鬼退治はダンジョンで~人生の穴にはまった俺達は、本物の穴にはまって人生が変わった

JUN

文字の大きさ
3 / 54

お前もか

しおりを挟む
「実はね……」
 イオは警察官だ。子供の頃から強かったが、今では格闘技でほとんどの男性に負けない事でやっかまれるほどになったらしい。それで「メスキングゴリラ」と陰で呼ばれ、「もう男だよな」と男子トイレに連れションに誘われたり、更衣室でもなくその場で一緒に着替えようとしたり、何かとセクハラし、それに意見を言えば「ミニパトにでも乗ってろ。オバハンだけどな」と異動になったらしい。
「もともと警察は今でも男社会なのよ。出る杭が女だと、打たれるだけで済まないの」
 そうイオは溜め息をついた。
 それを聞いて、俺達は憤った。
「何だよそれ。努力して強くなった人間に失礼だな」
 俺は怒りのままに、出て来た犬もどきの頭を殴りつけた。
「そうよねえ。頼りがいがあっていいじゃないの。警察官なんだし」
 チサも怒りをにじませてそう言う。
「男とか偉いヤツってのは、自分が上でいたいんだよ。ああ。やだねえ」
 ハルは憤慨するように嘆息した。
「でもまあ、異動はつきものだし、百歩譲っていいとしてもよ。昨日スピード違反でキップ切った人なんて、『ババアのクセにうるせえな』よ。もう、嫌になっちゃったわよ」
 イオは言いながら、暗い笑みを浮かべて犬もどきを殴りつけた。
「で、チサはどうしたの。離婚だなんて」
「うん……」
 チサはイオに水を向けられ、話し出した。
 チサは短大を出てすぐに結婚したらしいが、相手はエリート商社マンだったそうだ。その彼は、家では亭主関白を通り越して、モラハラだったという。それでも我慢していたのだが、ある日突然警察から逮捕したと知らされた。
 詳しく聴くと、若い愛人を作っており、横領してまで金を貢いでいたという。
 チサには、節約しろ、1か月5万円で光熱費も食費も通信費も全てやりくりしろ、主婦が新しい服なんて必要ない、などと言っておきながら、愛人には数千万円である。
「もうねえ、即、離婚届けを書いたわよお。我慢の限界だったのが、あふれちゃったのねえ。それで届けを弁護士さんに預けたんだけど、『これまで養ってやってたのに』とか、弁護士さんも『裁判を考えると家庭で更生をと言う方が心証がいいのですが』なんて言うのよ。それで今までも離婚を考えてたってこれまでの事を言ったら、弁護士さんも向こうの味方はしなくなったわよお」
 明るく言う。
「最低なやつだな。チサの元旦那だけど」
「そうね。チサ。あんた、苦労してたのね」
「チサ。これで自由になったんだと思えばいいよ」
「そうよね。私、取り敢えず結婚はもういいわ。自由を楽しむわ」
 チサは清々しく笑った。血まみれの折り畳み傘を握って。
「ハルはどうなの」
 イオが訊き、ハルは暗い顔で俯いた。
 ハルは、勤めていた造園の会社が倒産し、フリーターとしてどうにかこうにか生きているという状況だ。好きなアイドルのコンサートへも行けず、細々とバイトの掛け持ちでなんとか生活しているらしい。
「今はテレビの前で、時々1人でペンライトを振るのだけが楽しみでね。虹プリ──レインボープリンセスのオレンジ姫が僕の推しなんだよ!」
 ハルはそう言って笑い、ペンライトをポケットから出して振って見せた。
 俺達は思わず涙を浮かべた顔をそっとハルから背けた。
「ま、あれだ。俺達は各々人生の落とし穴にはまったわけだな。そこにこの落とし穴ダンジョンとは、よく効いたスパイスだな」
 俺が肩を竦めて苦笑すると、イオもチサもハルも明るく笑った。
 俺達は妙なテンションで、すっかり楽しくなっていた。
「魔石は皆で山分けにしよう。研究施設に持ち込んだらそこそこの値で引き取ってもらえるはずだぞ」
 言うと、ハルは目を輝かせた。
「ねえ、魔物って食べられるのよね。アメリカの人がそうコメントしてたわよ」
 チサは、向こうに現れたニワトリを大きく且つ凶暴にしたような魔物を見ながら笑った。
「じゃあ、トリスキか唐揚げかチキンステーキか、何かして皆で食べましょうよ」
 イオは好戦的な目付きでそう言った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された【鑑定士】の俺、ゴミスキルのはずが『神の眼』で成り上がる〜今更戻ってこいと言われても、もう遅い〜

☆ほしい
ファンタジー
Sランクパーティ『紅蓮の剣』に所属する鑑定士のカイは、ある日突然、リーダーのアレックスから役立たずの烙印を押され、追放を宣告される。 「お前のスキルはゴミだ」――そう蔑まれ、長年貢献してきたパーティを追い出されたカイ。 しかし、絶望の中でたった一人、自らのスキル【鑑定】と向き合った時、彼はその能力に隠された真の力に気づく。 それは、万物の本質と未来すら見通す【神の眼】だった。 これまでパーティの成功のために尽くしてきた力を、これからは自分のためだけに行使する。 価値の分からなかった元仲間たちが後悔した頃には、カイは既に新たな仲間と富、そして名声を手に入れ、遥か高みへと駆け上がっているだろう。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた男が、世界で唯一の神眼使いとして成り上がる物語。 ――今更戻ってこいと言われても、もう遅い。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄&濡れ衣で追放された聖女ですが、辺境で育成スキルの真価を発揮!無骨で不器用な最強騎士様からの溺愛が止まりません!

黒崎隼人
ファンタジー
「君は偽りの聖女だ」――。 地味な「育成」の力しか持たない伯爵令嬢エルナは、婚約者である王太子にそう断じられ、すべてを奪われた。聖女の地位、婚約者、そして濡れ衣を着せられ追放された先は、魔物が巣食う極寒の辺境の地。 しかし、絶望の淵で彼女は自身の力の本当の価値を知る。凍てついた大地を緑豊かな楽園へと変える「育成」の力。それは、飢えた人々の心と体を癒す、真の聖女の奇跡だった。 これは、役立たずと蔑まれた少女が、無骨で不器用な「氷壁の騎士」ガイオンの揺るぎない愛に支えられ、辺境の地でかけがえのない居場所と幸せを見つける、心温まる逆転スローライフ・ファンタジー。 王都が彼女の真価に気づいた時、もう遅い。最高のざまぁと、とろけるほど甘い溺愛が、ここにある。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

処理中です...