隣の猫

JUN

文字の大きさ
15 / 21

容疑者がいっぱい

しおりを挟む
 被害者行田数也ぎょうだかずやの勤める会社から遺体発見現場である公園までの間で牛丼が食べられる店を、片っ端から回り、被害者が訪れていなかったかを調べて回る。
 同時に、最寄り駅の防犯カメラなどをチェックして、同行者がいなかったかなども調べる。
「行田は8時半に会社を出て、9時頃に駅前の牛丼チェーン店に1人で入り、牛丼並を食べています。その後店を出て駅に行き、自宅方面行きの普通電車に乗っています」
 公園は、自宅近くの駅までの途中にある。
「電車を降りた時、連れはいたのか?」
 係長が訊くが、それはまだ確認できていなかった。
「行田の勤めていた会社は中規模の衣料品会社で、行田は営業部に所属。成績は良かったようで、上司の評判はいい半面、同僚や後輩は、裏表があるとか横柄とか、あまりいい評判はありませんでした」
 勤務先を担当した礼人が報告する。
「それと会社ですが、毎日残業、休日出勤は当たり前、成績が悪い社員は他の社員の前で罵倒されるなど、ブラック企業というやつですね。皆口を濁していましたが、その中で行田は、上手く後輩に仕事を押し付けて立ちまわっていたようです。現在行田が教育係としてついている後輩社員の川崎 保は、行田が死んだと聞いて、ホッとした顔を浮かべました」
 それに、皆は色めき立つ。
「アリバイは」
「仕事が終わらずに事務所に泊ったという事ですが、10時半には事務所に1人になっており、アリバイはありません。
 それと、その前に教育係として行田が付いていた後輩がいたんですが、一昨年の今頃、自殺したそうです」
「その自殺した後輩は福永友康というそうですが、かなり露骨に虐めていたようですよ」
 一緒に回っていた晴真が付け加える。
「そっちの方も気になるな。遺族とか」
 容疑者2人に、皆が色めき立つ。
「川崎と、福永の遺族を重点的に当たろう」
「はい」
 礼人達はそう返事をした。そのどちらかが犯人だろう、それほど難航もしないだろうと、誰もがそう予想していた。

 礼人は晴真と、福永の遺族を調べていた。
 父親は高校の社会科教師で、大柄で厳格な男だ。母親は専業主婦で、大人しい。弟は福永より3つ年下で、昨年の春に労働基準監督署に就職していた。ここに就職したのは明らかに兄の自殺が原因で、本人もそう公言しており、ブラックな雇用実態を激しく憎んでいると同僚達は言った。
 3人共犯行時刻と思われる頃は家で寝ていたと言うが、同じ家族でもあり、アリバイとは言い難い。
「怪しいですよねえ。父親は54歳ですけど、山登りを趣味にしているだけあって体はしっかりしているし。弟も中学から大学までラグビーで鍛えていただけあって、力は強いし」
 晴真が言う。
「まあな。アリバイもないし、動機もある。
 とは言え、証拠はないな」
 礼人もそう応える。
「幅3センチ程の帯状の物って何でしょうねえ?」
「ネクタイとか?スカーフを折りたたんだものかもしれないしな」
「令状を取れませんよねえ」
「これじゃあ、まだ弱いな」
 言いながら、犯行の様子を想像していた。
 かがんだ被害者の背中に片足を付け、首に巻いた凶器を両手で引っ張る。被害者はもがくだろう。
「女でもいけるかな」
「ううん。やっぱり男なんじゃないですか?」
「でも、かがみこむ姿勢次第では、上から体重を乗せるようにして抑え込めばいいんだしな。行けそうだぞ」
 晴真もちょっと想像し、頷いた。
「まあ、そうですね。じゃあ、母親も完全なシロってわけにもいかないですね」
「後、他にも被害者を恨む同僚や元同僚もいるかもな」
「うへえ。範囲を広げないといけないかも?かなり出そうですよ、動機のある人」
「まあ、スジを読むのは係長だけどな」
 言いながら、誰が犯人でも、気が重いと思った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...