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第4話 野盗たちの襲撃
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現れたのは数人の男たち。皆、いかにも荒くれ者といった風貌だ。十人が十人とも、奴らを野盗だと指差すだろう。
荷馬車のおじさんが言ってたことは正しかったな。くそ。
「ほーぅ」
先頭に立つスキンヘッドの男が笑った。手には刃こぼれしたごつい剣を握っている。
「まだ生きてる女がいると聞いて戻ってきてみたが、女の代わりに金目のものができあがってやがる。おいガキ、その馬車はお前のものか?」
俺が黙っていると、スキンヘッドは地面に唾を吐いた。
「だんまりか。まあいいさ。もう一度バラせばいいことだ。ガキは――そうだな、なかなかイイ面してるから、殺さずに連れていくとするかね」
――お前らにカオを褒められても嬉しくも何ともない。
俺の反抗的な表情で逆に興が乗ったのか、スキンヘッドの男はわざわざ笑顔まで浮かべて言った。
「安心しなー。お前みたいな野郎でも需要ってもんがあるんだ。俺たち優しいだろう? よかったなぁ、ん?」
スキンヘッドの後ろで仲間の野盗たちが笑っている。
ああ反吐が出る。
『ラクター様。お逃げください。彼らは危険です』
アルマディアが警告してきた。
『馬車を襲った者たちです。しかも相手の数が多い。ラクター様はまだ【楽園創造者】の力に目覚めて間がありません。ここはお逃げを』
「アルマディア。奴らがあんたを馬車の下敷きにしたんだな?」
彼女の警告をさえぎり、問いかける。
同時に、護身用のナイフを取り出した。野盗たちの表情が険しくなる。
アルマディアが慌てた。
『まさか、迎え撃つおつもりですか!?』
「ああ。奴隷として売った勇者たちも大概だが、あいつらもあんたを一度は見捨てたんだ。しかもまだ、分捕ろうとしてやがる。ああいう奴に好き放題されるのはもう御免なんだよ」
『勝算が、あるのですか?』
「たぶんな。いま、思いついた」
先頭のスキンヘッドが近づいてきた。他の野盗たちも俺の逃げ道を塞ぐように走り出す。
スキンヘッドが突然、雄叫びをあげる。それが奴らの合図だった。
野太い声で相手が怯んだ隙に、いっせいに襲う。慣れた手口だった。
『ラクター様ッ!』
「もっと近づいてこい」
俺はつぶやき、同時に胸の奥に意識を向けた。
馬車を生まれ変わらせた神力の流れ。それを思い出す。再現する。
――楽園創造。
光の粒子が、俺を中心とした同心円状に広がる。
野盗たちがひるんだ。その隙に、肉薄していた一人のアゴに掌底を叩き込む。
扱いはさんざんだったが、こっちは勇者パーティで揉まれた経験があるんだよ。
それに――。
「ちっ、ガキめ! 虚仮威しかっ、クソ生意気な!」
自分たちの身体になんの変化もないと気付いたスキンヘッドたちは、激昂して武器を振り上げた。
四方から剣が襲う。
俺はそれらを、無防備に食らった。
――甲高い音が、した。
「な……にっ!?」
スキンヘッドが息を呑む。奴は、折れて使い物にならなくなった剣を見て驚いている。
俺は口角を引き上げた。
思ったとおりだ。
今このとき、ここは俺だけが無敵の楽園に変化した。
知っているか、野盗ども。
俺は元々、人が苦手なんだ。
特に、お前らみたいなゲスな野郎は嫌いなんだよ。
「さあ、ここからずっと俺のターンだ」
反撃、開始。
◆◇◆
数十分後――。
俺は街道から離れた森の中で、清流の水を飲んでいた。
「ふう。だいぶ楽になった」
『大丈夫ですか、ラクター様』
「ああ、平気だ。神力切れって結構キツいのな」
俺は胸に手を当てながら苦笑した。
――野盗どもの襲撃。
【楽園創造者】の力により、俺に一方的にやられるだけとなった奴らは、形勢不利を悟るなり脱兎のごとく逃げ出した。
命あっての物種、ということだろう。まあ、懸命な判断だと思う。
捨て台詞もナシだったのは徹底しているなと逆に感心してしまった。
奴らの判断が早かったおかげで、俺は神力切れでへたり込む姿を見せずに済んだ。あれはマジにキツイ。インフルエンザに船酔いが合体したみたいだった。
