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海の王女
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一晩一緒に過ごした仲だからか、早織ちゃんともすぐに打ち解けて仲良くなった。
「早織ちゃんは、お母さんの再婚に反対して家出して来たの?」
「まあ、そうねえ。何て言うか、それはきっかけかもね。
ママって、計算高いところがあるのね。それに、男に媚びてみっともない。
相手の人は、良く言えば優しいんだけど、ヘラヘラ?ヘナヘナ?そんな感じ」
「ふ、ふうん」
ちょっと、ドキッとした。
「離婚したの、私が小学校を卒業した時なんだけどね。パパが仕事一筋で家庭を顧みなかったからってママは言い立てたんだけど、ママだって浮気してたんだから。
その人とは別れちゃって、今のは別の人だけどね。
ママはとにかく、すぐに男に頼って甘えるの。ちやほやと構ってくれないと、気が済まないの」
「そ、そうなんだ」
相槌に困る。どうしよう。
「パパが可哀そう。好きで会社にこき使われてたんじゃないのにね。それで散々、浪費して浮気までして。
でも、今のパパは、楽しそうで安心したわ。航平のおかげかな」
「え、僕なんて。春に会って、こっちが助けてもらって、いつもお世話になりっぱなしだよ」
「男同士かあ。いいなあ。釣りしたり、料理したりしてたのね」
「へへへ。今日の釣りも楽しみだな」
「たくさん釣れるといいわねえ」
僕達は、期待に胸を躍らせて笑っていた。
エサを見て、早織ちゃんは呆然と呟く。
「聞いてないわ」
今日は波止からのキス釣り。L字型のキス天秤を使い、2本針。エサは青イソメ。つまり、虫だ。ゲジゲジみたいなやつだ。
「これを針にチョン掛けにして、ポイッと入れて、ゆっくりサビキながら手前に引いて来る。合わせはゆっくり目で。
できるだろ?」
「いや、無理よ。虫でしょ?ゲジゲジか足の生えたミミズかみたいなこんなやつ、触れないわよ」
「まあ、たまに噛むけど、そんなに痛いほどでもないぞ」
「そういう問題じゃないの」
北倉さんと早織ちゃんが、親子で言い合っている。
女の子だしなあ。アミエビでサビキとかの方が良かったんじゃないかなあ。
そう思いながら、僕は黙々と準備を進めていく。
「見ろ。弟子1号は平気だぞ」
「男の子でしょ」
「それは偏見だろう?」
「そうだよ、差別だよ」
「ウッ。男2人で結託した!」
「キス、美味いんだがなあ。海の王女様と言われてるんだぞ」
「虫を食べるんでしょ」
早織ちゃんは嫌そうな顔を、北倉さんは残念そうな顔をして、北倉さんが折れた。
「仕方ない。エサは付けてやるから」
「虫を食べるんでしょ」
まだこだわっている。
「鳥だってミミズを食うぞ」
「やめて」
結局、早織ちゃんは気が進まないながらも、エサをつけてもらいながら釣る事にしたようだ。
3人並んで、竿を出す。
底を感じながら、引く。
ガタガタしたような手ごたえの中、ググッと引っかかる。
「お」
ん?あれ?
