青い石

JUN

文字の大きさ
24 / 38

地下墓地

しおりを挟む
 そこに入ってすぐ、湿ったような風が吹いて来るような気がした。窓も明かりもなく真っ暗になるので、用意して来たろうそくに火を付け、レミが持つ。
 大きな棺が置いてあり、そのそばに花がたくさん捧げるように置いてあった。
「これが聖人のミイラ?」
「ミイラってどんなの?」
 あいにく蓋が閉まっているので、中が見えない。セイならいかにも重そうな蓋を外せそうだが、レミが
「ミイラなんて怖いよ。嫌だよ」
と言うので、少し興味のあったスレイもセイも、ミイラを見るのは断念した。
 工事をしたというのはこの部屋の事らしく、壁がやたらときれいだ。そしてその奥の地下墓地へ続く入り口には鍵のかかった鉄格子がはまっていた。
 錆も埃も傷もなく、鍵も新しそうに見えた。
「鉄格子?」
「何か、ここに閉じ込めてるみたいだな」
 スレイが言うのに、レミがビクリとした。
「な、何を?」
「お化けとか」
「ひいっ!」
 セイがからかってレミが飛び上がる。
「行くよ。もし実験をしているのなら、ここは人も来ないしピッタリだ」
 鍵を壊し、気を付けながら、そろそろと進んだ。
 ろうそくの灯りでできた影がゆらゆらと揺れ、時々それに、ひやりとする。
「地下って、こんな風になってたんだな」
 セイが囁きながら辺りを眺めまわした。
 棺のあった部屋は普通の部屋だったが、その奥に行くと、急に床も壁も天井も、いかにも地面を掘り進んだだけという岩肌になった。そしてゆっくりと下って行くらせん状の坂道を中心に、所々横穴があり、その横穴に人骨が並べられていた。
 横穴の奥行はそれぞれだが、それでも横穴1本に何十体もの人骨が眠っている。
 そしてとうとう、一番下まで辿り着いた。そこは少し広い円形の部屋のようになっていて、放射状に横穴が8つ開いていた。
 どの穴にも人骨はなく、そのうちの1本には、引き裂かれて丸められた毛布と何か布の残骸が残っている。
 円形の広場のようになったところの真ん中には小さな箱が置かれ、そこに、小指の半分ほどの大きさの青い石が置いてあった。
「あった」
 スレイはそれに血をかけ、爆破した。
「誰もいないのか?うめき声の主は?」
 穴を覗き込んでいると、レミが鋭い口調で言った。
「何か、ボク達以外にいる!」
 スレイとセイも、緊張した。
 辺りを見回してみるが、暗い中にろうそく1本の灯りでは、よく見えない。
「レミ、どこだよ?」
「んん……近いとは思うんだけど……」
 セイに訊かれてレミが耳をそばだてる。
 そして、斜め前をろうそくで照らす。
 そこに、いつの間にか人が立っていた。見習い修道士の服を着ているが、ボロボロに破れてしまっている。表情はなく、それがどうにも不気味だ。
「あの……」
 セイが言った時、その少年の背中に鳥の羽のようなものがバッと広がったのが見えたが、その一瞬後にはその風でろうそくの火が消え、真の暗闇になった。
「えええ!?どうしよう!?」
 レミの声がわんわんと響く。
「私は神の剣なり!」
 レミの声をかき消すように男の声がし、3人は反射的にしゃがみ込んだが、熱いような痛みを各々腕や肩に感じた。
「痛い!」
「その野郎!」
 セイはナイフを前に突き出し、振ってみたが、空を切るばかりだ。
「あれ?くそ、どこだ!?」
「後ろから!」
 レミの叫びとほぼ同時に、背中に痛みを感じた。
「向こうは見えてるのかよ!」
 セイが悔しそうに言う声がする。
「それに、飛べるのかも」
 スレイが言うので、皆、彼の背中に羽が生えたのを思い出した。
「あいつ、何のつもりなんだ?」
 セイがイライラと言う間にも、再び体に痛みが走る。
「このままじゃいいようにやられるだけだぜ!」
 かたまっていつの間にかジリジリと下がり、横穴に入ったらしい事が、左右に伸ばした手に岩肌が当たってわかった。
「袋のネズミになっちまうぜ!?」
「ろうそく、どこかに行っちゃったぁ!」
(考えろ、考えろ、考えろ)
 セイとレミの声が背後からするのを聞きながら、スレイはナイフを握りしめた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

真実の愛のおつりたち

毒島醜女
ファンタジー
ある公国。 不幸な身の上の平民女に恋をした公子は彼女を虐げた公爵令嬢を婚約破棄する。 その騒動は大きな波を起こし、大勢の人間を巻き込んでいった。 真実の愛に踊らされるのは当人だけではない。 そんな群像劇。

処理中です...