僕はもふもふ家族院の院長先生!!

和成ソウイチ

文字の大きさ
38 / 92
6章 やんちゃ少年レンといたずらスライム

第38話 レース決着、しかし

しおりを挟む

 ユウキは慌ててレースに視線を戻す。
 池の外周コースも終盤、最後のコーナーに差し掛かるところだった。

 スライムが、ほんのわずか前に出たのである。

「みょんみょーん!」

 スライム一家の応援にも熱がこもる。
 一方の家族院側も、負けじと応援の声を張り上げた。

 仲間たちの声援に力をもらったのか、それとも――焦ったか。
 汗を噴き出しながら疾走するレンの表情が、一瞬だけ歪んだ。

 直後、彼はコース脇の岩の上に飛び乗った。池と地面との境に突き出たその岩を踏み台にして、勢いよく跳躍する。さらにせり出した木の枝を空中で引っ掴み、まるでターザンロープのように身を躍らせたのだ。

 流れるような動きにユウキは目を丸くする。
 レン、本当に身体能力がすごいんだ……!

 コーナーの一部を空中ショートカットするという荒技で、レンはスライムの前に出ることに成功した。それなりの高さから着地したにもかかわらず、速度をほとんど維持したまま再び走り出す。

 ヒナタとソラが湧いた。スライム一家が戸惑って騒然となる。

 ひとり、ユウキだけがその大技に眉をひそめた。ついさっきまで感動していたはずの表情が、曇る。
 ズルだと非難したいわけじゃない。

 レンの表情が――あまりにも必死だったからだ。

 レンの性格やこれまでの言動から考えれば、この改心の一手に得意満面だったことだろう。後ろを行くスライムに「どうだ!」と言わんばかりの態度を示しても不思議じゃない。
 なのに、今のレンには一切の余裕がない。ただただ必死にゴールを目指している。

 ユウキは思い出した。岩場からジャンプする直前と、着地した直後の表情を。

「レン……もしかして、どこか身体を痛めた……?」

 そのつぶやきは、レースに熱中する仲間たちの耳には届かない。

 レースは最終盤になる。
 レンの勢いは止まらない。差は少しずつ詰まっているが、そのまま押し切ると思われた。

「みょみょみょーん!!(ぼくだってぇーっ!!)」

 そのとき、スライムが気合いを入れるように大きな声を出した。
 そしてなんと――池の方にコースアウトしたのである。
 水の中に落ちる!

 ソラがつぶやいた。

「ああ……やっぱり。そっちに行くよね……」

 どういうことか――ユウキがたずねる前に、ソラの言葉の意味がわかった。

 スライムは池に突っ込むと、そのまま水上を疾走し始めたのだ。小さな身体で後方に水飛沫を残しながら、もの凄い速さでゴールへと向かう。

 レンが空中ショートカットなら、スライムは水上ショートカット。
 これがソラの不安視していた、スライムの力。水上疾走能力。
 池の中に住む生き物なのだから、確かに水の上を走る力があっても不思議じゃない。

「あっ!」

 ヒナタが口元に手を当て、小さく叫ぶ。
 ゴールを目と鼻の先にしたとき、レンの前にスライムが割り込んだのだ。レンの表情がさらに険しく歪む。

 状況は変わらなかった。
 そのままスライムがゴールを越える。数歩分遅れて、レンがゴールの線を越えた。

「みょみょみょみょーんっ!(やったやったやったぁー!)」
「ああちくしょう! ちくしょーっ!」

 喜びを爆発させて跳びはねるスライム。
 ゴールするなり、その場に大の字に寝転がって悔しがるレン。彼は汗だくだった。
 すぐに彼は上体を起こす。

「無効だ反則だやり直しだっ! オレは認めねえぞこの勝負!」
「みょみょみょっ!(そっちが先にズルしたんじゃないか!)」
「オレは負けてねえっ。負けてねえったら負けてねえ!」

 わめくふたり。お互いの健闘をたたえ合う空気にはほど遠かった。
 ヒナタが拍手しようかどうか迷っている。

「ねえ、これって慰めた方がいいのかな? いい勝負だったよって言ってあげた方がいい?」
「たぶんだけど……火に油だと思うな、ボク……」

 ソラが控えめに意見を言った。
 保護者のチロロとお父さんスライムが、大きなため息をついている。お互いが納得しない状況、どうしたものかと考えているようだ。
 レースは終わったのに、微妙な空気になる池のほとり。

 そんな中、ユウキはレンに歩み寄った。声をかける。

「お疲れさま、レン」
「オレは負けてねえぞっ!」
「レンの気持ちはわかったよ。でも僕が言いたいのはさ」

 ちらとやんちゃ少年の足首を見る。レンはさっきからずっと威勢良くわめいているが、立ち上がろうとはしなかった。

「怪我をするくらいなら、無理をして欲しくなかったなってこと」
「な……!」
「足。痛めたんでしょ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

処理中です...