銀の花と銀の月

JUN

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見世だし

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 キリーも説明の為にセレムまで付いて来て、4人がかりで説明を受けたカリムは、考え込んだ後、レイリとラライエを呼んだ。
「まあ」
 ラライエは上品に驚き、レイリはううむと唸って笑った。
「確かに、一理あるなあ」
 カリムは嘆息した。
「今更見世だしねえ」
「あら、てて様。この前の透明アンコウの時に、万が一の時はって決めたのではないの?」
 それにカリムは苦笑した。
「まあね。
 でも、あれ以来、上物をお求めになるお客様が増えて、銀月への依頼も増えています。
 まあ、ユーリ抜きでも今と同じだけやってくれれば、まあ」
 それにカイとジンが首を振った。
「魔術士がいるといないじゃ、全然違いますよ。悔しいけど、ユーリが抜けたら戦力はガタ落ちですね」
「かと言って、本当に二足の草鞋ができるとも思えねえし」
 キリーは嘆息した。
「ガアグ殿下の側近とリアン殿下の側近が余計な事を言うから。
 それもこれも、どっちの殿下も決め手に欠ける能力しかないからなのに」
「おい、キリー。流石にそれはまずいだろ」
 ユーリが言うのに、
「ここだけの話に決まってるだろ。
 と言うか、お前の話なんだぞ。何をのほほんとしてるんだ」
とキリーが文句を言う。
「俺は、てて様の決定に従う。それしかないよ」
 ユーリはあっさりとしたものだ。
 それで全員、考え込んだ。
「週に1日だけにするとか」
「いや、そもそも、ユーリに遊妓が務まるのかな。きれいな服着て笑っていればいいんじゃないからね」
 レイリが笑いながら言う。
「そうよ。お客様が何を求めてるかを見抜いて、それに合ったおもてなし、受け答えをしないといけないのに。あなたと来たら、人にあんまり興味がないでしょう」
 ラライエも困ったように言う。
「え。そうかなあ」
 ユーリが考え込み、頷く。
「うん。仲のいい人以外は、確かに割とどうでもいいな。面倒臭い。魔式の構築とか考えてた方がずっと楽しいよな」
「てて様。だめだ。こいつがとれる客は、魔術論議ができる人だけだ」
「でもそうなったら、ずっと2人で魔術の話をし続けそうね」
 レイリとラライエの言う事を想像して、カリム、カイ、ジン、キリーは思わず笑った。
 そしてカリムは咳払いして、どうにか言った。
「まあ、見世だししない訳には行きません。それは決定です。
 レイリ、ユーリを仕込んでおくれ。何とか恰好がつくように」
 レイリとユーリは、素直に返事をした。

 カイとジンとでどうにかできる仕事に行き、暇を持て余したキリーは銀花楼の事務を手伝い、ユーリは朝からずっと、踊りやら生け花やら歌やら楽器やらを、復習したり、新しいものを覚えたりしていた。夜は接客を見て、レイリが客と部屋へ入ると、服の管理や客の名前の暗記などに努める。
 どこから広まったのか、ユーリが見世だしするという話は広まり、探索者協会では銀月がまたも噂のタネになっていた。
「なあ、ユーリ、大変そうだな」
 カイが言うのに、ユーリは嘆息する。
「レイリは優しそうに見えて、厳しいんだよ。後輩の指導には」
 それにあははと笑って、笑っている場合じゃなかったとカイとジンはしかめっ面をする。
「遊妓としてやってます。でもお客がついてません。これじゃ誤魔化せないのか?」
 キリーが提案するが、自分で言い直す。
「ああ、だめか。あいつらが直に確かめにでも来たらバレる」
 4人揃って溜め息をつき、ユーリを見た。
「はあ。見た目は誤魔化せるんだよな」
 ユーリは元々、顔立ちそのものは悪くない。銀髪に緑の目で、魔術が主体だけあって、魔銃剣を振る筋肉はあるが、探索者としては細く、中性的だ。それを考慮したものか、男女どちらともつかないデザインで、それが似合っている。
「ま、探索者もしていいって言ってたし、なるようになるだろ」
 呑気にユーリが笑い、そうして見世だしの日がやって来た。

 
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