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容疑者がいっぱい
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被害者行田数也の勤める会社から遺体発見現場である公園までの間で牛丼が食べられる店を、片っ端から回り、被害者が訪れていなかったかを調べて回る。
同時に、最寄り駅の防犯カメラなどをチェックして、同行者がいなかったかなども調べる。
「行田は8時半に会社を出て、9時頃に駅前の牛丼チェーン店に1人で入り、牛丼並を食べています。その後店を出て駅に行き、自宅方面行きの普通電車に乗っています」
公園は、自宅近くの駅までの途中にある。
「電車を降りた時、連れはいたのか?」
係長が訊くが、それはまだ確認できていなかった。
「行田の勤めていた会社は中規模の衣料品会社で、行田は営業部に所属。成績は良かったようで、上司の評判はいい半面、同僚や後輩は、裏表があるとか横柄とか、あまりいい評判はありませんでした」
勤務先を担当した礼人が報告する。
「それと会社ですが、毎日残業、休日出勤は当たり前、成績が悪い社員は他の社員の前で罵倒されるなど、ブラック企業というやつですね。皆口を濁していましたが、その中で行田は、上手く後輩に仕事を押し付けて立ちまわっていたようです。現在行田が教育係としてついている後輩社員の川崎 保は、行田が死んだと聞いて、ホッとした顔を浮かべました」
それに、皆は色めき立つ。
「アリバイは」
「仕事が終わらずに事務所に泊ったという事ですが、10時半には事務所に1人になっており、アリバイはありません。
それと、その前に教育係として行田が付いていた後輩がいたんですが、一昨年の今頃、自殺したそうです」
「その自殺した後輩は福永友康というそうですが、かなり露骨に虐めていたようですよ」
一緒に回っていた晴真が付け加える。
「そっちの方も気になるな。遺族とか」
容疑者2人に、皆が色めき立つ。
「川崎と、福永の遺族を重点的に当たろう」
「はい」
礼人達はそう返事をした。そのどちらかが犯人だろう、それほど難航もしないだろうと、誰もがそう予想していた。
礼人は晴真と、福永の遺族を調べていた。
父親は高校の社会科教師で、大柄で厳格な男だ。母親は専業主婦で、大人しい。弟は福永より3つ年下で、昨年の春に労働基準監督署に就職していた。ここに就職したのは明らかに兄の自殺が原因で、本人もそう公言しており、ブラックな雇用実態を激しく憎んでいると同僚達は言った。
3人共犯行時刻と思われる頃は家で寝ていたと言うが、同じ家族でもあり、アリバイとは言い難い。
「怪しいですよねえ。父親は54歳ですけど、山登りを趣味にしているだけあって体はしっかりしているし。弟も中学から大学までラグビーで鍛えていただけあって、力は強いし」
晴真が言う。
「まあな。アリバイもないし、動機もある。
とは言え、証拠はないな」
礼人もそう応える。
「幅3センチ程の帯状の物って何でしょうねえ?」
「ネクタイとか?スカーフを折りたたんだものかもしれないしな」
「令状を取れませんよねえ」
「これじゃあ、まだ弱いな」
言いながら、犯行の様子を想像していた。
かがんだ被害者の背中に片足を付け、首に巻いた凶器を両手で引っ張る。被害者はもがくだろう。
「女でもいけるかな」
「ううん。やっぱり男なんじゃないですか?」
「でも、かがみこむ姿勢次第では、上から体重を乗せるようにして抑え込めばいいんだしな。行けそうだぞ」
晴真もちょっと想像し、頷いた。
「まあ、そうですね。じゃあ、母親も完全なシロってわけにもいかないですね」
「後、他にも被害者を恨む同僚や元同僚もいるかもな」
「うへえ。範囲を広げないといけないかも?かなり出そうですよ、動機のある人」
「まあ、スジを読むのは係長だけどな」
言いながら、誰が犯人でも、気が重いと思った。
同時に、最寄り駅の防犯カメラなどをチェックして、同行者がいなかったかなども調べる。
「行田は8時半に会社を出て、9時頃に駅前の牛丼チェーン店に1人で入り、牛丼並を食べています。その後店を出て駅に行き、自宅方面行きの普通電車に乗っています」
公園は、自宅近くの駅までの途中にある。
「電車を降りた時、連れはいたのか?」
係長が訊くが、それはまだ確認できていなかった。
「行田の勤めていた会社は中規模の衣料品会社で、行田は営業部に所属。成績は良かったようで、上司の評判はいい半面、同僚や後輩は、裏表があるとか横柄とか、あまりいい評判はありませんでした」
勤務先を担当した礼人が報告する。
「それと会社ですが、毎日残業、休日出勤は当たり前、成績が悪い社員は他の社員の前で罵倒されるなど、ブラック企業というやつですね。皆口を濁していましたが、その中で行田は、上手く後輩に仕事を押し付けて立ちまわっていたようです。現在行田が教育係としてついている後輩社員の川崎 保は、行田が死んだと聞いて、ホッとした顔を浮かべました」
それに、皆は色めき立つ。
「アリバイは」
「仕事が終わらずに事務所に泊ったという事ですが、10時半には事務所に1人になっており、アリバイはありません。
それと、その前に教育係として行田が付いていた後輩がいたんですが、一昨年の今頃、自殺したそうです」
「その自殺した後輩は福永友康というそうですが、かなり露骨に虐めていたようですよ」
一緒に回っていた晴真が付け加える。
「そっちの方も気になるな。遺族とか」
容疑者2人に、皆が色めき立つ。
「川崎と、福永の遺族を重点的に当たろう」
「はい」
礼人達はそう返事をした。そのどちらかが犯人だろう、それほど難航もしないだろうと、誰もがそう予想していた。
礼人は晴真と、福永の遺族を調べていた。
父親は高校の社会科教師で、大柄で厳格な男だ。母親は専業主婦で、大人しい。弟は福永より3つ年下で、昨年の春に労働基準監督署に就職していた。ここに就職したのは明らかに兄の自殺が原因で、本人もそう公言しており、ブラックな雇用実態を激しく憎んでいると同僚達は言った。
3人共犯行時刻と思われる頃は家で寝ていたと言うが、同じ家族でもあり、アリバイとは言い難い。
「怪しいですよねえ。父親は54歳ですけど、山登りを趣味にしているだけあって体はしっかりしているし。弟も中学から大学までラグビーで鍛えていただけあって、力は強いし」
晴真が言う。
「まあな。アリバイもないし、動機もある。
とは言え、証拠はないな」
礼人もそう応える。
「幅3センチ程の帯状の物って何でしょうねえ?」
「ネクタイとか?スカーフを折りたたんだものかもしれないしな」
「令状を取れませんよねえ」
「これじゃあ、まだ弱いな」
言いながら、犯行の様子を想像していた。
かがんだ被害者の背中に片足を付け、首に巻いた凶器を両手で引っ張る。被害者はもがくだろう。
「女でもいけるかな」
「ううん。やっぱり男なんじゃないですか?」
「でも、かがみこむ姿勢次第では、上から体重を乗せるようにして抑え込めばいいんだしな。行けそうだぞ」
晴真もちょっと想像し、頷いた。
「まあ、そうですね。じゃあ、母親も完全なシロってわけにもいかないですね」
「後、他にも被害者を恨む同僚や元同僚もいるかもな」
「うへえ。範囲を広げないといけないかも?かなり出そうですよ、動機のある人」
「まあ、スジを読むのは係長だけどな」
言いながら、誰が犯人でも、気が重いと思った。
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