青い石

JUN

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神の使徒

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 スレイは、一番先頭、横穴の入り口に自分がいるのに気付いた。
「そうか。
 レミ、やつが襲ってきたら教えてくれ。血を浴びせられないかやってみる。それでセイとレミは、絶対に血がかからないように、下がってて」
「う、うん」
 レミの声に続いて、ゴソゴソと音がし、ぶつけたのか、
「あいたっ」
と声がした。
 スレイはその時を待った。
「来た!」
 それと同時に肩に痛みが走り、叫ぶ。
「爆破!」
 足元でいくつか爆発が起きた。
 そのまま待つと、レミが叫ぶ。
「上!」
 スレイはナイフの刃先を滑らせて、腕を上に振り上げた。
「爆破!」
 壁が一部パラパラと崩れたほか、少年の短い悲鳴が上がった。
 スレイは1歩下がった。
「前!」
 刃先を引き、腕を振る。
「爆破!」
「ギャア!?」
 生暖かい何かがかかり、次いで、バサッバサッと音がした。
「スレイ、これ」
 セイが背後から何かを手渡たそうと進んで来たらしく、背中に当たった。
「たぶん、服だと思う」
 確かに布地なのはわかった。
 スレイは新たに腕を斬ってそれで血を拭き、それを前方に軽く放った。
「発火」
 それがぽう、と燃え上がり、片方の肩から脇腹を爆ぜさせて失った少年が転がっているのが見えた。
 3人は横穴から広場のようになっているそこへ出て、レミはろうそくを見付けて拾いに駆け寄った。
 周囲には羽と小さな瓦礫が転がり、血が方々に飛んでいた。そして改めて自分達の姿を見ると、何度か彼に斬られて、レミは傷を負っている。スレイとセイは、傷はないが服はボロボロだ。
 彼に目を戻した。
 彼は苦しそうな息をしながらも、どこか幸せそうに微笑んでいた。
「神よ。わ、たしは、神の、ため、に……この……から……」
 そこでゴボリと血を吐き、咳込む。
 そして、唐突に静かになった。
 レミが、
「心臓が、停まったよ」
と言った。

 静かに上に戻る。
 地下でバタバタした物音は、どうやら気付かれていないらしかった。
 貸し与えられた部屋へ戻り、無言のまま手当と着替えをして、短い睡眠をとる。隣の部屋の旅人が小声で祈る声も寝言もよく聞こえる事から、部屋の中ではあまり喋らない方がいいとわかったのだ。
 そして、朝早くにそこを発った。

 スレイ達はそこから離れ、川のそばで休憩した。
「あの子、修道士見習いだったのかな」
 レミがポツンと言った。
「そうだね」
「神がどうとか言ってたな」
 セイが言って、鼻を鳴らす。
「神か……」
 ふとスレイが考え込む。
「何だよ、スレイ。まだ神様なんて信じるのかよ」
「いや、いる、いないじゃないんだよ。あの見習いの子にとっては、神はいたんだよ」
 セイとレミがキョトンとした。
「あの子は神を信じてたんだろうね。心から。それで、自発的にか閉じ込められたのかは知らないけど、青い石と一緒にあそこに閉じ込められて、変質した。
 で、苦しい中で思ったんじゃないかな。『これはきっと神の試練だ。これに耐えれば、僕は神の立派な使徒となる』とか」
 それにレミが頷いた。
「ああ!あの姿は、鳥じゃなくて天使ね」
「待てよ。じゃあ、変異の時に考えている事が、能力に関係するのか?」
 セイは目を見開いた。
「わからないけどな。そんな気がして」
 言いながら、スレイは思い出していた。
「俺はあの時、石が怖かったし、変わって行く皆も怖かった。それで、みんな何で変わるんだろうって」
 レミも思い出しながら言う。
「ボクは、ひたすら怖くて苦しくて、逃げ出したかったな。歌を歌っていれば忘れていられると、小さい声で歌ってた。それで、先に死んだ子の下になって周りが見えなかったんだけど、どうなってるかは怖いのに気になって、耳は澄ましてた」
 セイも、低い声で思い出しながら言う。
「俺は、噛みつきに来たやつの歯を見て、噛みちぎられるんじゃないか、毒でも持ってそうだなって」
 それで3人は顔を見合わせた。
「絶対じゃないけど、その時に考えた事が関係するのかもしれないね」
「ボク、飛んで逃げたいと思ってたら、羽が生えてたのかな。あんな風な」
 それに、スレイとセイは首を傾ける。
「ううん。レミの羽かあ。ちょうちょなんじゃないかな?」
「俺は、ニワトリみたいなやつだと思うぜ」
「何でよお!ボクが天使じゃおかしいの!?」
 レミが頬を膨らませ、スレイとセイは笑いながら謝った。
「ごめんごめん、だって、似合いそうだよ?ちょうちょ」
「ニワトリ、似てるだろ?騒がしくてチョロチョロしてて。それにいいじゃねえか。美味いし」
「騒がしくないしチョロチョロしてなあい!」
 それで3人はバタバタと追いかけ合いながら走り出した。


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