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好みのタイプ
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いくら小東さんのところで何でも扱っているとは言っても、ない商品も多い。
そのひとつである本を買いに、バス停前の本屋へ下りた。
ついでに、見たかったが上映期間中は見逃した映画のDVDも買うことにしてじっくりと選んでいると、雑誌のところに永世君がいるのを見かけた。
声をかけようとしたのだが、その顔付きに、声をかけるのをためらってしまった。
寂しいような、悲しいような、懐かしむような、痛みを堪えるような。そんな顔付きで雑誌を眺めていたが、小説のコーナーへ移動して行った。
何を見ていたのかと確認すると、ギターの専門誌だった。
趣味で弾いている所は見た事がないが、やはり、未練があるのだろうか。
夢か。夢を見るのは子供の特権でも、大人には、往々にして、苦い物だという事らしい。
私は隣の結婚情報誌に怨念のこもった目を向けてから、そこを離れた。
レジに行くと、永世君も一緒になった。
「あ、こんにちは」
「ああ、どうも」
何となく、先に会計の済んだ永世君が待っているので、一緒に帰るかたちになった。まあ、家は隣だ。
「へえ。映画のDVD。
あ。それ、随分と話題になってた恋愛映画」
「仕事が忙しくて、気になってたまま見られなかったので」
「ああ、成程ねえ。こっちじゃ、暇でも映画館が近くになくて見そびれるんだよなあ」
永世君がそうぼやいた。
この映画には色んなタイプの男が出て来て、全女性のタイプが必ずここにある、と評論家が言っていた。
「片山さんは、どれがタイプ?」
パッケージを見ながら考える。
ううむ。優しいけどプレイボーイなんて嫌だし、夢を追い続ける生活力のない男も困る。誠実でも自分の事を何も言わないで察しろという男も面倒臭いし、楽しければいいという計画性のない男も困る。自信があるのは結構でも、それが過剰なのはケンカの元だし。
「ないですね」
「ない?」
「ええ。しっかりと自立してて、相手を思いやれて、顔が良くない人がいいですね」
「顔が良く無い人?何で?」
永世君が驚いたように訊き返す。
「元夫がそのタイプだったので」
憮然として言うと、永世君は吹き出した。
「まあ、顔は悪くなかったとは思うけど、そんな極端な。中身だろ?」
「でも、顔が良くなかったら、そう簡単には愛人もできなかったと思うし」
「そうかな……ええ?」
永世君は真剣に考えだした。
「もうこりごりです。私はこれから独りで生きて、お一人様人生を楽しむんです」
「いや、そう決めつけなくてもいいんじゃないの?」
「どうせ私は可愛げのない女ですから、若くもないし、この先そういう話があるとも思えませんから、いいんですよ」
そう。永世君の読経を窓越しに聞くくらいがちょうどいい。声は抜群にいいんだから。
永世君は何か言葉を探すように頭を掻いていたが、カーブを曲がって寺が見えたところで、足を止めた。
「ん?あれは」
極楽寺の前で、若い女性がウロウロしていた。なかなかの美人だ。
が、こちらを見ると満面の笑みを浮かべた。
「永世!」
そして、全身で飛びついて来た。
「ギャッ!重い!離れろ!」
「永世!」
「えっと、じゃあ、私はこれで」
私はそうっと離れて、支社に入った。
そして、扉をガラガラと閉めると、フンと鼻を鳴らす。
「やっぱり、顔がいいとこういう事になる」
私は買い物してきたものをしまうと、テレビの前に座り込んだ。
そのひとつである本を買いに、バス停前の本屋へ下りた。
ついでに、見たかったが上映期間中は見逃した映画のDVDも買うことにしてじっくりと選んでいると、雑誌のところに永世君がいるのを見かけた。
声をかけようとしたのだが、その顔付きに、声をかけるのをためらってしまった。
寂しいような、悲しいような、懐かしむような、痛みを堪えるような。そんな顔付きで雑誌を眺めていたが、小説のコーナーへ移動して行った。
何を見ていたのかと確認すると、ギターの専門誌だった。
趣味で弾いている所は見た事がないが、やはり、未練があるのだろうか。
夢か。夢を見るのは子供の特権でも、大人には、往々にして、苦い物だという事らしい。
私は隣の結婚情報誌に怨念のこもった目を向けてから、そこを離れた。
レジに行くと、永世君も一緒になった。
「あ、こんにちは」
「ああ、どうも」
何となく、先に会計の済んだ永世君が待っているので、一緒に帰るかたちになった。まあ、家は隣だ。
「へえ。映画のDVD。
あ。それ、随分と話題になってた恋愛映画」
「仕事が忙しくて、気になってたまま見られなかったので」
「ああ、成程ねえ。こっちじゃ、暇でも映画館が近くになくて見そびれるんだよなあ」
永世君がそうぼやいた。
この映画には色んなタイプの男が出て来て、全女性のタイプが必ずここにある、と評論家が言っていた。
「片山さんは、どれがタイプ?」
パッケージを見ながら考える。
ううむ。優しいけどプレイボーイなんて嫌だし、夢を追い続ける生活力のない男も困る。誠実でも自分の事を何も言わないで察しろという男も面倒臭いし、楽しければいいという計画性のない男も困る。自信があるのは結構でも、それが過剰なのはケンカの元だし。
「ないですね」
「ない?」
「ええ。しっかりと自立してて、相手を思いやれて、顔が良くない人がいいですね」
「顔が良く無い人?何で?」
永世君が驚いたように訊き返す。
「元夫がそのタイプだったので」
憮然として言うと、永世君は吹き出した。
「まあ、顔は悪くなかったとは思うけど、そんな極端な。中身だろ?」
「でも、顔が良くなかったら、そう簡単には愛人もできなかったと思うし」
「そうかな……ええ?」
永世君は真剣に考えだした。
「もうこりごりです。私はこれから独りで生きて、お一人様人生を楽しむんです」
「いや、そう決めつけなくてもいいんじゃないの?」
「どうせ私は可愛げのない女ですから、若くもないし、この先そういう話があるとも思えませんから、いいんですよ」
そう。永世君の読経を窓越しに聞くくらいがちょうどいい。声は抜群にいいんだから。
永世君は何か言葉を探すように頭を掻いていたが、カーブを曲がって寺が見えたところで、足を止めた。
「ん?あれは」
極楽寺の前で、若い女性がウロウロしていた。なかなかの美人だ。
が、こちらを見ると満面の笑みを浮かべた。
「永世!」
そして、全身で飛びついて来た。
「ギャッ!重い!離れろ!」
「永世!」
「えっと、じゃあ、私はこれで」
私はそうっと離れて、支社に入った。
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「やっぱり、顔がいいとこういう事になる」
私は買い物してきたものをしまうと、テレビの前に座り込んだ。
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