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因果応報(1)刑事

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 2人組の刑事は、セレと保護者のモトと向かい合って、片方が質問する間、片方が何も見逃さないという目でじっとセレを観察していた。事情聴取の基本だ。
「梶浦瀬蓮君と、伯父の久我基樹さん」
「はい。私の妹が瀬蓮の母親ですので」
 実際は、本物の久我基樹は行旅不明人として無縁墓地で眠っている。災害で死亡していたのだがちょうどその頃身元が分かり、その戸籍をモトが使用することになったのだ。
 しかしセレもモトも、しれっとしている。公安がしっかりとお膳立てしているのだから、調べられても不都合など出て来ない。
 刑事は緊張を隠しながら、質問を続ける。
「ええっと、事件の被害者である水島晴美さんは、知っていますか」
「いえ、知りません。まあ、同じ学校らしいので、知らないうちにすれ違っている事はあったかもしれませんけど」
 セレはそう言った。
「そう。ううん。
 じゃあ、テストの最終日から一昨日まで、どこで何をしていたか言える?」
「はい。伯父の手伝いで、国外にいました」
 それに刑事は2人共、
「はあ!?」
と間抜けな声を上げた。
 そして揃って、モトを見る。
「詳しくは言えませんが、ある人物を密かにガードする依頼を受けて、豪華客船エカテリーナに乗っていましてね。出発がテスト最終日で、戻って来たのが昨日ですよ。
 外務省に問い合わせてもらえば、出入国の記録がありますよ」
 モトが言うと、刑事2人は顔を見合わせて、面白くなさそうな顔をした。
「はあ。
 じゃあ、5年前の女子高生連続拷問殺人の事は覚えてますか」
 モトは不機嫌そうにわずかに眉を寄せ、セレは瞳をわずかにすがめた。
「はい。勿論」
「ええ。当然」
「被害者は、瀬蓮君を中傷するビラを貼って回っていた1人だったらしいけど――」
 そこで刑事は、セレの顔から、セレがそれを知らなかった事を知った。
「知らなかったのか?」
「……はい」
「そう。じゃあ、今それを聞いて、どう思う?」
 意地の悪い質問だと、モトも、刑事自身も思った。
「どう……。そうですね……。ビラの内容は、事実ではありませんでした。調べてから書け、とは思っていましたが……。
 別に、水島さんが被害者だといって、特別な感想はないですね。ただ、真犯人がどこかにいたんだな、と改めて思うだけです」
 それで刑事2人は、片方は嫌そうに舌打ちしかけてしかめっ面をし、もう片方は居心地が悪そうに身じろぎした。
 そうして刑事が帰って行くと、リクが部屋から出て来た。
「何?警察はビラを貼られた腹いせに殺したとか疑ってるわけ?」
 そう言って、フンと鼻を鳴らす。
「ま、日本にいなかったわけだしな。問題はないだろうけど、気になるのは気になるな」
 モトはソファに深くもたれ込みながら考えた。
「ビラを見た誰かが、その事件を模倣して殺したのか。それとも、5年前の事件の真犯人が犯行を再開させたのか」
 それを聞いたセレは言った。
「もし真犯人だとしたら、それはどうやってビラを貼ったのが水島さんだとわかったのかな。それともたまたまか?どちらにせよ、真犯人はこの近くに潜んでいるって事になるけど」
「行動に注意した方が良さそうだ」
「セレ。ゴミのポイ捨てや路チュー禁止だぜ」
 ふざけるリクに、セレもモトも苦笑した。

 セレの家を出た刑事は、マンションを出て、出て来たマンションを見上げた。
「梶浦瀬蓮の線はないですね」
 年かさの方は、面白くなさそうに肩をグルグルと回した。
「真犯人は何でここで、あの子をターゲットにしたんだ?無関係なわけないだろうが。
 梶浦も、拘置所内で死ぬとか。当てつけかよ」
 理不尽なセリフに、若い方は苦笑をかみ殺した。
「で、どうします?一旦本部に戻りますか」
 それに頷く。
「そうだな。帰って、出入国記録を問い合わせる。
 笠松、坂上、桐原、佐藤の方も、アリバイの再確認だ」
「はい」
 2人は、捜査本部に帰る事にした。

 



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