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人生とは
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私と永世君と菅井君は、本堂の縁側に並んで座っていた。
菅井君は子供の頃から絵が好きで、美大に行くと決めていたそうだ。ところが、検査をしてみれば色覚異常が見つかり、美大を受験する事ができなくなってしまったという。
「画家になりたかったんだ。パティシエとか和菓子職人とかには興味は無くて、将来店を出したいとかいうクラスの奴には羨ましがられたけど、画家になりたかった」
菅井君は、そう言って俯いたまま溜め息をついた。
画家か。収入が安定せずに貧乏という先入観がある。
「人生って、ままならないよな」
永世君が、ジーンズをはいた足をブラブラさせながら言った。
「ああ。でも、画家になりたいんでしょ?美大に入らなくてもいいんじゃないの?芸能人とかでも、そういう人がいるじゃない」
「コネがあるか、展覧会に入賞するような腕があればね」
菅井君に言われ、そういうものかと口を閉じた。
「永世さんは、すんなりとお寺を継ぐことにしたの?」
菅井君に訊かれ、永世君は小さく笑った。
「うん?まあ、兄貴がいなくなったし。俺がやるか、ってな」
へえ。お兄さんがいたのか。
菅井君は、永世君に顔を向けた。
「嫌じゃなかった?それまでは、お坊さんになるなんて思ってもいなかったんでしょ?」
「嫌じゃないさ。すんなりと、この道に入る事を決めたよ」
そう言う永世君は、ほろ苦いような顔をしていた。
「永世さん、それまでは何になろうと思ってたの?」
永世君は困ったような恥ずかしそうな顔をして、仕方なく答えた。
「ミュージシャン。バンドを組んでて、デビューを目指してた」
菅井君と私は、揃って永世君をまじまじと見た。
「似合うかも」
「うん。私もそう思う」
永世君は照れたような顔をして、
「昔の事だ」
と小さく言った。
「絵は、描こうと思えば描けるじゃないか。それに、和菓子や洋菓子に、その美的センスは生かせると思うけどなあ」
「確かにね。
でも、永世君がバンドか」
「俺はもういいんだよ。
そういう片山さんは何になりたかったんだよ」
永世君が言って、菅井君とこっちを見て来る。
「私?そんな大した夢はなかったわよ。
でも、ああ、幸せな家庭を築きたかったわ」
そう言って溜め息をつくと、菅井君は私の肩を優しく叩いた。
「本当、人生ってままならないよね」
そうして3人揃って、深々と溜め息をついた。
菅井君は「芸術的な菓子を作ってやる」と目標を切り替え、家へ帰って行った。
私と永世君は、そのまま縁側で座っていた。
「見つかって良かったわね。クマが出るとか聞いたから」
「クマか。たまに出る程度だから」
「たまでも出るのね。
で、お兄さんって、サラリーマンか何かになったの?」
「いや。山で遭難した」
訊くんじゃなかった。
「ごめんなさい」
「いや。この村の人間なら誰でも知ってるから」
「えっと、そう。お経の声がいいのも、バンドの名残かしらね」
それに永世君はキョトンとして、次に爆笑した。
「そんな事言ったやつは初めてだな」
私も一緒になって、笑った。
菅井君は子供の頃から絵が好きで、美大に行くと決めていたそうだ。ところが、検査をしてみれば色覚異常が見つかり、美大を受験する事ができなくなってしまったという。
「画家になりたかったんだ。パティシエとか和菓子職人とかには興味は無くて、将来店を出したいとかいうクラスの奴には羨ましがられたけど、画家になりたかった」
菅井君は、そう言って俯いたまま溜め息をついた。
画家か。収入が安定せずに貧乏という先入観がある。
「人生って、ままならないよな」
永世君が、ジーンズをはいた足をブラブラさせながら言った。
「ああ。でも、画家になりたいんでしょ?美大に入らなくてもいいんじゃないの?芸能人とかでも、そういう人がいるじゃない」
「コネがあるか、展覧会に入賞するような腕があればね」
菅井君に言われ、そういうものかと口を閉じた。
「永世さんは、すんなりとお寺を継ぐことにしたの?」
菅井君に訊かれ、永世君は小さく笑った。
「うん?まあ、兄貴がいなくなったし。俺がやるか、ってな」
へえ。お兄さんがいたのか。
菅井君は、永世君に顔を向けた。
「嫌じゃなかった?それまでは、お坊さんになるなんて思ってもいなかったんでしょ?」
「嫌じゃないさ。すんなりと、この道に入る事を決めたよ」
そう言う永世君は、ほろ苦いような顔をしていた。
「永世さん、それまでは何になろうと思ってたの?」
永世君は困ったような恥ずかしそうな顔をして、仕方なく答えた。
「ミュージシャン。バンドを組んでて、デビューを目指してた」
菅井君と私は、揃って永世君をまじまじと見た。
「似合うかも」
「うん。私もそう思う」
永世君は照れたような顔をして、
「昔の事だ」
と小さく言った。
「絵は、描こうと思えば描けるじゃないか。それに、和菓子や洋菓子に、その美的センスは生かせると思うけどなあ」
「確かにね。
でも、永世君がバンドか」
「俺はもういいんだよ。
そういう片山さんは何になりたかったんだよ」
永世君が言って、菅井君とこっちを見て来る。
「私?そんな大した夢はなかったわよ。
でも、ああ、幸せな家庭を築きたかったわ」
そう言って溜め息をつくと、菅井君は私の肩を優しく叩いた。
「本当、人生ってままならないよね」
そうして3人揃って、深々と溜め息をついた。
菅井君は「芸術的な菓子を作ってやる」と目標を切り替え、家へ帰って行った。
私と永世君は、そのまま縁側で座っていた。
「見つかって良かったわね。クマが出るとか聞いたから」
「クマか。たまに出る程度だから」
「たまでも出るのね。
で、お兄さんって、サラリーマンか何かになったの?」
「いや。山で遭難した」
訊くんじゃなかった。
「ごめんなさい」
「いや。この村の人間なら誰でも知ってるから」
「えっと、そう。お経の声がいいのも、バンドの名残かしらね」
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「そんな事言ったやつは初めてだな」
私も一緒になって、笑った。
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