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花を食べる死体
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その公園には桜の木が1本だけ植わっている。大きくて見事な枝ぶりの桜だが、1本だけなので、近所の人が散歩がてら眺めたりする程度だ。一番よく見ているのは、遊びに来る幼稚園児か、毎朝の散歩コースに公園を入れている近所の人だろうか。
却って、人で混んだり、宴会でうるさくなったりしないでいい。そう、近所の人達は思っていた。
今日も、近所に住む高齢者夫婦が朝の散歩で公園に足を踏み入れた。
「今年も桜はもうおしまいですねえ」
「今年も楽しませてもらったなあ」
満開をわずかに過ぎた桜を見ながら近付いて行くと、それが目に入った。
サラリーマンらしい服装の人が、桜の木の根元に寝ころんでいる。
「宴会で飲み過ぎて、ここで寝てしまった人かしらね」
少ないが、ここで花見の宴会をするグループも無い事はない。
「だらしがないな、全く」
老夫婦は軽く溜め息をついて、起こそうかと近付いた。
そこで、異変に気付いた。
その人物は不自然な感じに白い顔色で、目を見開き、胸の上に組んだ手で桜の枝を握っている。そして、大きく開けた口いっぱいに、桜の花びらを詰め込んでいたのだ。
「ひゃああ!お、おじいさん!」
「し、死んどる!警察に電話せにゃあ!」
腰を抜かしそうになりながら、老夫婦は震える手で携帯電話をポケットから取り出した。
規制線が張られ、見張りの制服警官が立ち、町内にこんなに人がいたのかと思うくらいの野次馬を近付かせないようにしている。
そこに、車が到着する。監察医務院の車だ。
「あ、有坂先生!おはようございます!」
降り立った白衣の涼子に、嬉しそうに晴真が言う。
その横で礼人は、
(尻尾を思い切り振ってるのが見えるようだな)
と相棒を見て考えた。
「おはようございます」
クールに涼子が返す。
「よろしくお願いします」
礼人はそう言ってブルーシートに先導しながら、コソッと小声で涼子に訊く。
「朝飯は食ったか?」
涼子はこっくりと頷いた。
「トースト」
「よし」
そして、ブルーシートの中へ入って行く涼子と助手を見送ると、晴真が寄って来る。
「はあ。今日も有坂先生は美人だなあ。桜の地模様の入ったピンクのブラウスといい、タイトなパンツといい、モデル並みに似合ってるよなあ。なんてセンスがいいんだろう。流石は女神様だなあ」
礼人は、昨日の夜に涼子がカエルのアップリケのついた何とも言い難いトレーナーとモンペという感じのズボンをはいていた事は、絶対に秘密にしようと思った。
センスのあまりの無さに、アパレル会社を経営している兄が、部屋着から外出着までの一切を季節毎に届けて来るのだ。しかし昨日は、懐かしいトレーナーを発見したと言って涼子がそれを着たのだが、やはり、服はお兄さんに任せるのがいいようだと礼人は再確認したのだった。
涼子の兄は若いながらもIT会社を興し、アパレル会社やレストランも始めて成功させている男だ。
「あ、ああ……と、被害者は殺人に間違いはないようだな」
それで、晴真の顔も引き締まる。
「はい、そうですね。猟奇殺人の臭いがしますよ、先輩」
「ああ。このヤマ、厄介かもな」
礼人はどことなくそういう予感を覚え、頷いた。
却って、人で混んだり、宴会でうるさくなったりしないでいい。そう、近所の人達は思っていた。
今日も、近所に住む高齢者夫婦が朝の散歩で公園に足を踏み入れた。
「今年も桜はもうおしまいですねえ」
「今年も楽しませてもらったなあ」
満開をわずかに過ぎた桜を見ながら近付いて行くと、それが目に入った。
サラリーマンらしい服装の人が、桜の木の根元に寝ころんでいる。
「宴会で飲み過ぎて、ここで寝てしまった人かしらね」
少ないが、ここで花見の宴会をするグループも無い事はない。
「だらしがないな、全く」
老夫婦は軽く溜め息をついて、起こそうかと近付いた。
そこで、異変に気付いた。
その人物は不自然な感じに白い顔色で、目を見開き、胸の上に組んだ手で桜の枝を握っている。そして、大きく開けた口いっぱいに、桜の花びらを詰め込んでいたのだ。
「ひゃああ!お、おじいさん!」
「し、死んどる!警察に電話せにゃあ!」
腰を抜かしそうになりながら、老夫婦は震える手で携帯電話をポケットから取り出した。
規制線が張られ、見張りの制服警官が立ち、町内にこんなに人がいたのかと思うくらいの野次馬を近付かせないようにしている。
そこに、車が到着する。監察医務院の車だ。
「あ、有坂先生!おはようございます!」
降り立った白衣の涼子に、嬉しそうに晴真が言う。
その横で礼人は、
(尻尾を思い切り振ってるのが見えるようだな)
と相棒を見て考えた。
「おはようございます」
クールに涼子が返す。
「よろしくお願いします」
礼人はそう言ってブルーシートに先導しながら、コソッと小声で涼子に訊く。
「朝飯は食ったか?」
涼子はこっくりと頷いた。
「トースト」
「よし」
そして、ブルーシートの中へ入って行く涼子と助手を見送ると、晴真が寄って来る。
「はあ。今日も有坂先生は美人だなあ。桜の地模様の入ったピンクのブラウスといい、タイトなパンツといい、モデル並みに似合ってるよなあ。なんてセンスがいいんだろう。流石は女神様だなあ」
礼人は、昨日の夜に涼子がカエルのアップリケのついた何とも言い難いトレーナーとモンペという感じのズボンをはいていた事は、絶対に秘密にしようと思った。
センスのあまりの無さに、アパレル会社を経営している兄が、部屋着から外出着までの一切を季節毎に届けて来るのだ。しかし昨日は、懐かしいトレーナーを発見したと言って涼子がそれを着たのだが、やはり、服はお兄さんに任せるのがいいようだと礼人は再確認したのだった。
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「あ、ああ……と、被害者は殺人に間違いはないようだな」
それで、晴真の顔も引き締まる。
「はい、そうですね。猟奇殺人の臭いがしますよ、先輩」
「ああ。このヤマ、厄介かもな」
礼人はどことなくそういう予感を覚え、頷いた。
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