! オレは認めねえぞこの勝負!」
「みょみょみょっ!(そっちが先にズルしたんじゃないか!)」
「オレは負けてねえっ。負けてねえったら負けてねえ!」
わめくふたり。お互いの健闘をたたえ合う空気にはほど遠かった。
ヒナタが拍手しようかどうか迷っている。
「ねえ、これって慰めた方がいいのかな? いい勝負だったよって言ってあげた方がいい?」
「たぶんだけど……火に油だと思うな、ボク……」
ソラが控えめに意見を言った。
保護者のチロロとお父さんスライムが、大きなため息をついている。お互いが納得しない状況、どうしたものかと考えているようだ。
レースは終わったのに、微妙な空気になる池のほとり。
そんな中、ユウキはレンに歩み寄った。声をかける。
「お疲れさま、レン」
「オレは負けてねえぞっ!」
「レンの気持ちはわかったよ。でも僕が言いたいのはさ」
ちらとやんちゃ少年の足首を見る。レンはさっきからずっと威勢良くわめいているが、立ち上がろうとはしなかった。
「怪我をするくらいなら、無理をして欲しくなかったなってこと」
「な……!」
「足。痛めたんでしょ?」
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