青い石

JUN

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地下墓地

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 そこに入ってすぐ、湿ったような風が吹いて来るような気がした。窓も明かりもなく真っ暗になるので、用意して来たろうそくに火を付け、レミが持つ。
 大きな棺が置いてあり、そのそばに花がたくさん捧げるように置いてあった。
「これが聖人のミイラ?」
「ミイラってどんなの?」
 あいにく蓋が閉まっているので、中が見えない。セイならいかにも重そうな蓋を外せそうだが、レミが
「ミイラなんて怖いよ。嫌だよ」
と言うので、少し興味のあったスレイもセイも、ミイラを見るのは断念した。
 工事をしたというのはこの部屋の事らしく、壁がやたらときれいだ。そしてその奥の地下墓地へ続く入り口には鍵のかかった鉄格子がはまっていた。
 錆も埃も傷もなく、鍵も新しそうに見えた。
「鉄格子?」
「何か、ここに閉じ込めてるみたいだな」
 スレイが言うのに、レミがビクリとした。
「な、何を?」
「お化けとか」
「ひいっ!」
 セイがからかってレミが飛び上がる。
「行くよ。もし実験をしているのなら、ここは人も来ないしピッタリだ」
 鍵を壊し、気を付けながら、そろそろと進んだ。
 ろうそくの灯りでできた影がゆらゆらと揺れ、時々それに、ひやりとする。
「地下って、こんな風になってたんだな」
 セイが囁きながら辺りを眺めまわした。
 棺のあった部屋は普通の部屋だったが、その奥に行くと、急に床も壁も天井も、いかにも地面を掘り進んだだけという岩肌になった。そしてゆっくりと下って行くらせん状の坂道を中心に、所々横穴があり、その横穴に人骨が並べられていた。
 横穴の奥行はそれぞれだが、それでも横穴1本に何十体もの人骨が眠っている。
 そしてとうとう、一番下まで辿り着いた。そこは少し広い円形の部屋のようになっていて、放射状に横穴が8つ開いていた。
 どの穴にも人骨はなく、そのうちの1本には、引き裂かれて丸められた毛布と何か布の残骸が残っている。
 円形の広場のようになったところの真ん中には小さな箱が置かれ、そこに、小指の半分ほどの大きさの青い石が置いてあった。
「あった」
 スレイはそれに血をかけ、爆破した。
「誰もいないのか?うめき声の主は?」
 穴を覗き込んでいると、レミが鋭い口調で言った。
「何か、ボク達以外にいる!」
 スレイとセイも、緊張した。
 辺りを見回してみるが、暗い中にろうそく1本の灯りでは、よく見えない。
「レミ、どこだよ?」
「んん……近いとは思うんだけど……」
 セイに訊かれてレミが耳をそばだてる。
 そして、斜め前をろうそくで照らす。
 そこに、いつの間にか人が立っていた。見習い修道士の服を着ているが、ボロボロに破れてしまっている。表情はなく、それがどうにも不気味だ。
「あの……」
 セイが言った時、その少年の背中に鳥の羽のようなものがバッと広がったのが見えたが、その一瞬後にはその風でろうそくの火が消え、真の暗闇になった。
「えええ!?どうしよう!?」
 レミの声がわんわんと響く。
「私は神の剣なり!」
 レミの声をかき消すように男の声がし、3人は反射的にしゃがみ込んだが、熱いような痛みを各々腕や肩に感じた。
「痛い!」
「その野郎!」
 セイはナイフを前に突き出し、振ってみたが、空を切るばかりだ。
「あれ?くそ、どこだ!?」
「後ろから!」
 レミの叫びとほぼ同時に、背中に痛みを感じた。
「向こうは見えてるのかよ!」
 セイが悔しそうに言う声がする。
「それに、飛べるのかも」
 スレイが言うので、皆、彼の背中に羽が生えたのを思い出した。
「あいつ、何のつもりなんだ?」
 セイがイライラと言う間にも、再び体に痛みが走る。
「このままじゃいいようにやられるだけだぜ!」
 かたまっていつの間にかジリジリと下がり、横穴に入ったらしい事が、左右に伸ばした手に岩肌が当たってわかった。
「袋のネズミになっちまうぜ!?」
「ろうそく、どこかに行っちゃったぁ!」
(考えろ、考えろ、考えろ)
 セイとレミの声が背後からするのを聞きながら、スレイはナイフを握りしめた。





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