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夏休みの終わり
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バイトが休みの今日、僕は朝から、早織ちゃんに引っ張り廻されていた。服等を買いに行きたいらしいが、北倉さんが今日は仕事で、僕に付き合ってくれと電話がかかって来たのだ。
これはどうか、さっきのとどちらが似合うか、と延々と訊かれ、よく疲れないもんだとほとほと感心する。
そう言えば、以前ならきっと、訊かれても答える事ができなかっただろうな。「どっちもいい」なんて言って、舌打ちされていただろうと思う。
早織ちゃんが、あっさりしているからだろうか。僕も変わったんだろうか。
その後も、昼食、映画と遊び歩き、北倉さんの家まで早織ちゃんを送り届けた。
「じゃあ、明日。釣りで」
「釣りで」
僕は家に帰った。
翌日は曇り。カンカン照りよりマシだ。それでも焼けるし、脱水になるので、注意だ。
「今日はアコウーーああっと、キジハタ釣りだ。糸が絡みやすいから、船頭さんの号令で端から順番に入れて行って、順番にあげるんだぞ」
「はい」
「ちなみに、冬のフグ、夏のアコウと言われるくらいの高級魚だ」
「おお・・・!」
「底取りをしっかりとして、底から1、2メートル上をキープ。向こう合わせでいい。追い食いさせる時は、糸を軽く送ってやるんだ」
「はい!」
向こう合わせというのは、放って置けば向こうが呑み込んでけれるという事だ。
高級魚と聞いて俄然やる気が満ちた僕と早織ちゃんだったが、北倉さんも、負けず劣らずその気だ。
「今日も是非とも、勝利の宴と行きたいところだなあ」
「ええ、是非」
僕達は、もの凄いフィッシュイーターなのだ。
朝焼けの中を船は走り、ポイントに着いたところで、スタートとなる。
端の人から順に、船頭さんの合図に従って仕掛けを入れていく。失敗したらチャンスをミスミス逃す事になるので、もの凄く真剣だ。
シュルシュルと糸が出て行き、錘が海底に着底して糸が弛む。ベールを起こして素早く糸ふけをとり、1メートル上まで仕掛けを上げた。
隣をみると、先に入れた早織ちゃんは、竿をゆっくりと上下させている。その向こうの北倉さんは、僕達弟子コンビの様子をチラッと確認していた。
と、急に重くなって竿がしなる。
「おわわっ」
「航平、糸をちょっと送って、ゆっくり」
「航平、逃がしちゃだめよ。晩御飯なんだからね」
手で少し糸を引っ張り出して送ってやる。
「ようし、上げるか」
「はい!」
電動リールをオンにして、巻き上げていく。ドキドキするなあ。
やがて巻き上げが止まり、手巻きで残りを上げていくと、強い引きで抵抗しながらも浮いて来る。
「お、3匹か。まずまずだな。ほれ」
北倉さんの糸の先には、5匹もかかっている。
「凄い!」
「おお、一発目からいいね、北ちゃん」
船頭さんもいい笑顔だ。
「私、ゼロォ」
「まあ、次があるよ」
僕と北倉さんは慰めながら、ホクホク気分で針からアコウを外していった。
次の回は、早織ちゃんもかかったのだが、どうしても追い食いができない。
「何で?」
「引いてばっかりじゃだめなんだよ。送ってやらないと」
北倉さんは言うが、早織ちゃんは、どうしても糸を出すというのが不安なようだ。
僕はふと思った。
「人間も同じだなあ。人に求めてばっかりじゃだめで、人に与える、譲る事も重要で。
まあ、意見を譲りっぱなしでもだめだけどね。おかげで振られたし」
「振られたんだ、航平」
「うっ。春の話だけどね」
僕達は言い合いながらアコウを釣って、早織ちゃんもダブルを成功させて、納竿となった。
クーラーをかけて、鍋と刺身だ。
「パパ、暑い・・・」
「美味いから。鍋に煮付け、酒蒸し、刺身。最高だぜ。クーラーかけてるからいけるって」
土鍋の中で、野菜、豆腐がクツクツと煮えている。
「ようし。じゃあ、アコウも入れようかな」
切り身を入れる。
ゴクリ。
「では。いただきます!」
まずは刺身から。
「美味しい。上品だあ」
「炊いたらまたころっとな。またいいんだ、これが」
「夏に鍋もいいわね」
「だろ。クーラー様様だな」
鍋かあ。明日、とうとう早織ちゃんも帰るし、できて良かった。
夏休みも、とうとう終わりだ。早いもんだなあ。
感慨にふけっている間に、鍋のアコウが炊けたらしい。
「いけそうだぞ」
「じゃあ、早速」
「わ!掴んだだけでプリプリ感がわかる!」
同時に、口に入れる。
「うんまあい!!」
『鍋』
2枚おろしにして切り身にし、野菜、豆腐と炊く。