「しかし助かったよ。アルマディアが代わりに俺の身体を動かしてくれなかったら、あのキラキラ馬車の中でぶっ倒れてるしかなかった。あんな目立つところに留まっているのは危険だったからな」
『お役に立ててよかったです』
アルマディアはほっとしていた。
彼女が言うには、あのときの俺が意識朦朧だったので全身を代わりに動かすことができたらしい。通常は俺の意識が邪魔をして、うまくいかないのだとか。
『それにしてもラクター様はすごいですね。まさか、【楽園創造者】の力をあんな風に使うなんて』
「ま、咄嗟の思いつきにしてはうまくいったな」
あのとき俺が創り出した『楽園』――それは、効果範囲にいる間だけ俺自身をあらゆる攻撃から守るというものだった。俺だけ絶対無敵な空間というやつだ。なんて中二的な響き。今、思い出すと背筋がゾワゾワする。
イメージが大雑把すぎてうまくいくか正直五分五分だったが、野盗を殴り返したときに痛みがまったくなかったのを知って成功を確信した。あとは「ずっと俺のターン」だ。
【楽園創造者】。すごい力だ。
とはいえ、まだまだ不安定なところもある。
最初に馬車を再生させた『楽園』はしばらく効果が続いていたが、俺を絶対無敵にする『楽園』の方は神力切れを起こすと同時に消えてしまった。
アルマディア曰く、『一言で言えば経験不足』とのこと。
これからもっとたくさんの楽園を創っていけば、おのずと力も安定してくると彼女は言った。
今後はもう少し考えて力を使おうと思う。
『ラクター様。あんな『怖い』力の使い方はどうか控えてくださいな』
「前言撤回、かな?」
『そうです。前言撤回です。心配で仕方ありません』
もし身体があったなら、アルマディアは頬を膨らませていただろう。
俺は表情を引き締めた。
「そうも言ってられない。これから、アルマディアの眷属を救わなきゃいけないからな」
『ラクター様……』
森の奥を見つめる。
さっきの野盗たちが逃げ込んだ先。
そこは、アルマディアの眷属たちが暮らす領域のすぐ近くなのだという。
もし野盗のねぐらがそこにあるなら、厄介だ。
アルマディアと眷属たちのためにも、解放しなければ。
「行こう。道案内を頼む。アルマディア」
荷馬車のおじさんが言ってたことは正しかったな。くそ。
「ほーぅ」
先頭に立つスキンヘッドの男が笑った。手には刃こぼれしたごつい剣を握っている。
「まだ生きてる女がいると聞いて戻ってきてみたが、女の代わりに金目のものができあがってやがる。おいガキ、その馬車はお前のものか?」
俺が黙っていると、スキンヘッドは地面に唾を吐いた。
「だんまりか。まあいいさ。もう一度バラせばいいことだ。ガキは――そうだな、なかなかイイ面してるから、殺さずに連れていくとするかね」
――お前らにカオを褒められても嬉しくも何ともない。
俺の反抗的な表情で逆に興が乗ったのか、スキンヘッドの男はわざわざ笑顔まで浮かべて言った。
「安心しなー。お前みたいな野郎でも需要ってもんがあるんだ。俺たち優しいだろう? よかったなぁ、ん?」
スキンヘッドの後ろで仲間の野盗たちが笑っている。
ああ反吐が出る。
『ラクター様。お逃げください。彼らは危険です』
アルマディアが警告してきた。
『馬車を襲った者たちです。しかも相手の数が多い。ラクター様はまだ【楽園創造者】の力に目覚めて間がありません。ここはお逃げを』
「アルマディア。奴らがあんたを馬車の下敷きにしたんだな?」
彼女の警告をさえぎり、問いかける。
同時に、護身用のナイフを取り出した。野盗たちの表情が険しくなる。
アルマディアが慌てた。
『まさか、迎え撃つおつもりですか!?』
「ああ。奴隷として売った勇者たちも大概だが、あいつらもあんたを一度は見捨てたんだ。しかもまだ、分捕ろうとしてやがる。ああいう奴に好き放題されるのはもう御免なんだよ」
『勝算が、あるのですか?』
「たぶんな。いま、思いついた」
先頭のスキンヘッドが近づいてきた。他の野盗たちも俺の逃げ道を塞ぐように走り出す。
スキンヘッドが突然、雄叫びをあげる。それが奴らの合図だった。
