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第29話 大精霊ルウ
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――いやー、うん。一言、すげえわ。それしか出てこない。
どっちかって言うと、これまで他人の見た目をどうこう言うのが苦手だった俺でもさ、さすがにコレは、アレだよ。
特に胸が。
「すげ」
『ラクター様?』
女神アルマディアの一言で我に返る。たぶん、さっきまで俺が考えていたことは筒抜けだろう。事実だから仕方ないけどさ、でもやっぱり仕方ないじゃんアレは!
気を取り直して、彼女について。
カリファ大神木の大精霊は、女性の姿をしていた。
腰くらいまである薄緑色の髪に、大神木のオーラを表したような金色のメッシュが入っている。
おっとりした印象を与える目。瞳の色は水色だ。
白磁の肌に、大神木の幹と同じ色合いの茶色系貫頭衣を身につけている。本来はゆったりしたシルエットの衣装なのだが、大精霊の身体のメリハリがすごすぎて逆にゆったりとは見ていられない姿になっている。
特に胸が。
「すげ」
「主様、あの精霊の胸、すごく重そうだね。リーニャ、速く動きたいから自分の胸は今くらいがいい。主様はどう?」
隣に寄り添ったリーニャがドストレートな上に返答に困る質問をぶつけてきた。
まだ白い目で見られた方が追い詰められずに済んだかもしれない。
あと胸を押しつけるな。
『イリス姫様がここにいたら、ショックで泣いてしまうかもしれません』
「姫様の名誉のために言うが、あの人もじゅうぶん魅力的だからな? 頼むから俺とともに黙れ」
――大精霊がゆっくりとこちらに歩いてくる。
表情に敵意はない……どころか、まるで子どもでも見るような慈愛の微笑みを浮かべている。
俺は短く息を吐いた。頭ん中のアレコレを一度蹴り出し、改めてたずねる。
「あんたが、この大神木に宿る大精霊か?」
「はい~。ようこそ~、いらっしゃいましたぁ」
膝から崩れ落ちるかと思った。
な、なんて眠くなるような喋り方だ。
今の俺はGP枯渇でバテてる分、かなり堪える。
「わたしは、ルウと申します~。どうぞルウとお呼びください~……あら? 同じかしら?」
「お、俺はラクター。ラクター・パディントンだ。こっちはリーニャ。神獣オルランシアの現長だ」
「にゃ。リーニャだよ」
「にゃ~」
……つ、疲れる。なんだこの悠久の時を感じるようなのんびりした雰囲気は。
いや、むしろぴったりなのか。
大神木がいつからここにあるのか知らないが、少なくとも俺やリーニャよりもはるかに長生きだろう。ひとつの場所に根付いて遙かな時を森とともに生きる――時間感覚が人間と違うのもありうる話だ。
ルウと名乗った大精霊は、微笑みを絶やすことなく、その場で淑やかに礼をした。
「こうしてお話しするのは、初めてですね~。よろしくお願いいたします、女神アルマディア~」
『こちらこそ。今は訳あって、このラクター・パディントン様とともに在ります。以後、お見知りおきください』
アルマディアが丁寧に礼を返す。
女神の存在を俺の中から看破したことといい、すでに名前を知っていた上に呼び捨てにしたことといい、実は結構な大物なのか。この大精霊。
――気がつくと、魂動物を含めた生き物たちが周囲に集まってきていた。
大精霊ルウは、側に寄ってきた魂動物の頭を優しく撫でた。その様子はまるで一種の宗教絵画のようだ。
彼女は分け隔てなく一匹一匹の頭を撫でていき――って、おい待て。この場にいる全員の頭を撫でて回る気か!?
