66 / 92
9章 聖域外からのピクニック
第66話 侵入者への対処
しおりを挟む「マリア。なにがあった」
「……」
再度ルアーネは呼びかけるが、天使マリアは瞑目するだけ。
赤毛の天使は事情を察し、テーブルの上の書類を束ねて脇にどける。
マリアが目を開けた。
「ルアーネ。大変だわ。子どもたちの聖域に、外から誰か入ってきた」
「なんだって」
驚く。
もふもふ家族院を中心とした聖域は、この有能な天使マリアが手ずから創り上げたとっておきだ。普通の人間が破れるものではない。
それに聖域外には、天使マリアを崇める現地の人々が守護者として集落を作っている。
確かに広範な聖域すべてを四六時中監視するのは、彼らにとって酷なことであろう。それでも、守護者たちの目をかいくぐり、強固な結界を越えて、聖域に侵入者を許したことはマリアでなくてもショックだった。
「侵入があったのは確かなのか」
「ええ。尊い子どもたちの吐息に混じって、まったく別の大人のざらつきを感じたわ」
「……もうちょっと悪意と性癖を抑えて説明しろ」
天使マリアが立ち上がる。
「なんてこと。あの可愛い可愛い子どもたちの、きゃっきゃうふふな至高領域に、無粋な人間が踏み入るなどと……言語道断。天界すべてを敵に回す暴挙だわ……!」
「いやそこまでじゃない」
落ち着けとマリアをなだめる。
ルアーネは彼女と並んで、水晶玉の前に立った。映像は相変わらず、楽しそうに家族院の皆と戯れるユウキを映している。
途端、でれーっと表情を崩す天使マリアが、慌てて顔を作る。こちらも相変わらずの顔芸天使ぶりだ。
ルアーネは言った。
「もしかして、あんまり心配することねえ感じか?」
「なんてことを言うの、ルアーネ!? あなたにはこの超絶危機的な状況が理解できないとでも!?」
「少なくとも、お前の表情を見てる限りは」
半眼で告げると、マリアはちょっと落ち込んでいた。
改めて、状況を確認する。
「件の侵入者は映像に出せないのか? 場所は? 人数は?」
「……ダメね。ちょっと把握が難しいわ。ユウキ院長の力が最近ますます意気軒昂で、水晶玉も私の視線も釘付けだから」
「あ、そういうのはいい」
またちょっと傷ついた顔をする親友をよそに、ルアーネは考えた。
こう言ってはなんだが、マリアの家族院に対する執着ぶりは凄まじい。それこそ我が子のように、大事に大事に見守っている。聖域への魔力供給や結界の維持管理を怠った様子はこれまで見たことがなかった。マリアの感度はビンビンに鋭く働いていたはず。
にもかかわらず、こうして結界を破られて中への侵入を許したというのに、その位置も相手のこともぼんやりとしか把握できていないこの状況は、違和感があった。
ルアーネは推測を口にした。
「なあマリア。もしかして、聖域結界の綻びはもう直ってるんじゃないか?」
「え? ……あら、本当だわ。しかも、かなり丁寧に繕われている」
「お前それ、侵入者はアタシらにだいぶ近い力を持った人間かもしんねーぞ」
すなわち、聖なる神の力を行使できるような者たちということだ。
しかも、侵入してすぐ結界を修復している。聖域への影響を最小限に抑えようとしたのかもしれない。
もし彼らが、聖域内を荒そうと考えている不届き者の集まりであったなら、そんな馬鹿丁寧な真似はしないはずだ。
もちろん、守護者や天使たちの目を欺こうとした工作の可能性もあるが――。
「もふもふ家族院の平穏な気に馴染みきったマリアが、侵入者の気配に怒りこそすれ、嫌悪感や緊張感を抱いていないっつーことは……今回の侵入者、そこまで目くじら立てる必要ないかもしれん」
「確かめるわ。たとえ害はなくても、無視は出来ない」
マリアは踵を返した。部屋の奥で、天使の正装を身にまとう。
ルアーネは渋面を作る。
「気持ちはわかるが、今からあの世界に降りるとなると手続きが厄介だぜ? お前が直で行くより、守護集落の連中に声をかけた方がよくないか?」
「箱推し天使たる私を、あまり舐めないで頂戴。ルアーネ」
「……自分で言うのかその名称」
呆れる赤髪天使をよそに、天使マリアは水晶玉の傍らに立った。急速に魔力を高めていく。創造主の力に呼応して、水晶玉のまばゆく輝き始めた。
ルアーネが眉を上げる。
「おい。まさかお前」
「少しタイムラグは生じるけれど――この水晶玉を経由して、ユウキたちのところに飛ぶわ。そして、侵入者からあの子たちを守る」
確固たる決意を込めて、天使マリアが宣言する。
「たとえ熱心なファンだとしても、無断で舞台に上がるのは阻止しなければならないわ。私にはその使命がある」
「いや、それむしろお前自身……まあいいか」
ルアーネは頭をかく。親友がこう言い出したら聞かないことを、赤髪天使はよく理解していた。
「こっちは任せとけ、マリア。うまくやっとく。その代わり、あまり長居はするなよ。用件を済ませたら、さっさと帰ってこい。あの子たちのためにも」
「ありがとう、ルアーネ。後はよろしくね」
行ってきます、の言葉とともに、天使マリアは光に包まれた。
0
あなたにおすすめの小説
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』
miigumi
ファンタジー
前世では病弱で、病室の窓から空を見上げることしかできなかった私。
そんな私が転生したのは、魔法と剣があるファンタジーの世界。
……とはいえ、勇者でも聖女でもなく、物語に出てこない“モブキャラ”でした。
貴族の家に生まれるも馴染めず、破門されて放り出された私は、街の片隅――
「しろくま通り」で、小さなお菓子屋さんを開くことにしました。
相棒は、拾ったまんまるのペンギンの魔物“ピノ”。
季節の果物を使って、前世の記憶を頼りに焼いたお菓子は、
気づけばちょっぴり評判に。
できれば平和に暮らしたいのに、
なぜか最近よく現れるやさしげな騎士さん――
……って、もしかして勇者パーティーの人なんじゃ?!
静かに暮らしたい元病弱転生モブと、
彼女の焼き菓子に癒される人々の、ちょっと甘くて、ほんのり騒がしい日々の物語。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる