やっぱりねこになりたい

JUN

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学兵初の戦死者

 1年生が学校行事として、自衛隊へ合同訓練に行き、生徒達は自覚が芽生えた。ということは表面上はなかった。それでも、自分達とは違う規律の厳しさなどに考えるものはあり、甘えは多少、息を潜める。
 これは去年の、現2年生でも同じだった。
 そして来年になる頃には、それなりに大人になるのだろう。
「世間の同じ年の子は、まだ子供で許されてるのにな」
 原田はコーヒーを啜り、そう言った。
 服部は「キャンプ」の報告書を書き上げ、ペンを放り出すと、伸びをしてタバコをくわえた。
「仕方ないだろう。そういうご時世だ」
「禁煙だぞ」
「代わりに禁酒だ」
 言って、ライターでタバコに火を点けた。
「全く。
 お前は、子供が戦場に立つなんて反対するやつだったのにな」
 原田が言うのに、服部が冷笑を浮かべた。
「仕方ないだろう?悪魔を葬るのに、そのガキの手を借りるしかないんだから。俺がこの手でできるのなら、とっくにそうしてる」
「だからあいつらを利用してやるって?」
 原田が言うのに、服部は何かを言いかけ、肩を竦めて自嘲するように笑った。
「その通りだ」
 それに原田も自嘲するように笑う。
「ま、大人全員がそうなんだけどな」
 そして、表情を真面目なものに変えた。
「でもな。後から後悔するような事はするなよ」
「……手遅れだろ?ガキを無理矢理兵士に仕立て上げて前線に立たせてる時点で。
 それでも俺は、死んで地獄に落ちてもいい。悪魔を全滅させられるなら、ガキを兵士に仕立てて、何人でも前線に送り込むぜ。使えるやつは、とことん利用させてもらう。悪魔を殺せってな」
「それは、添島正敏の事か」
 原田は表情を険しくし、服部は表情を硬くした。
 その時、ドアがノックされて、2人はややホッとして言い争いを中断した。
「はい?」
「失礼します」
 入って来たのは、悠理と均だった。
「服部先生、ちょっとテレビ貸してください」
 服部と原田は、悠理にそう言われて頭の中でその言葉を繰り返した。
「テレビ?え?」
 原田が訊き返した時には、均がテレビのスイッチを点けに行っている。
「娯楽室のテレビは誰かが見てるから。ここの方がリラックスできるし」
 悠理はそう言って、椅子に座ってくつろぐ態勢に入っている。
「は?普通は教官室でリラックスはせんだろう?」
 原田がやや焦ったように言うのに、悠理は首を傾けて考えながら、
「何と言うか……いつも疲れ切ったような雰囲気とか、黄色い太陽を拝んでそうな所とかが、親近感がわくというか。あと大学時代の――だい、たい、学校時代の友人によく似ているし」
と言い、原田は目を丸くして服部を見、服部は嘆息して天井を見上げた。
「大学?」
「言い間違えです」
「で、その友人とはよく遊んだのか」
「そうですねえ。夜通し宇宙ロケットのエンジンについて話し合ったり、他に高度な知能を持つ生命体はいないのか、UFOは信じられるか、なんて事を飲みながら議論したり」
 服部は静かに訊く。
「何を飲んで?」
「ビ――びん牛乳とか?コーヒーとか?」
 服部は悠理をじっと探るように見ていたが、肩の力を抜いて、
「ビールって言いそうになっただろ、お前。それになんか、俺の事ディスってるよな?チッ」
と舌打ちした。
「そんな事無いですよ?同志ですよ、同志。栄養剤で生き延びた事があるクチでしょう?」
「……敷島。お前の過去に何があったんだ?」
 原田は悠理を凝視した。
 と、テレビが点いて高校野球が流れ出した。
「今日、俺が友達と行きたかった高校の試合なんですよ。勝てば甲子園で」
 均が申し訳なさそうに言いながら、悠理の隣に来た。
 服部と原田は、少し切ない顔をした。
「地方の強豪でもない高校の試合ですからね。見たがる人もいないし」
 均は言いながら、食い入るような目をテレビに向けた。試合は9回裏。攻撃は均の友人のいない方で、点を入れられたら負けが決定する。
「打つなー、打つなー」
 悠理が念を送る。
 と、ニュース速報が流れた。
《本日午前11時。九州地方での戦いで、国立特殊技能九州訓練校2年生宮川章良さんが死亡、同2年南里洋子さんが重症。学兵初の戦死者が出ました》
 そのテロップに、全員の目が釘付けになる。球を打つカーンという音が聞こえたが、誰も何も言わず、テロップを何度も読み返して読み間違いがないか確認していた。


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