銀の花と銀の月

JUN

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何かと噂の新人

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「今日だろ」
 探索者協会のロビーはいつも騒がしいが、今日はいつもに増して騒がしい。
 誰それがデビューする、といって騒ぐのはよくある事だ。美人だとか、楽器が上手いだとか、どこそこの家の子だとか、デビューのお披露目に着る服はかなりいい物らしいとか。
 しかし、「現役探索者が」というものは前代未聞だった。
「ユーリ・セレムだろ?ドラゴンの卵を皇都に持ち込もうとしてドラゴンを呼んじまったから、追放になったっていう」
「バカ、それは無実って証明されたんだぜ。知らねえのか」
「あれだ。チームの3人だけで殲滅アリを巣ごと駆除したって銀月の魔術師」
「この前も、透明アンコウと銀花を持ち帰ったんでしょ、あのチーム」
「いい腕だよな」
「それが何で、見世だしするんだ?」
 ワイワイガヤガヤと騒ぎ、本人は無理でもカイかジンがいれば事情を訊くのに、と思うが、カイもジンも、今日は大人しく銀花楼にいた。

 虹の鳥のエマ達は、ムスッとしながら適当な依頼を探していた。
「もしユーリが抜けるんなら、カイとジンはどうするのかな」
 ライラが言い、ユンが即、応えた。
「2人だと受けにくいものがあるはずよね。私達と一緒にやらないか誘ってみる、エマ?」
 それにエマは、勢いよく振り返って叫ぶように言った。
「ばっ!?なんで、あんな奴、気にしてやる必要があるのよ!」
「え、だって。ねえ、ライラ」
「そうね、ユン」
 2人からじいっと見られ、エマは視線をさ迷わせた後、
「ま、向こうから頼んで来たら、考えてあげてもいいけど。一番下っ端ね」
と赤い顔で言って、ライラとユンはくすくすと笑った。

 トニーは不機嫌に噂話を聞いていた。
「くそっ」
「何だ、トニー。いつもからかってたのに」
 明宵メンバーが言うのに、ジロリとした目を向けるが、別の1人が訳知り顔で言う。
「あれはトニーの照れ隠しだろ。好きな子を虐めるってアレ」
「アホ。オレはガキか。
 ユーリはガキの頃から一緒に遊ぶ仲間だったんだよ。ほかのジルラやフルイエ達と違って皇都で魔術師になるって聞いてたのに、戻って来やがって探索者なんてしてやがるから、何してやがるのかって思っただけだ」
 トニーはそう言って、フンと鼻から息を出した。
「まあ、仕方ないな。ユーリはセレムの子だしな」
 1人が言うのに、不満顔ながら渋々頷く。
「カイとジンはどうするんだろうな。
 カイもジンもいい腕だけど、2人でやるのはキツイんじゃねえか」
「俺達のチームに誘ってみるか」
 彼らはそう言って、依頼を探し始めた。

 ニキータは作り上げた飾り物のキセルを持って、銀花楼へ行った。
「シラルさん。これをユーリに」
「おお、セエトさん。これはまた見事な」
「はい。東方のキセルに似せて作ったものです。
 護身用ですので、大きなものはできませんが」
 見た目は美術品にも見えるキセルだが、これは、杖だった。魔銃剣と造りは同じだが、小さい分、全力の魔術は撃てない。
「シラルさん」
「大丈夫ですよ」
 カリムは柔和な顔でそう言い聞かせるように言った。

 ユーリはレイリやジルラから、最後のチェックを受けていた。
「まあ、及第点はあげましょうか。
 でも、もう少し愛想よくできないものかな。冷たく当たるのも、優しさがないとダメなんだよ?ユーリは、無関心さが現れているからねえ」
 レイリが嘆息した。
 ジルラも眉を寄せたが、ユーリの肩を叩いて笑った。
「ま、幼馴染だけど、俺は遊妓としちゃあ先輩だ。困った時には知らせろ。何とか助けてやるから」
「うん。ありがとう」
 ユーリは呑気に言うと、
「なあ。それより本当に行列で歩くのか?今更顔見せもないだろう?」
 遊妓はデビューの日、街の門の所からゆっくりと行列を作って見世まで歩くのが習わしだ。その時に、姿形、衣装、調度品などを見物人にじっくりと見せるのだ。
 客はそれで、新しい遊妓の顔を知り、気に入れば今後指名する。
「仕方ないだろう。俺だってやったよ」
 ジルラがウンザリという顔で言う。
 ひたすらゆっくり、亀の散歩みたいなスピードで進むのだ。それで気が引き締まって心構えができるというのは事実だが、だるい、面倒臭いというのもまた、事実である。
「雨とか真夏とかじゃなくて良かったじゃないか」
 レイリに苦笑され、ユーリは苦笑を返した。


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