「ちょっと待ってくれ、ルウ! ストップ、ストップだ」
「はい~?」
「先に質問したい。俺たちがここに来た目的にも関係している」
本題を切り出す。ルウの表情は変わらない。
「今、カリファの聖森林全体に起きている異変。あんたは心当たりがあるか?」
「はい~」
「……」
「……」
「……ん? それだけ?」
「はい~?」
「……。次。あんたはこの大神木の具現化だと思う。あんた自身にも、なにか異変が起きているのか?」
「はい~」
「……」
「……」
俺は心の中でアルマディアに語りかけた。
――おい。もしかして全部この調子で一つひとつ聞いていかないといけないのか?
『根掘り葉掘りですね。木の精霊だけに』
――お前にもし身体が残っていたらはたき倒していたところだ。
いかん。ペースが乱れて頭が働かない。
GP枯渇の後遺症がまだ残っているか。
とりあえず、まずはどこかで休ませてもらうのが先かもしれない。
「お疲れのようですね~」
気がつくと、すぐ目の前までルウが近づいていた。
並んで立つと、俺と目線がほぼ一緒。本体もでかいが、精霊状態でも上背がある。
「そうだな。まずはどこか休めるところが――むぐっ!?」
「どうぞ~」
おっとりとした口調のまま、ルウは俺を抱きしめた。
とんでもない凶器とも言えそうな胸に、俺の頭を押しつける。
反射的に離れようとした俺だが、できなかった。
ルウの力が強いわけではない。少し腕を伸ばせば簡単に振りほどけるだろう。
だが――なんだ、これは。
まるで温泉に浮かんでいるような、圧倒的な心地よさ。
一気に意識が持っていかれそうになる。
『GP、急速に回復。これは、睡眠を上回る回復力です。……ラクター様、聞こえていますか?』
「……」
やべぇ、の一言すら口にできない。
半分遠のいた意識の片隅で、アルマディアがリーニャへ呼びかける声を聞く。
『リーニャ、身体能力とは素早く動けることだけではありません。覚えておくとよいでしょう。これこそ人間を癒やし、虜にする力……包容力です』
「おお、包容力!」
「ほうようりょく~」
――今のアホなやり取りで完全に気が抜けた俺は、本日二度目のブラックアウトを味わった。
どっちかって言うと、これまで他人の見た目をどうこう言うのが苦手だった俺でもさ、さすがにコレは、アレだよ。
特に胸が。
「すげ」
『ラクター様?』
女神アルマディアの一言で我に返る。たぶん、さっきまで俺が考えていたことは筒抜けだろう。事実だから仕方ないけどさ、でもやっぱり仕方ないじゃんアレは!
気を取り直して、彼女について。
カリファ大神木の大精霊は、女性の姿をしていた。
腰くらいまである薄緑色の髪に、大神木のオーラを表したような金色のメッシュが入っている。
おっとりした印象を与える目。瞳の色は水色だ。
白磁の肌に、大神木の幹と同じ色合いの茶色系貫頭衣を身につけている。本来はゆったりしたシルエットの衣装なのだが、大精霊の身体のメリハリがすごすぎて逆にゆったりとは見ていられない姿になっている。
特に胸が。
「すげ」
「主様、あの精霊の胸、すごく重そうだね。リーニャ、速く動きたいから自分の胸は今くらいがいい。主様はどう?」
隣に寄り添ったリーニャがドストレートな上に返答に困る質問をぶつけてきた。
まだ白い目で見られた方が追い詰められずに済んだかもしれない。
あと胸を押しつけるな。
『イリス姫様がここにいたら、ショックで泣いてしまうかもしれません』
「姫様の名誉のために言うが、あの人もじゅうぶん魅力的だからな? 頼むから俺とともに黙れ」
――大精霊がゆっくりとこちらに歩いてくる。
表情に敵意はない……どころか、まるで子どもでも見るような慈愛の微笑みを浮かべている。
俺は短く息を吐いた。頭ん中のアレコレを一度蹴り出し、改めてたずねる。
「あんたが、この大神木に宿る大精霊か?」
「はい~。ようこそ~、いらっしゃいましたぁ」
膝から崩れ落ちるかと思った。
