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友人
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唯一に近い友人が訪ねて来たのは、その翌日の事だった。
征木夏子。飾りっ気がなく、本音で喋れる相手だ。
「璃々!元気そうで安心したわ!」
タクシーから大量の荷物と共に降り立った夏子は、バンバンと私の背中を叩いて笑った。
「痛い、痛いって。
夏子こそ久しぶり」
「ここがかの有名な支所か。後で案内してよ」
「まあ、取り敢えずは入って。
何持って来たのよ」
ダンボール箱を運びながら言うと、夏子はニヤリとして言った。
「決まってるじゃない。飲みあかすための、アルコールとあてと甘い物よ」
「限度ってもんがあるでしょうが」
「残ったら次回に飲めばいいのよ」
夏子はそう言って笑い、ダンボール箱をひょいと持ち上げ、玄関に運び出した。
それでわたしも、ダンボール箱を運ぶ。
「お土産、買い過ぎたかも。ご近所に分けたら?」
夏子は唐突にそう言い出す。夏子はきっと、その分を含んで買ってきたに違いない。
「そうね。ありがとう」
それで私達は、村の皆の所を回って、銀座の名店の冷凍のとんかつとお菓子をおすそ分けして回った。
そして、明るいうちから飲み出した。
「プハー!明るいうちから飲むビールは最高!」
「わはは!かんぱーい!」
なんだかんだと近況を報告し合いながら、飲んで食べる。
「で、どう?もう慣れた?」
「うん、何とかね。ついでに、ノーメイクにも、気を抜いた格好にも」
そう肩をすくめると、夏子は笑った。
「いいじゃない。休養よ、休養。
でも、どうなの?あの双子のおばあさんとかエキセントリックな小説家とかって、横溝正史に出て来そうじゃない」
危うく吹き出すところだった。
「キヌさんもアサさんもいい人よ。箱罠猟もするから、来た早々、住み着いてたアライグマを捕まえるのを手伝ってもらったし。
上川さんは、正直あんまり知らないわ」
「うん。ああいうタイプの人は、被害者のパターンよ」
「殺さないで」
夏子はミステリーが大好きなのだ。
「で。あんたは、新しい出会いとかないの」
「ないわ。この村から出ないし、結婚はもう、いいわ」
夏子は焼酎のロックに変え、グビリと飲んで言った。
「無理にする必要はないと思うけど、臆病になる必要もないからね。あんたは悪くない。あんたがいいやつだっていうのは、私が保証する」
不意に、視界がぼやけた。
「ん。ありがとう。あんたもいいやつよ。私が保証する」
私達はグラスをもう一度ぶつけ、グッとあおった。
そこで改めて、私は夏子に経緯を語った。
すると夏子は、鼻息を荒くして怒った。
「なんなのあいつは!?松園めぇ。それに杉沢のやつ。とんでもない女だわ。
ちゃんと、慰謝料も取るのよ?泣き寝入りとか、気を使うとか、したらだめよ」
「うん。原山先生の友人が弁護士だそうで、頼んだの」
「それがいいわ。
それにしても、ああ、腹が立つ!」
私は苦笑して、夏子のグラスにお代わりを注いだ。
「もういいから。怒ってくれる友人がいるし、もう忘れる」
「そうしなさいね。記憶容量の無駄だわ」
夏子は怒りながら飲んだ。
その時、夕方の読経が始まった。
相変わらず、いい声だ。2人でしばし、聞き惚れた。
「これがその、隣の寺の跡取りの永世君?」
「そう。良い声でしょう」
「声優にしたい。
それに、いい人そうじゃない。頼れそうだし」
それに私は、肩を竦めた。
「声はね。でも、顔が」
「不細工?」
「イケメンね」
「結構じゃない?」
「イケメンはもう嫌。松園は別に顔で付き合ったわけじゃないけど、そういう顔が苦手になっちゃって」
「あんたねえ」
夏子は眉をハの字にした。
「声だけで十分」
「はあ。ま、いっか」
