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6章 やんちゃ少年レンといたずらスライム
第39話 レンの伝えたかったこと
しおりを挟むユウキの言葉に、ヒナタとソラが目を丸くした。チロロものそりと立ち上がり、近づいてくる。
仲間たちの視線にさらされ、レンは気まずそうに顔を逸らした。
ソラが眉を下げながらたずねる。
「いつから痛かったの……?」
「ほら、レンが岩からジャンプしたときがあったよね。たぶん、あの直前にもう痛めてたんだ」
ユウキは自分の考えを告げた。レンがさらに視線を逸らしたのが、推測が当たっている証拠だった。
おそらく、不利を悟ってとっさに思いついたのだろう。全速力で走っているところに、無理な姿勢で無茶な動きをしたために、身体に思わぬ負荷がかかってしまった。
大きな怪我じゃなければいいけど。
レンに肩を貸す。すっかり大人しくなった少年を、近くの木陰まで運んだ。
足首を見る。ユウキは表情をかげらせる。少し腫れていた。
ヒナタが口元に手を当てた。
「痛そう……」
「へっ。これくらいなんてことないさ」
レンは強がる。ただ、無理矢理浮かべようとしている笑みは強ばっていた。今もジンジン痛みがあるのだろう。
「痛みを我慢するのって、つらいよね」
無意識に、そうつぶやいていた。「だから、痛くねえって」とレンは応えるものの、口調はだいぶ大人しい。
チロロが鼻先を怪我している箇所に近づけた。ユウキを見る。
『さいわい、軽い捻挫ですんでいるようだ。しばらく休めば問題ないだろう』
「そう。よかった……。レンもよかったね」
「ふん……」
「けどさ、なんであんな無茶したんだい」
ユウキがたずねると、「負けたくなかったに決まってるだろ」と言葉が返ってきた。
しばらく黙ってしまう。
皆の視線を受け、やがてレンはぽつりぽつりと話し始めた。
「家族院の奴ら、みんなのんびりしてボサっとしてるのばっかだからよ。いざってときにはちゃんとモノが言えるってことを証明しないといけないんだ」
レンはスライムを見る。勝者となったスライムは、こちらをじっと見つめていた。
レンはユウキに言った。
「あのやんちゃスライムが、別に悪いヤツじゃねえことは知ってるよ。オレだって。何度も一緒に遊んできたんだ。だから知ってる」
「でも、勝負をしたかった」
「ああ。あいつは悪ふざけで、オレたちが集めたハーブを取っていった。家族院の皆のために集めたヤツだ。ついつい池までの競争になっちまったが……本当に言いたかったのはそういうことじゃない」
握りこぶしを作る。
「家族院に手を出されて、黙って見過ごすような男のなりたくなかったんだ。なあなあで済ませてたまるか。ぜったいに白黒付ける。悪いのはお前だってキッチリわからせてやる」
そう伝えたかった、ちゃんと勝って伝えたかったんだ――とレンは言った。
ヒナタが苦笑した。
「そういうところ、とってもレンらしいよね。白黒はっきりさせたいっていうか、真っ直ぐっていうか」
「ふん。悪いかよ。これがオレ様だ」
「でもさー。それで自分もズルしちゃうってのはマズいんじゃないかなあ?」
勝負の内容は『かけっこ』。それを先にコースショートカットを試みたのはレンの方である。
レンも自覚があるのか、言葉を詰まらせる。ただプライドが邪魔をして、素直に認められないようだ。
「うっさいな。もう一度やったらオレの方が勝つんだよ。ぜったい」
負け惜しみのように言う。ヒナタはチロロと顔を合わせ、肩をすくめた。
しばらく黙って話を聞いていたユウキは、おもむろに口を開いた。
「ねえ、レン。このかけっこに勝つことが、もふもふ家族院の皆を守ることになるって、レンは考えたんだよね。だからなんとしても勝ちたかった」
「……だから、そう言ってるだろ」
「その気持ち、僕が受け継いでもいいかな?」
レンだけでなく、その場にいた仲間たちも目を見開いた。
ユウキはうなずく。
「もう一度、かけっこで勝負しよう。今度は僕が走る。走って、レンの伝えたかった気持ちを、あのスライム君に伝えてくるよ」
「ちょ……おま。なにを言ってるんだよ。お前がアイツに勝てるわけないだろ!」
「まあ、間近で見てたから正直自信はないけど」
言葉ほど不安に思っていない表情で、ユウキは告げる。
「家族院の仲間が必死で頑張った姿は、無駄にできないからね。なんたって僕は、もふもふ家族院の院長先生だから」
笑顔で、力こぶを作った。
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