銀の花と銀の月

JUN

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ドラゴンとの戦い

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 魔銃剣。それはユーリが設計し、知り合いに作ってもらった武器だ。
 普通魔術師は杖を使う。杖には、いわば適切な量の魔力をまとめる働きと、コントロールをよくする働きとがある。
 そして魔術の発動には、詠唱型と無詠唱型の2種類ある。
 詠唱型は、決まった文言を詠唱する事で、それに結びついた魔術を発動するものだ。これは間違いがないというメリットはあるが、時間がかかるのと、相手に何の魔術を発動するのか丸わかりだというデメリットがある。
 無詠唱型は、イメージを思い描いて魔術を発動させるというものだ。これは相手に何の魔術を発動させるのか読み取らせないというメリットはあるが、イメージの途中で途切れたり、イメージがあやふやだったりしたら、失敗するというデメリットがある。
 このメリットとデメリットを組み合わせたのが、魔銃剣だ。
 あらかじめ使用頻度の高い魔術式を杖を元にした本体に刻み、レバーを合わせる事でその魔術式が自動で刻まれる事になる。つまり、何の関係もない事を考えながらでも、レバーを合わせ、魔力を送り込んで引き金を引けば、望んだ魔術が発動できるのだ。
 あらかじめセットした7種類の魔術の他にも、その場で魔術式を刻み込むフリーのレバーもある。
 その上、先には刃が取り付けてあるので、短槍としての使い方もできる。なので、ユーリは重宝していた。
「なあ。何か、帝都というより、こっちを目指してないか?」
 ドラゴンの視線を見ると、そういう気がしてユーリは言った。
 ナジム達3人ギクリとしたが、何でもないような顔をする。
「ドラゴンの気持ちなんか知るか!それより、殿下にケガでも負わせたら承知しないからな!」
 スレイドがキャンキャンと吠えるように言うのを無視して、ユーリは気持ちを引き締めた。そしてまず、レバーをフリーに合わせて、網を作る。
 ドラゴンは急降下して荷車に向かいかけたところで網にかかり、嫌そうにもがいて上空に逃れた。
「やっぱり荷車だね」
 ジンがおっとりと言うが、荷車に乗っていた皆は恐怖で叫んでいる。
「となると、荷車を守るんだな!下りてくればオレにも届くぜ!」
 カイが嬉しそうに言う。
 ドラゴンが怒ったように、口を開けて攻撃の構えを見せる。
「来るぞ!後ろに入れ!」
 ユーリは盾にレバーを合わせ、魔力を多くこめた盾を重ねがけする。
 直後、ドラゴンはブレスを吐いた。
 溶岩のような高温の炎が叩きつけられ、盾にひびが入った。そして、砕ける。その下の盾が持ちこたえるが、やがて耐え切れずにひびが入り、砕ける。
 その繰り返しで、盾が4枚砕け散った。
 今は、最後の1枚だ。

 ドラゴン発見の報を受け、魔術団は緊急出動した。
 街道の向こうで交戦し始めるのを見て、運よく魔術師がそこにいたのだと、ややホッとする。
 まあ、魔術師の方は、運が悪かったとしか言わないだろうが。
(足止めさえしていてくれればいい)
 副団長は、部下と共に、馬の足を速めた。
 だが、ドラゴンはブレスを吐いた。誰もが絶望した――が、盾がそのブレスを防いでいる。
「副団長!あれ!」
 距離があっても、そのブレスの奔流は良く見える。
「ああ!何とか間に合いそうだぞ!」
 彼らは急いだ。

 最後の盾が砕ける前に、ブレスは終わった。
 即座に、ユーリはレバーを風に切り替え、羽の付け根に叩き込む。
「アギャアア!!」
 風の刃が羽を半ばまで断ち切り、ドラゴンは墜落してくる。
「よっしゃあ!!」
 それを見てカイは剣を振りかざして突っ込んで行き、ジンは前に出て弓を構える。
 カイが接近して斬りかかり、ジンが矢を射かけ、ユーリが氷で追撃するが、ドラゴンの回復力は並みではない。
見る見る回復して行き、傷が消えて行く。
 これが、ドラゴンに対峙する時には大人数でかからなければいけない事の理由のひとつだ。
「ずるいだろ!」
 カイが地団駄を踏むが、仕方がない。
「大出力のやつをやったら、この辺が更地になるからな。荷車も巻き添えになる」
 ユーリが言いながら、ドラゴンにさらに攻撃を仕掛ける。
 と、声がかかった。
「よくやった!あとは任せろ!」
 魔術団が到着した。
「あ、ブレス、来ます!」
 それで、盾を張ってブレスから荷車と人を守る。
「何でドラゴンが?荷車をターゲットにしてるように見えるんだが」
 副団長が荷車に目をやりながら言う。
「そう言えば、ドラゴンが巣を作ってるって聞いたぜ」
「まさか」
 カイとジンは盾の後ろを通って荷車に近付き、ナジム達を見た。
 一般人達は、ドラゴンの巣に行き、卵を盗って来たりできるとは考えにくい。
 自然と目は、ナジム達3人に向かう。
「あ、ああ!これは何だ!」
 スレイドが叫んで、卵を掲げた。
「やっぱり!」
 カイが叫ぶのに、ユーリが言う。
「ドラゴンの方に転がせ!」
「お、おう!」
 カイは卵をドラゴンの方へと転がした。
 ドラゴンはそれを見るとブレスをやめ、卵を掴んだ。そして、ギッと荷車を睨みつけると、ばさりと飛び上がって、巣の方へと飛んで行った。
「行った……」
 誰かが言って、全員、体の力を抜いた。
「でも、誰があんなものを」
 副団長が言うのに、新たな緊張が生まれる。
「こ、この荷車にあったんだ!ユーリ達だろう!」
 ナジムがユーリに指を突きつけて言い、全員の目がユーリに向かった。


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