「根がかりでした」
「底は取れてるってことだから、怖がるなよ、航平。後は、手を止めないようにな」
「はい」
幸い、引いたり糸を緩めたりしていたら針が外れてくれたので、そのまま回収して、エサと針をチェックだ。針が曲がって、かかり難くなっていることがあるのだ。
一番に釣り上げたのは、やっぱり北倉さんだった。
「ようし、よし、よし」
30センチになろうかというキス、「肘叩き」だ。きれいなパールピンクの魚体は、確かに王女様だ。
「きれいねえ。虫を食べてるわりには」
「・・・よっぽど嫌なんだな、虫が」
北倉さんは苦笑していた。
「さあ、どんどん釣ってくれよ」
引いて、引いて、引いた時、今度はさっきとは違う、ビクビクッとした引きが来た。
「良しっ」
完全に食った感触で合わせ、引く。
「おお、ダブルだ!」
2匹かかった事を言う。3匹ならトリプル。5本針で5本とも等の時は、パーフェクトだ。
2本針で2匹だからパーフェクトには違いないが、まあ、ダブルだな。
「悔しい」
早織ちゃんはやる気になったらしく、猛然とやり始めた。
「エサが取れたわ。付けて」
虫エサはダメみたいだったけど・・・。
ウロコを取って、内臓を出して、調理だ。
家では料理をしていないらしい早織ちゃんも、ここで料理を北倉さんから教わって、随分慣れて来たみたいだ。
天ぷら、刺身、3色洗い造り。早織ちゃんの炊いたご飯と味噌汁もある。
「いただきます!ああ、美味しい・・・!」
「ううん、美味い!サバとキスを生で食えるのは、釣り人の特権だぜ」
「3色って、きれい。インスタ映えしそう。私はしてないけど」
わいわい言いながら、箸を進める。
「どうだ。美味いだろ?」
ニヤリと北倉さんが笑う。
「悔しいけど、そうね。虫を食べたのに、きれいだし美味しいわ。淡泊で上品。海の王女も頷けるわね」
北倉さんは笑って、
「何でも、第一印象だけで決めつけたらだめだって事だな」
と言い、
「ご飯に洗いを乗せてお茶漬けにしても最高なんだぞ」
と笑った。
『キスの天ぷら』
ウロコを取ったキスの、背びれの付け根から骨に沿って包丁を入れて、エラの
後ろから尻尾まで、滑らせていく。上側と下側の身が腹側でつながったまま、
下の身も同様に骨から外す。そして、尻尾の付け根で背骨を切ったら。開きの
完成だ。これに衣をつけてサッと、カリッとあげると、中がふわふわの天ぷら
のできあがりだ。塩、抹茶塩などが美味しい。
衣を卵を泡立てたものに変えてフリッターにしてもいいし、衣に炭酸をいれる
と天ぷらがカリッと軽くなる。
『3色洗い造り』
キスを普通の刺身と同様、3枚におろして皮をはぎ、細い斜め切りにする。そ
れを、濃い口しょうゆ1+昆布だし5に漬ければ茶色、梅干しの裏ごし1+昆
布だし5に漬ければ赤色、好みの配合の抹茶+昆布だしに漬ければ緑色に。漬
け込む時間は2分ほど。水気を切って盛りつける。
「早織ちゃんは、お母さんの再婚に反対して家出して来たの?」
「まあ、そうねえ。何て言うか、それはきっかけかもね。
ママって、計算高いところがあるのね。それに、男に媚びてみっともない。
相手の人は、良く言えば優しいんだけど、ヘラヘラ?ヘナヘナ?そんな感じ」
「ふ、ふうん」
ちょっと、ドキッとした。
「離婚したの、私が小学校を卒業した時なんだけどね。パパが仕事一筋で家庭を顧みなかったからってママは言い立てたんだけど、ママだって浮気してたんだから。
その人とは別れちゃって、今のは別の人だけどね。
ママはとにかく、すぐに男に頼って甘えるの。ちやほやと構ってくれないと、気が済まないの」
「そ、そうなんだ」
相槌に困る。どうしよう。
「パパが可哀そう。好きで会社にこき使われてたんじゃないのにね。それで散々、浪費して浮気までして。
でも、今のパパは、楽しそうで安心したわ。航平のおかげかな」
「え、僕なんて。春に会って、こっちが助けてもらって、いつもお世話になりっぱなしだよ」
「男同士かあ。いいなあ。釣りしたり、料理したりしてたのね」
「へへへ。今日の釣りも楽しみだな」
「たくさん釣れるといいわねえ」
僕達は、期待に胸を躍らせて笑っていた。
エサを見て、早織ちゃんは呆然と呟く。
「聞いてないわ」
今日は波止からのキス釣り。L字型のキス天秤を使い、2本針。エサは青イソメ。つまり、虫だ。ゲジゲジみたいなやつだ。
「これを針にチョン掛けにして、ポイッと入れて、ゆっくりサビキながら手前に引いて来る。合わせはゆっくり目で。
できるだろ?」
「いや、無理よ。虫でしょ?ゲジゲジか足の生えたミミズかみたいなこんなやつ、触れないわよ」
「まあ、たまに噛むけど、そんなに痛いほどでもないぞ」
「そういう問題じゃないの」
北倉さんと早織ちゃんが、親子で言い合っている。
女の子だしなあ。アミエビでサビキとかの方が良かったんじゃないかなあ。
そう思いながら、僕は黙々と準備を進めていく。
「見ろ。弟子1号は平気だぞ」
「男の子でしょ」
「それは偏見だろう?」
「そうだよ、差別だよ」
「ウッ。男2人で結託した!」
「キス、美味いんだがなあ。海の王女様と言われてるんだぞ」
「虫を食べるんでしょ」
早織ちゃんは嫌そうな顔を、北倉さんは残念そうな顔をして、北倉さんが折れた。
「仕方ない。エサは付けてやるから」
「虫を食べるんでしょ」
まだこだわっている。
「鳥だってミミズを食うぞ」
「やめて」
結局、早織ちゃんは気が進まないながらも、エサをつけてもらいながら釣る事にしたようだ。
3人並んで、竿を出す。
底を感じながら、引く。
ガタガタしたような手ごたえの中、ググッと引っかかる。
「お」
ん?あれ?