な、なんて眠くなるような喋り方だ。
今の俺はGP枯渇でバテてる分、かなり堪える。
「わたしは、ルウと申します~。どうぞルウとお呼びください~……あら? 同じかしら?」
「お、俺はラクター。ラクター・パディントンだ。こっちはリーニャ。神獣オルランシアの現長だ」
「にゃ。リーニャだよ」
「にゃ~」
……つ、疲れる。なんだこの悠久の時を感じるようなのんびりした雰囲気は。
いや、むしろぴったりなのか。
大神木がいつからここにあるのか知らないが、少なくとも俺やリーニャよりもはるかに長生きだろう。ひとつの場所に根付いて遙かな時を森とともに生きる――時間感覚が人間と違うのもありうる話だ。
ルウと名乗った大精霊は、微笑みを絶やすことなく、その場で淑やかに礼をした。
「こうしてお話しするのは、初めてですね~。よろしくお願いいたします、女神アルマディア~」
『こちらこそ。今は訳あって、このラクター・パディントン様とともに在ります。以後、お見知りおきください』
アルマディアが丁寧に礼を返す。
女神の存在を俺の中から看破したことといい、すでに名前を知っていた上に呼び捨てにしたことといい、実は結構な大物なのか。この大精霊。
――気がつくと、魂動物を含めた生き物たちが周囲に集まってきていた。
大精霊ルウは、側に寄ってきた魂動物の頭を優しく撫でた。その様子はまるで一種の宗教絵画のようだ。
彼女は分け隔てなく一匹一匹の頭を撫でていき――って、おい待て。この場にいる全員の頭を撫でて回る気か!?
「ちょっと待ってくれ、ルウ! ストップ、ストップだ」
「はい~?」
「先に質問したい。俺たちがここに来た目的にも関係している」
本題を切り出す。ルウの表情は変わらない。
「今、カリファの聖森林全体に起きている異変。あんたは心当たりがあるか?」
「はい~」
「……」
「……」
「……ん? それだけ?」
「はい~?」
「……。次。あんたはこの大神木の具現化だと思う。あんた自身にも、なにか異変が起きているのか?」
「はい~」
「……」
「……」
俺は心の中でアルマディアに語りかけた。
――おい。もしかして全部この調子で一つひとつ聞いていかないといけないのか?
『根掘り葉掘りですね。木の精霊だけに』
――お前にもし身体が残っていたらはたき倒していたところだ。
いかん。ペースが乱れて頭が働かない。
GP枯渇の後遺症がまだ残っているか。
とりあえず、まずはどこかで休ませてもらうのが先かもしれない。
「お疲れのようですね~」
気がつくと、すぐ目の前までルウが近づいていた。
並んで立つと、俺と目線がほぼ一緒。本体もでかいが、精霊状態でも上背がある。
「そうだな。まずはどこか休めるところが――むぐっ!?」
「どうぞ~」
おっとりとした口調のまま、ルウは俺を抱きしめた。
とんでもない凶器とも言えそうな胸に、俺の頭を押しつける。
反射的に離れようとした俺だが、できなかった。
ルウの力が強いわけではない。少し腕を伸ばせば簡単に振りほどけるだろう。
だが――なんだ、これは。
まるで温泉に浮かんでいるような、圧倒的な心地よさ。
一気に意識が持っていかれそうになる。
『GP、急速に回復。これは、睡眠を上回る回復力です。……ラクター様、聞こえていますか?』
「……」
やべぇ、の一言すら口にできない。
半分遠のいた意識の片隅で、アルマディアがリーニャへ呼びかける声を聞く。
『リーニャ、身体能力とは素早く動けることだけではありません。覚えておくとよいでしょう。これこそ人間を癒やし、虜にする力……包容力です』
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「ほうようりょく~」
――今のアホなやり取りで完全に気が抜けた俺は、本日二度目のブラックアウトを味わった。
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