『酒蒸し』
大きいものなら切り身、小さいものなら一匹を耐熱皿に入れ、酒、しょうゆ、
スライスしたショウガ、みりんをかけて、蒸す。
これはどうか、さっきのとどちらが似合うか、と延々と訊かれ、よく疲れないもんだとほとほと感心する。
そう言えば、以前ならきっと、訊かれても答える事ができなかっただろうな。「どっちもいい」なんて言って、舌打ちされていただろうと思う。
早織ちゃんが、あっさりしているからだろうか。僕も変わったんだろうか。
その後も、昼食、映画と遊び歩き、北倉さんの家まで早織ちゃんを送り届けた。
「じゃあ、明日。釣りで」
「釣りで」
僕は家に帰った。
翌日は曇り。カンカン照りよりマシだ。それでも焼けるし、脱水になるので、注意だ。
「今日はアコウーーああっと、キジハタ釣りだ。糸が絡みやすいから、船頭さんの号令で端から順番に入れて行って、順番にあげるんだぞ」
「はい」
「ちなみに、冬のフグ、夏のアコウと言われるくらいの高級魚だ」
「おお・・・!」
「底取りをしっかりとして、底から1、2メートル上をキープ。向こう合わせでいい。追い食いさせる時は、糸を軽く送ってやるんだ」
「はい!」
向こう合わせというのは、放って置けば向こうが呑み込んでけれるという事だ。
高級魚と聞いて俄然やる気が満ちた僕と早織ちゃんだったが、北倉さんも、負けず劣らずその気だ。
「今日も是非とも、勝利の宴と行きたいところだなあ」
「ええ、是非」
僕達は、もの凄いフィッシュイーターなのだ。
朝焼けの中を船は走り、ポイントに着いたところで、スタートとなる。
端の人から順に、船頭さんの合図に従って仕掛けを入れていく。失敗したらチャンスをミスミス逃す事になるので、もの凄く真剣だ。
シュルシュルと糸が出て行き、錘が海底に着底して糸が弛む。ベールを起こして素早く糸ふけをとり、1メートル上まで仕掛けを上げた。
隣をみると、先に入れた早織ちゃんは、竿をゆっくりと上下させている。その向こうの北倉さんは、僕達弟子コンビの様子をチラッと確認していた。
と、急に重くなって竿がしなる。
「おわわっ」
「航平、糸をちょっと送って、ゆっくり」
「航平、逃がしちゃだめよ。晩御飯なんだからね」
手で少し糸を引っ張り出して送ってやる。
「ようし、上げるか」
「はい!」
電動リールをオンにして、巻き上げていく。ドキドキするなあ。
やがて巻き上げが止まり、手巻きで残りを上げていくと、強い引きで抵抗しながらも浮いて来る。
「お、3匹か。まずまずだな。ほれ」
北倉さんの糸の先には、5匹もかかっている。
「凄い!」
「おお、一発目からいいね、北ちゃん」
船頭さんもいい笑顔だ。
「私、ゼロォ」
「まあ、次があるよ」
僕と北倉さんは慰めながら、ホクホク気分で針からアコウを外していった。
次の回は、早織ちゃんもかかったのだが、どうしても追い食いができない。
「何で?」
「引いてばっかりじゃだめなんだよ。送ってやらないと」
北倉さんは言うが、早織ちゃんは、どうしても糸を出すというのが不安なようだ。
僕はふと思った。
「人間も同じだなあ。人に求めてばっかりじゃだめで、人に与える、譲る事も重要で。
まあ、意見を譲りっぱなしでもだめだけどね。おかげで振られたし」
「振られたんだ、航平」
「うっ。春の話だけどね」
僕達は言い合いながらアコウを釣って、早織ちゃんもダブルを成功させて、納竿となった。
クーラーをかけて、鍋と刺身だ。
「パパ、暑い・・・」
「美味いから。鍋に煮付け、酒蒸し、刺身。最高だぜ。クーラーかけてるからいけるって」
土鍋の中で、野菜、豆腐がクツクツと煮えている。
「ようし。じゃあ、アコウも入れようかな」
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ゴクリ。
「では。いただきます!」
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「美味しい。上品だあ」
「炊いたらまたころっとな。またいいんだ、これが」
「夏に鍋もいいわね」
「だろ。クーラー様様だな」
鍋かあ。明日、とうとう早織ちゃんも帰るし、できて良かった。
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感慨にふけっている間に、鍋のアコウが炊けたらしい。
「いけそうだぞ」
「じゃあ、早速」
「わ!掴んだだけでプリプリ感がわかる!」
同時に、口に入れる。
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