私達は黙って、読経をつまみにしばし飲んだ。
征木夏子。飾りっ気がなく、本音で喋れる相手だ。
「璃々!元気そうで安心したわ!」
タクシーから大量の荷物と共に降り立った夏子は、バンバンと私の背中を叩いて笑った。
「痛い、痛いって。
夏子こそ久しぶり」
「ここがかの有名な支所か。後で案内してよ」
「まあ、取り敢えずは入って。
何持って来たのよ」
ダンボール箱を運びながら言うと、夏子はニヤリとして言った。
「決まってるじゃない。飲みあかすための、アルコールとあてと甘い物よ」
「限度ってもんがあるでしょうが」
「残ったら次回に飲めばいいのよ」
夏子はそう言って笑い、ダンボール箱をひょいと持ち上げ、玄関に運び出した。
それでわたしも、ダンボール箱を運ぶ。
「お土産、買い過ぎたかも。ご近所に分けたら?」
夏子は唐突にそう言い出す。夏子はきっと、その分を含んで買ってきたに違いない。
「そうね。ありがとう」
それで私達は、村の皆の所を回って、銀座の名店の冷凍のとんかつとお菓子をおすそ分けして回った。
そして、明るいうちから飲み出した。
「プハー!明るいうちから飲むビールは最高!」
「わはは!かんぱーい!」
なんだかんだと近況を報告し合いながら、飲んで食べる。
「で、どう?もう慣れた?」
「うん、何とかね。ついでに、ノーメイクにも、気を抜いた格好にも」
そう肩をすくめると、夏子は笑った。
「いいじゃない。休養よ、休養。
でも、どうなの?あの双子のおばあさんとかエキセントリックな小説家とかって、横溝正史に出て来そうじゃない」
危うく吹き出すところだった。
「キヌさんもアサさんもいい人よ。箱罠猟もするから、来た早々、住み着いてたアライグマを捕まえるのを手伝ってもらったし。
上川さんは、正直あんまり知らないわ」
「うん。ああいうタイプの人は、被害者のパターンよ」
「殺さないで」
夏子はミステリーが大好きなのだ。
「で。あんたは、新しい出会いとかないの」
「ないわ。この村から出ないし、結婚はもう、いいわ」
夏子は焼酎のロックに変え、グビリと飲んで言った。
「無理にする必要はないと思うけど、臆病になる必要もないからね。あんたは悪くない。あんたがいいやつだっていうのは、私が保証する」
不意に、視界がぼやけた。
「ん。ありがとう。あんたもいいやつよ。私が保証する」
私達はグラスをもう一度ぶつけ、グッとあおった。
そこで改めて、私は夏子に経緯を語った。
すると夏子は、鼻息を荒くして怒った。
「なんなのあいつは!?松園めぇ。それに杉沢のやつ。とんでもない女だわ。
ちゃんと、慰謝料も取るのよ?泣き寝入りとか、気を使うとか、したらだめよ」
「うん。原山先生の友人が弁護士だそうで、頼んだの」
「それがいいわ。
それにしても、ああ、腹が立つ!」
私は苦笑して、夏子のグラスにお代わりを注いだ。
「もういいから。怒ってくれる友人がいるし、もう忘れる」
「そうしなさいね。記憶容量の無駄だわ」
夏子は怒りながら飲んだ。
その時、夕方の読経が始まった。
相変わらず、いい声だ。2人でしばし、聞き惚れた。
「これがその、隣の寺の跡取りの永世君?」
「そう。良い声でしょう」
「声優にしたい。
それに、いい人そうじゃない。頼れそうだし」
それに私は、肩を竦めた。
「声はね。でも、顔が」
「不細工?」
「イケメンね」
「結構じゃない?」
「イケメンはもう嫌。松園は別に顔で付き合ったわけじゃないけど、そういう顔が苦手になっちゃって」
「あんたねえ」
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「声だけで十分」
「はあ。ま、いっか」
私達は黙って、読経をつまみにしばし飲んだ。
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