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9章 聖域外からのピクニック
第67話 ピクニックに出発!
しおりを挟む――もふもふ家族院の前庭。
「みんな、準備できた?」
異世界レフセロスの格好にもすっかり馴染んだユウキは、重い荷物をものともせず声をかける。
振り返った先では、同じく遠出用の衣服に身を包んだ家族院の子どもたちがいる。
ヒナタ、サキ、アオイ、レン、ソラ、ミオ。全員集合だ。
彼らの周りには、お出かけに興味を持ったケセランたちがコロコロと付いてきている。他にも、保護者フェンリルのチロロが最後尾にいた。
「よーし。それじゃあ、しゅっぱーつ!」
「おーっ!」
元気よく手を挙げて――ソラやミオは非常に控えめだったが――、子どもたちがユウキのかけ声に応じる。
抜けるような気持ちの良い天気。
今日は、もふもふ家族院の皆でピクニックに出かけるのだ。
――ミオと天体観測した一件以降、家族院の子どもたちは以前よりも一緒に集まることが増えた。かつては『怖い存在』と見られていたミオが、思ったよりも世話焼きで心配性であることを知った他の子たち。実際の距離も心の距離も、ぐっと縮まったとユウキは見ていた。
せっかく皆の一体感が増してきたのだ。この機会に、もっと仲良く、楽しい時間を皆で過ごしたい。
そう考えたユウキ院長の発案により、もふもふ家族院総出でピクニックに出かけることになったのだ。
――道中。
「ソラ」
「なあに、ユウキ」
先頭を歩いていた少年院長は、後ろを振り返って銀髪少年を呼ぶ。一見すると女の子のような容貌の彼は、家族院を出発してから口数少なめだった。
ユウキは目敏くそれに気づき、提案する。
「目的地まで少し距離があるからさ。その間、歌を聴かせてよ」
「え……ええっ!?」
「ほら、この前リビングで歌ってくれたじゃない。ヒナタの新しい踊り用にって。あれ、すごく気持ちが弾んだからさ」
「で、でも」
「皆で歌えば、行きの道もきっと楽しいよ」
ユウキは笑う。迷っている様子のソラに、ヒナタが後ろからがばりと抱きついた。
「それ名案ー! ねえねえソラ! 歌って、歌ってよ! わたし、ソラの歌が大好き!」
「……わかったよ。同じ歌でいい?」
「うん。わたし、歌って踊る!」
じゃあ、とソラがうなずく。どことなく嬉しそうだった。
すうっと息を取り込む。
さあ 行こう
明るいお日様が 待っている
優しい大地が 呼んでいる――
相変わらず澄んだ歌声。ただ、ユウキと初めて出会った頃に比べて、声に力強さが宿っていた。
ボクの歌を聴いてほしい――そんな願いと自信を感じさせる歌声だ。
その声に乗せて、ヒナタが軽やかに踊り出す。彼女もピクニック用にリュックを背負っているのだが、まるで中身が羽毛にでもなったかのように、まるで重さを感じさせない。
彼女は踊りながら仲間たちの間をスルスルと動いていく。そしてひとりひとりの手を取ると、一緒にステップを踏むよう促すのだ。
ユウキも、わずかな間だが一緒に踊る。
目の前には満面の笑みを浮かべたヒナタ。踊っているのが楽しい、皆といるのが楽しい、生きているのが楽しい――そんな喜びの叫びが、全身から放たれているようだった。
――まぶしいな。
――ええ。素晴らしいことだわ。
ヒナタたち皆の様子を感じ取ったのだろう。ユウキの心の中にいる善き転生者たちの魂が、嬉しそうに声をかけてきた。
もうすっかり、転生者たちはユウキに寄り添う存在として馴染んでいる。
皆の楽しげな様子を邪魔しないように気をつけながら、ユウキは家族院の皆を先導する。
実を言うと、ピクニックに選んだ場所は、まだユウキしか知らないところなのだ。
ぽん、と肩を叩かれた。振り返ると、機嫌良さそうなサキがいる。今日の寝癖はいつもより控えめだった。アオイとミオがせっせと整えたためだろう。それでも、ところどころぴょんぴょん毛先が跳ねているのはご愛敬だ。
好奇心旺盛な少女は、どうしても聞きたくて仕方ないという顔をしていた。
「なあユウキ院長君。出発時ははぐらかされたが、いい加減教えてくれないか? 君はどうして、どうやってピクニック会場を見つけ出したんだい?」
「そんな大げさなことじゃないよ。散歩してたら、偶然見つけたんだ。近くに小川があって、日当たりの良さそうな開けた場所をさ」
「ソラ君によると、チロロ君も知らない場所みたいじゃないか。そこそこ遠いぞ。君は毎日、誰かしらと一緒にいる。そんな絶好のスポットを探し出す時間、作れないはずだ」
サキの瞳が興味関心でキラリと光る。
「これは、アレだね? 君の中に眠る転生者の魂の素晴らしい御力に違いない。そうだろう? そうなんだろう? さあさあ教えておくれよ。今度はどんなすんばらしい魔法を使ったのか!?」
「あはは。魔法じゃないよ。ただ聖域を歩き回って見つけた、それだけなんだ」
「むう。じゃあ、それはいつのことなんだい?」
「三日前の夜かな」
「なんと? まさか夜更かしとな!? なんと羨ま――けしからん! ……あれ? でもユウキ君、日中眠そうにしているところ見たことないのだが」
「うん。僕さ、眠らなくていい身体になっちゃったから」
サキの顔がぴしりと固まった。
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