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運命(3)ミッションインポッシブル

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 サロンは広く、ソファやテーブル、飾ってある絵画なども、一目で高いとわかるものだった。
 そこに、清貧をもって神に仕え、贅沢を戒めている、デップリと肥えて脂ぎった肌に濁った眼の高僧達と貴族、大商人が、顔を揃えていた。
 テーブルに載るワイン、ケーキ、つまみなどは、どれも、それひとつで安い食事1回分にはなるようなものだ。
「ほう。これが話題の、ピアノとバイオリンというものか」
「大きいのだな、このピアノとやらは」
「これはその棒で音を出すのか?」
 そんな彼らは、見た事も無い楽器に夢中だ。
 それを横目に、当然という顔でミハイルとクリスタが僧の格好で通り過ぎ、司祭の部屋へ忍び込む。
「どこかな、どこかな」
 机、本棚、タンス、ベッド、マットの下、額縁の裏ーーあらゆるところを探しまくる。
「奴隷商人との契約書?」
「まあ。貴族に売ってるんだわ。
 でも誰をかしら・・・あ、孤児院の子供達の名前がーー!」
「シッ!」
 慌てて口を塞いで息を殺すようにしたが、何者かの気配が、ドアの前で止まった。

 サロンで演奏会をしていると、ゆったりと聞きほれているダレル司祭の元に、従卒が近寄って耳打ちをした。
 司祭の顔が引き締まり、腰を上げかける。
 と、貴音と理生の視線が合い、いきなり、曲が切り替わる。
 度肝を抜くように、フォルテッシモで、バイオリンが聴衆の胸を掴む。『ツィガーヌ』。それに挑むようなピアノの旋律。
 それに、誰もが釘付けになる。
 その隙に、この曲が聞こえたらピンチだと打ち合わせていたとおり、トビーがミハイルとクリスタの脱出を助けに行く。
 曲はまだまだ続く。パガニーニの『超絶技巧曲』、『悪魔のトリル』。そして3人の脱出を目の端に捉えたら、『ハンガリー舞曲』で締める。
 余韻に、全員が言葉も忘れて酔いしれていた。
「素晴らしい!」
「ああ。何と言う・・・!」
「恐れ入ります」
 天使のように、貴音が笑った。
 理生は、セカンドアルバムのジャケット写真と同じ笑顔だ、と思っていた。

 孤児院で、その証拠物件を囲む。
 それによると、孤児院の子供達を奴隷商人に売り、貴族に気に入られた子はそちらへ、それ以外は、水商売やきつい仕事などの労働力として売られていた。
 土産物販売も利益ばかりを多く取り、その内の多くを司祭が横領しているし、出入りの業者は賄賂によって決定していた。
 その上、ショッキングな事実まで判明した。
 クリスタに逃げられた腹いせに、両親に罪をねつ造して着せるように変態王族から依頼されてそうしたのは、ダレル司祭だった。
「こいつ、そうだったのか」
「益々、許せないわね」
 トビーとクリスタが、静かに怒り狂っていく。
「でも、これがあれば、完全にご両親の汚名をはらせるね。良かったね」
「ミハイル・・・ありがとう」
「でも、これの扱いは慎重にしないとな。握り潰されたらたまったもんじゃない」
「誰かいないの」
「1番偉い人は誰なんだろう。中世だと、王であったり教皇であったりするけど」
「どっちかな。お互いにーーって感じかしら」
「何といっても、悪人の片割れは王族だ。中途半端なところじゃだめだぞ」
 皆でしばらく、考えた。











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