僕はもふもふ家族院の院長先生!!

和成ソウイチ

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6章 やんちゃ少年レンといたずらスライム

第40話 ライバルの気持ち

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 ユウキの表情を呆れながら見つめたレン。だが、家族院の少年院長はまったく表情を変えなかった。
 レンの心意気は受け継ぐ――その気持ちに、微塵の嘘も誇張もなかったのだ。
 やがてレンはぽつりと言った。

「どうやって勝つつもりだよ。勝算あんのか?」
「そうだね。正直、出たとこ勝負かな」
「おまえ……」
「けどさ、レン。君が勝算とか言っちゃっていいのかい?」

 ユウキの言葉に、やんちゃ少年の目が見開かれる。ユウキは微笑んでいた。

「レンにとって大切なのは、家族院の皆の名誉を守ること。自分が皆を守るんだって気持ちを見せること。だよね?」
「……」
「だったら勝つよ、僕。レンの気持ちはよくわかるし、無駄にしたくないから」

 自分の胸を叩いてから、ユウキは「それに」と続けた。

「僕はからね」

 怪訝そうな顔になるレンに、ヒナタが鼻息を荒くする。

「そうだよ。ユウキには特別な力がある。きっと大丈夫だよ!」
「……ふん」

 鼻を鳴らす。彼は言った。

「いつの間にかオレの家族と仲良くなってたとか、あんまりいい気はしねえが……おい、院長先生よ」

 手招きされ、ユウキは彼の傍らに膝を突いた。
 すると、レンの腕ががっしとユウキの首を抱え込む。

「お前に任せた。ぜってー勝てよ」
「レン」
「言っとくがな、完全に認めたワケじゃねえからな? けど、お前が言ってたこと、確かにオレの気持ちと同じだったよ。だから、その……許してやる」

 ユウキは小さく笑った。

「レンって、可愛いなって言われない? ヒナタとかアオイとかにさ」
「うっ、うるせえ! ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと勝ってこい!」
「うん」

 力強くうなずいて、ユウキは立ち上がった。その背中を、レンがばしんと叩く。痛かったが、不思議な温かさも感じた。
 男の子って、こういう風に応援してくれるんだな。
 テレビや動画で見た姿。背中のわずかなヒリヒリ感に、勇気と力とワクワクをもらった。
 心の中で、心臓とは違う、魂がドクンと鳴る音を聞いた。

 ――熱いね、少年。そういうの嫌いじゃないよ。

 また、魂が鼓動する。同時に、ユウキの身体に力がみなぎってきた。
 恐怖も不安もかき消される。胸に手を当て、ユウキは「ありがとう。一緒に頑張ろう」と心の中でつぶやいた。

 それからユウキは、子スライムのもとに歩み寄る。こちらをじっと見つめてくる小さな身体に、彼は言った。

「もう一度、かけっこで競争してもらえないかな。今度は、僕が相手になるから」
「みょみょーん!(誰でも来いだよ!)」

 スライムが跳びはね、威勢良く応じる。
 この申し出、難色を示されるかなとユウキは思っていた。少し前に「悪いことをしてはダメだ」と注意したのが、他ならぬユウキだったからだ。けれど、スライムは勝負を避けなかった。
 もしかしたら、スライムの方にも思うところはあるのかもしれない。

 ユウキはちらりと、お父さんスライムの方を見た。一度は決着した子どもたちの勝負、親としてもう一度認めてもらえないかと視線で問いかける。
 お父さんスライムは瞑目めいもくした。

「みょんみょん(ふたりとも、今度は怪我をしないように気をつけなさい)」
「ありがとうございます」

 ユウキは礼を言った。

 レースの再戦が決まった。
 ユウキと子スライム、並んで立つ。スタートの合図をするのはヒナタだ。
 スタートラインの手前で深呼吸をするユウキに、ふと、子スライムが話しかけてきた。

「みょみょ(おまえ、レンとなかよし?)」
「そうだね。僕はレンと家族だよ」
「みょーんみょみょ(だったら、先に言う。かけっこが終わったら、レンに謝っておいて。だいじなものとってごめんって)」

 ユウキはちらりと子スライムを見た。それから横目で、レンを見やる。

「そういうことは、自分で伝えた方がいいよ」
「みょみょみょ(ヤダ。ことば通じないし、はずかしいし)」
「やっぱり君たち、よく似てるよ。それにとっても仲が良い」
「みょんみょん! みょん!(ちがうもん。レンはライバルだもん! ライバルは謝らないんだよ!)」
「そんな決まりはないと思うなあ」
「みょみょーん!(いいの! とにかく勝つのはぼく!)」

 ヒナタが怪訝そうに話しかける。

「そろそろスタートだけど……なんか楽しそうだね」
「うん。楽しい」
「えっと。じゃあ競争はやめる?」
「ううん。やめない」

 ユウキはそう言って、スタートの構えを取る。スライムもまた、ぐっと身体に力を入れた。

「むしろ、スライム君がすごく良い子だから、負けたくなくなった」
「男の子ってよくわからないね」

 言葉ほど呆れた様子もなく、ヒナタは一歩下がった。合図を出すためだ。
 一瞬の沈黙。もふもふ家族院、スライム一家、双方の家族が固唾を呑んだ。
 ユウキたちの間に流れる不思議な高揚感に、当てられたのだ。

 ヒナタが手をあげる。

「よーい」

 ユウキは息を吸う。止める。心臓の鼓動と、魂の鼓動が一致する。

「スタートッ!!」

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