青い石

JUN

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水辺の悪魔

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「水辺の悪魔?」
 その噂は、獲った獲物を売りに行った町で小耳に挟んだ。
 獲物を売って、日持ちのする食料などを買い、食堂で食事を摂っていると、声が飛び込んで来たのだ。
「そう!湖の岸辺に立つと、水の中から手が伸びて来て、湖に引きずり込まれるのよぉ」
「湖って、外れにある、あれでしょ?」
「そう。昔の合戦で死んだ兵士が今も底に沈んでいるとか言うし」
「地震で村が沈んだとも聞いたわ」
「え、じゃあ、そのどっちかの幽霊なの?」
「引きずり込むんだから、ゾンビかも」
 若い女の子達はそう言って
「こわあい」
と声を揃わせて言うと、すぐに別の話題に夢中になった。
 スレイ、セイ、レミは、額を寄せて小声でかわした。
「聞いたか、今の」
「ああ。もしかしたら」
「落ち武者?それとも村人?」
「違えよ、レミ。例のアレの影響かも知れねえって事」
「あ、そっか」
 レミはテヘヘと誤魔化すように笑った。
「行ってみるか」
「そうだな。近付いて、もしそうならサンがわかるだろう」
 3人は頷いて、残りのご飯をかきこんだ。
 
 その湖は町外れにあり、日が落ちてからは人も近寄らないようだった。
 誰も来そうにない事を確認して、スレイ達は湖に近付いた。
「どうだ、サン」
【間違いなく、あるな】
 それで、周囲を見る。
 背の高い草に覆われた原っぱは広く、ここから探せと言われたら、気が遠くなりそうだった。

 もっと近くにくれば詳しくわかるかも、とサンが言うのをあてにして、手分けしてその辺の草むらをかき分けて石を探し始めた。
「どこだよお」
「返事して欲しいよぉ」
「石が返事したら怖いだろ」
「なあ、スレイ。いっそこの草を焼き払ったらどうかな」
「だめだよ、セイ。燃え広がって山火事とかになったらどうするのよ」
「火を見て誰かが来たら、石を拾う事ができなくなるかもな」
「ちぇっ」
 言いながら、とにかく探して進んで行く。
 そのうちに、いつのまにかお互いの距離が離れて行っていた。
「どこだろう、もう。で、見付かったらすぐに壊すんだから、割に合わないというか、何というか」
 スレイはぼやいて、一旦上体を起こして腰を反らせた。
 スレイのいる所は、湖から川が流れだしていくところで、川幅は1メートルと狭いが、意外と深い川が草むらの中にいきなりクレバスのようにあるところだった。
「この川の所までで、一旦折り返すか」
 言って、川に沿って探し出す。
 と、その足首に、何かが巻き付いた。

 セイは草をかき分けて探しながら、ブツブツと言っていた。
「もうちょっと範囲を狭めて教えてくれればいいのに。これでなかったら、サンの野郎。除霊してやるぜ。
 ああ、くそ。ゴミを捨てるなよな!」
 探す石の大きさはわからないが、欠片というし、これまでの欠片の大きさからして、大きくても小指1本分の半分程度だろう。
「これ、朝までに終わらなかったら、今夜もまたやるのか?」
 想像して、げっそりとする思いだった。

 レミは鼻歌まじりに草むらをかき分けていた。
 別に機嫌がいいわけではなく、黙っていると怖いからだ。それに気も紛れる。
「ふんふふーん――あ。四葉のクローバー見ぃつけた!」
 それを大事そうに摘み、ハッと我に返った。
「いけない、いけない」
 そしてまた、草むらをかき分け始める。
 そんなレミとセイは、その声にハッと立ち上がった。
「スレイ!?」

 スレイはいきなり足首を何かに掴まれ、つんのめって転んだ。そしてそのまま、川に引っ張られる。
「うわあ!?」
 草を掴んで抵抗を試みながら、後ろを振り返って、自分の足を掴んでいるものを確認する。
 川の中から上半身を出した生き物だ。
 ヒトにも見えるが、頬の辺りにエラのようなものがあり、手の指の間に薄い膜が見える。
(人か?オタマジャクシか?)
 考えている暇はない。
 しかし、腕を斬らなければ血は出ないし、かけられない。そして腕を斬ろうと思えば、この草を握る手を離さなければならないし、離せば、斬る前に川の中に引きずり込まれるだろう。
「スレイ!?」
 セイとレミの声がしたが、それで引きずり込もうとする力が強まり、スレイはセイとレミが駆けつけてくる前に川の中に引きずり込まれてしまった。



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