「根がかりでした」
「底は取れてるってことだから、怖がるなよ、航平。後は、手を止めないようにな」
「はい」
幸い、引いたり糸を緩めたりしていたら針が外れてくれたので、そのまま回収して、エサと針をチェックだ。針が曲がって、かかり難くなっていることがあるのだ。
一番に釣り上げたのは、やっぱり北倉さんだった。
「ようし、よし、よし」
30センチになろうかというキス、「肘叩き」だ。きれいなパールピンクの魚体は、確かに王女様だ。
「きれいねえ。虫を食べてるわりには」
「・・・よっぽど嫌なんだな、虫が」
北倉さんは苦笑していた。
「さあ、どんどん釣ってくれよ」
引いて、引いて、引いた時、今度はさっきとは違う、ビクビクッとした引きが来た。
「良しっ」
完全に食った感触で合わせ、引く。
「おお、ダブルだ!」
2匹かかった事を言う。3匹ならトリプル。5本針で5本とも等の時は、パーフェクトだ。
2本針で2匹だからパーフェクトには違いないが、まあ、ダブルだな。
「悔しい」
早織ちゃんはやる気になったらしく、猛然とやり始めた。
「エサが取れたわ。付けて」
虫エサはダメみたいだったけど・・・。
ウロコを取って、内臓を出して、調理だ。
家では料理をしていないらしい早織ちゃんも、ここで料理を北倉さんから教わって、随分慣れて来たみたいだ。
天ぷら、刺身、3色洗い造り。早織ちゃんの炊いたご飯と味噌汁もある。
「いただきます!ああ、美味しい・・・!」
「ううん、美味い!サバとキスを生で食えるのは、釣り人の特権だぜ」
「3色って、きれい。インスタ映えしそう。私はしてないけど」
わいわい言いながら、箸を進める。
「どうだ。美味いだろ?」
ニヤリと北倉さんが笑う。
「悔しいけど、そうね。虫を食べたのに、きれいだし美味しいわ。淡泊で上品。海の王女も頷けるわね」
北倉さんは笑って、
「何でも、第一印象だけで決めつけたらだめだって事だな」
と言い、
「ご飯に洗いを乗せてお茶漬けにしても最高なんだぞ」
と笑った。
『キスの天ぷら』
ウロコを取ったキスの、背びれの付け根から骨に沿って包丁を入れて、エラの
後ろから尻尾まで、滑らせていく。上側と下側の身が腹側でつながったまま、
下の身も同様に骨から外す。そして、尻尾の付け根で背骨を切ったら。開きの
完成だ。これに衣をつけてサッと、カリッとあげると、中がふわふわの天ぷら
のできあがりだ。塩、抹茶塩などが美味しい。
衣を卵を泡立てたものに変えてフリッターにしてもいいし、衣に炭酸をいれる
と天ぷらがカリッと軽くなる。
『3色洗い造り』
キスを普通の刺身と同様、3枚におろして皮をはぎ、細い斜め切りにする。そ
れを、濃い口しょうゆ1+昆布だし5に漬ければ茶色、梅干しの裏ごし1+昆
布だし5に漬ければ赤色、好みの配合の抹茶+昆布だしに漬ければ緑色に。漬
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