野太い声で相手が怯んだ隙に、いっせいに襲う。慣れた手口だった。
『ラクター様ッ!』
「もっと近づいてこい」
俺はつぶやき、同時に胸の奥に意識を向けた。
馬車を生まれ変わらせた神力の流れ。それを思い出す。再現する。
――楽園創造。
光の粒子が、俺を中心とした同心円状に広がる。
野盗たちがひるんだ。その隙に、肉薄していた一人のアゴに掌底を叩き込む。
扱いはさんざんだったが、こっちは勇者パーティで揉まれた経験があるんだよ。
それに――。
「ちっ、ガキめ! 虚仮威しかっ、クソ生意気な!」
自分たちの身体になんの変化もないと気付いたスキンヘッドたちは、激昂して武器を振り上げた。
四方から剣が襲う。
俺はそれらを、無防備に食らった。
――甲高い音が、した。
「な……にっ!?」
スキンヘッドが息を呑む。奴は、折れて使い物にならなくなった剣を見て驚いている。
俺は口角を引き上げた。
思ったとおりだ。
今このとき、ここは俺だけが無敵の楽園に変化した。
知っているか、野盗ども。
俺は元々、人が苦手なんだ。
特に、お前らみたいなゲスな野郎は嫌いなんだよ。
「さあ、ここからずっと俺のターンだ」
反撃、開始。
◆◇◆
数十分後――。
俺は街道から離れた森の中で、清流の水を飲んでいた。
「ふう。だいぶ楽になった」
『大丈夫ですか、ラクター様』
「ああ、平気だ。神力切れって結構キツいのな」
俺は胸に手を当てながら苦笑した。
――野盗どもの襲撃。
【楽園創造者】の力により、俺に一方的にやられるだけとなった奴らは、形勢不利を悟るなり脱兎のごとく逃げ出した。
命あっての物種、ということだろう。まあ、懸命な判断だと思う。
捨て台詞もナシだったのは徹底しているなと逆に感心してしまった。
奴らの判断が早かったおかげで、俺は神力切れでへたり込む姿を見せずに済んだ。あれはマジにキツイ。インフルエンザに船酔いが合体したみたいだった。
「しかし助かったよ。アルマディアが代わりに俺の身体を動かしてくれなかったら、あのキラキラ馬車の中でぶっ倒れてるしかなかった。あんな目立つところに留まっているのは危険だったからな」
『お役に立ててよかったです』
アルマディアはほっとしていた。
彼女が言うには、あのときの俺が意識朦朧だったので全身を代わりに動かすことができたらしい。通常は俺の意識が邪魔をして、うまくいかないのだとか。
『それにしてもラクター様はすごいですね。まさか、【楽園創造者】の力をあんな風に使うなんて』
「ま、咄嗟の思いつきにしてはうまくいったな」
あのとき俺が創り出した『楽園』――それは、効果範囲にいる間だけ俺自身をあらゆる攻撃から守るというものだった。俺だけ絶対無敵な空間というやつだ。なんて中二的な響き。今、思い出すと背筋がゾワゾワする。
イメージが大雑把すぎてうまくいくか正直五分五分だったが、野盗を殴り返したときに痛みがまったくなかったのを知って成功を確信した。あとは「ずっと俺のターン」だ。
【楽園創造者】。すごい力だ。
とはいえ、まだまだ不安定なところもある。
最初に馬車を再生させた『楽園』はしばらく効果が続いていたが、俺を絶対無敵にする『楽園』の方は神力切れを起こすと同時に消えてしまった。
アルマディア曰く、『一言で言えば経験不足』とのこと。
これからもっとたくさんの楽園を創っていけば、おのずと力も安定してくると彼女は言った。
今後はもう少し考えて力を使おうと思う。
『ラクター様。あんな『怖い』力の使い方はどうか控えてくださいな』
「前言撤回、かな?」
『そうです。前言撤回です。心配で仕方ありません』
もし身体があったなら、アルマディアは頬を膨らませていただろう。
俺は表情を引き締めた。
「そうも言ってられない。これから、アルマディアの眷属を救わなきゃいけないからな」
『ラクター様……』
森の奥を見つめる。
さっきの野盗たちが逃げ込んだ先。
そこは、アルマディアの眷属たちが暮らす領域のすぐ近くなのだという。
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