鬼退治はダンジョンで~人生の穴にはまった俺達は、本物の穴にはまって人生が変わった

JUN

文字の大きさ
19 / 54

角煮と照り焼き

しおりを挟む
 地下室へ持ち込んだペットにエサをやり、植物に水をやり、重さ長さなどの記録を取ると、俺は魔術について考えた。
 火、水、風、石を飛ばす魔術と、浄化の魔術は覚えた。
 そしてそれらを比較、分解し、どの部分が「火」などにあたるのか、どの部分が大きさを示すのかを掴んだ。そしてカンと推測で、氷を飛ばす事に成功した。
「これはおもしろいな!わはは!豪華に焼かれるがいい!テリヤキソースをかぶって!」
 調子に乗った俺は豚にソースをぶっかけて魔術で火を放ち、
「あ……」
起立性めまいに似たものを起こし、倒れた。

 俺はテーブルの上に乗った豚の角煮を見ていた。
 柔らかそうで、よく味が染み込んでいそうないい色と照りをしている身と脂身の層がなんとも美味しそうだ。
「いただきます!」
 俺は箸を手に、嬉々として角煮に手を伸ばした。
 が、しつこく俺を呼ぶ声に気付いた。
「シュウ!シュウってば!」
 振り返ると、チサがいた。
「何だ、チサか。チサも食べるか?」
「しっかりして!」
「救急車を呼んだ方がいいんじゃないか?」
 ハルの声までする。
 いたのか、とそちらへ体を向けようとして、気が付いた。

「チサ?ハル?」
 夢だったらしい。俺は地下室に寝転び、チサとハルが俺を覗き込んでいた。横を向くと、水槽の中の金魚と目が合った。
 俺は心配そうにするのを手で制して体を起こした。
「起き上がって大丈夫か?救急車を呼んだ方がいいんじゃないか?」
 言うハルに、チサが安堵の溜め息をつきながら言う。
「大丈夫でしょ。どうせ観察だか検証だかに熱中して、徹夜したとか食事を忘れたとかでしょお?」
「よくわかったな。貧血みたいになって倒れたみたいだ。いやあ、この中じゃなかったら、魔物に喰われてるところだったな」
 俺が言うと、ハルはギョッとした顔をしたが、チサはやっぱりという顔で苦笑した。
「それで豚にテリヤキソースをかけて火を点けたんだけど」
 言いながら壁の外を覗くと、魔石が転がっていた。
 ポークステーキを食べ損ねたらしい。
「丸のままの豚にソースをかけて焼いてもだめよお」
「まあな。たぶんそうだとは思ったけどな」
「食べたかったのかしらあ?」
「角煮が食べたかったけど、作り方がわからないし、ネットで調べたら時間がかかりそうだし、焼くかって思って」
 言うと、チサは肩を竦めて立ち上がり、
「言えば作りに来てあげたのにぃ。
 圧力鍋があればいいんだけど……まあ、別にいいわ」
と言いながら、キッチンへと向かう。
 その後に俺とハルは続いた。
「ところでシュウ。本当に大丈夫なのか?」
 ハルの心配性は大概だ。大雑把なところのあるイオと足して二で割ればちょうどいい。
「大丈夫だよ。たぶん。
 ところでハルもチサも、どうしたんだ?潜るのは今日じゃないけど、ストレス発散か?食料事情か?実験か?」
「シュウじゃあるまいし、実験は無いよ」
 ハルが嘆息して言うと、チサはころころと笑った。
 チサが角煮の鍋を火にかけ、俺達はコーヒーを淹れてテーブルに座った。
「実は、お願いがあって」
 ハルがこの世の終わりみたいな顔付きで口を開いた。
「どうしたんだ」
 まさか、残るバイトもクビになったとかか?なけなしの有り金の入ったサイフを落としたのか。
 俺が色々と考える先で、ハルは頭を下げた。
「実は、物凄く経済的にピンチで。魔石とかが売れたら返すから、貸してもらえないか。それか、僕の分をいくらかどこかに売って欲しい。頼む」
 予測範囲内だが、理由が不明だ。
「どうしたんだよ」
「ラーメン屋のバイトはバイト代の支払い前に店が潰れてオーナー一家が夜逃げしちゃって、居酒屋のバイトは若くて見栄えのいいイケメンと若くてかわいい女の子で揃えるとかでクビになっちゃって、コンビニのバイトはコンビニが放火されて焼けたからバイトが無くなっちゃって。
 なのに、貯金するほど余裕もなかったから……恥ずかしい話だけど……」
 俺とチサは、目を丸くしてハルを見た。
 どこまで不運なやつだ。
「バカだなあ、ハル。友達だろ。それに同じ無職仲間じゃないか」
「ごめん。売れるようになったらすぐに返すから」
 ハルは半分ホッとしたように言った。
「近いうちにダンジョン関連の色々が決まって、売れるから。気にするな。
 ああ。この先もダンジョンへ潜るんだな?だったら、免許とか武器とかも立て替えるし、家賃とかもいるんじゃないか?」
「ねえ、シュウ。今ならまだダンジョン産出物が少ないし、高値で売れるんじゃないかしらあ。皆も今そこそこ売って、いい防具や武器を考えた方がいいんじゃないかしらあ」
 チサが小首を傾げて言う。
「確かに今はぼろ儲けもできるだろうな。少ない産出物を、研究施設で取り合ってるんだから。政府の買い取り価格がそれより高いとは思えないし、同じとも思えない。
 なのに諸々が決まってしまえば、産出物は国に売るしかできなくなるしな」
 チャンスは今だ。
 かと言って、今徹底的に売って儲けるのはどうかとも思うが。
「イオにも訊いてみるけど、確かにある程度は高値で売れる今売っておきたいかな。
 でも、あの会社は嫌だ。話は持って行きやすいけど、嫌だからな」
 それでイオにも連絡し、今夜、夕食がてら相談することになった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された【鑑定士】の俺、ゴミスキルのはずが『神の眼』で成り上がる〜今更戻ってこいと言われても、もう遅い〜

☆ほしい
ファンタジー
Sランクパーティ『紅蓮の剣』に所属する鑑定士のカイは、ある日突然、リーダーのアレックスから役立たずの烙印を押され、追放を宣告される。 「お前のスキルはゴミだ」――そう蔑まれ、長年貢献してきたパーティを追い出されたカイ。 しかし、絶望の中でたった一人、自らのスキル【鑑定】と向き合った時、彼はその能力に隠された真の力に気づく。 それは、万物の本質と未来すら見通す【神の眼】だった。 これまでパーティの成功のために尽くしてきた力を、これからは自分のためだけに行使する。 価値の分からなかった元仲間たちが後悔した頃には、カイは既に新たな仲間と富、そして名声を手に入れ、遥か高みへと駆け上がっているだろう。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた男が、世界で唯一の神眼使いとして成り上がる物語。 ――今更戻ってこいと言われても、もう遅い。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...