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新人顔見世
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ゆったりとした音楽が響き、静々と行列がセレムの中央に走る街道を進む。
「あれがユーリか。凄い魔術師なんだってなあ」
「うわっ、豪勢な持ち物だな!調度品は上等な物ばかりで、衣装箱はいくつあるんだ?」
「後ろ盾が、ホランド商会と、噂では皇帝陛下らしいからな」
「何で皇帝陛下が?」
そういう囁きがあるかと思えば、
「あれがユーリか」
「上手く化けたな」
「子供の頃はなかなかけんかっ早くて負けず嫌いだったんだがな」
「ああ。かわいい顔して、やられたら必ずやり返すし、怒らせたら怖かったってうちの子も言ってたな」
「今も似たようなもんだろ?探索者として魔物に相対すれば、容赦の欠片もねえって聞くぜ」
という囁きもある。
ユーリは澄まして歩きながら、
(重い。暑い。視線が鬱陶しい)
と思っていた。
見物人は、セレムの住人や訪れていた客だけではない。わざわざ皇都からも訪れており、語り草になるほどの混み具合だ。
その彼らの視線を浴びながら、銀花楼へと入って行き、用意された部屋へ行く。
そして荷物を運んで来た男衆が、てきぱきとそれらを並べ、しまう間、ユーリは廊下の椅子に座って休憩した。
「遅く歩くのも却って疲れるな」
ジルラはケラケラと笑い、扇子でパタパタと仰いでやる。
「ははは!値踏みされるんだからしょうがないな!」
そこにカリムが近寄って来る。
「ユーリ、お客様がご指名ですよ。発表直後に申し入れて来た、ベルリッツ伯爵」
ユーリはよっこらしょと立ち上がると、首を左右に倒してコキコキ鳴らした。
ベルリッツ伯爵は、ガアグ派の貴族だ。ユーリが皇帝とイリーナの子である可能性があるとわかり、魔術師としての才能の高さと皇帝が興味を持っている事から、ご落胤ではなく正式に庶子として認知される可能性を考慮し、いくらなんでも遊妓として客を取った人間を皇太子候補には皇帝も入れるまいと、ガアグとリアンの側近達が相談して送り込んだ客だ。
見た目は優しそうな貴公子然とし、物腰は穏やかで、女も男も遊び慣れている。
そのベルリッツは、皇都での聴聞会でユーリに興味を引かれていたので、白羽の矢が立った時には、渡りに船と内心小躍りした。
ベルリッツにすれば、もしユーリがご落胤だとしても、気後れなどしない。むしろ、ラッキー、と思うだけだ。
それも、ガアグ派、リアン派、両方からのお墨付きをもらって手を出せるなら安心だ。
むしろユーリの馴染みにでもなれれば、派閥内での立場が上がる可能性もあるかも知れないと考え、とにかく機嫌がよかった。
その、ベルリッツのいるサロンの個室がノックされた。
「失礼します」
「はい。どうぞ」
返事をすると、ドアが開いて、禿を従えたユーリが姿を現した。
サロンの個室に並んだ料理で、その客はまず1回目の品定めをされる。
頼んだ料理の種類と量。少なければケチと笑われ、金に物を言わせればやぼと笑われる。
「やあ、どうぞ。
初めまして。遠目に見た時もきれいだと思ったけど、こうして近くで見ても、やっぱりきれいだね」
にっこりと言うベルリッツに、
「恐れ入ります」
とユーリは無表情で答えた。
ベルリッツは
(緊張してるせいかな)
と考え、深く捉えなかった。
「在学中から何かと名前は聞いていたから、興味はあったんだよ。まさか、こうなれるとは思わなかったけど」
ベルリッツは言いながら、禿を手招きし、小遣い程度が入った祝儀袋を渡した。心付けだ。これのない客も、やぼだ。
「あにさん、ありがとうございます」
禿はにっこりと笑い、それを受け取った。ユーリよりよほど愛想がいい。
「何か飲む?」
「いいえ」
「じゃあ、行こうか。楽しみだ。この俺が一番とはね」
笑ってユーリの肩に手を置いた。
と、その手が振り払われ、ベルリッツはキョトンとした。
「あれがユーリか。凄い魔術師なんだってなあ」
「うわっ、豪勢な持ち物だな!調度品は上等な物ばかりで、衣装箱はいくつあるんだ?」
「後ろ盾が、ホランド商会と、噂では皇帝陛下らしいからな」
「何で皇帝陛下が?」
そういう囁きがあるかと思えば、
「あれがユーリか」
「上手く化けたな」
「子供の頃はなかなかけんかっ早くて負けず嫌いだったんだがな」
「ああ。かわいい顔して、やられたら必ずやり返すし、怒らせたら怖かったってうちの子も言ってたな」
「今も似たようなもんだろ?探索者として魔物に相対すれば、容赦の欠片もねえって聞くぜ」
という囁きもある。
ユーリは澄まして歩きながら、
(重い。暑い。視線が鬱陶しい)
と思っていた。
見物人は、セレムの住人や訪れていた客だけではない。わざわざ皇都からも訪れており、語り草になるほどの混み具合だ。
その彼らの視線を浴びながら、銀花楼へと入って行き、用意された部屋へ行く。
そして荷物を運んで来た男衆が、てきぱきとそれらを並べ、しまう間、ユーリは廊下の椅子に座って休憩した。
「遅く歩くのも却って疲れるな」
ジルラはケラケラと笑い、扇子でパタパタと仰いでやる。
「ははは!値踏みされるんだからしょうがないな!」
そこにカリムが近寄って来る。
「ユーリ、お客様がご指名ですよ。発表直後に申し入れて来た、ベルリッツ伯爵」
ユーリはよっこらしょと立ち上がると、首を左右に倒してコキコキ鳴らした。
ベルリッツ伯爵は、ガアグ派の貴族だ。ユーリが皇帝とイリーナの子である可能性があるとわかり、魔術師としての才能の高さと皇帝が興味を持っている事から、ご落胤ではなく正式に庶子として認知される可能性を考慮し、いくらなんでも遊妓として客を取った人間を皇太子候補には皇帝も入れるまいと、ガアグとリアンの側近達が相談して送り込んだ客だ。
見た目は優しそうな貴公子然とし、物腰は穏やかで、女も男も遊び慣れている。
そのベルリッツは、皇都での聴聞会でユーリに興味を引かれていたので、白羽の矢が立った時には、渡りに船と内心小躍りした。
ベルリッツにすれば、もしユーリがご落胤だとしても、気後れなどしない。むしろ、ラッキー、と思うだけだ。
それも、ガアグ派、リアン派、両方からのお墨付きをもらって手を出せるなら安心だ。
むしろユーリの馴染みにでもなれれば、派閥内での立場が上がる可能性もあるかも知れないと考え、とにかく機嫌がよかった。
その、ベルリッツのいるサロンの個室がノックされた。
「失礼します」
「はい。どうぞ」
返事をすると、ドアが開いて、禿を従えたユーリが姿を現した。
サロンの個室に並んだ料理で、その客はまず1回目の品定めをされる。
頼んだ料理の種類と量。少なければケチと笑われ、金に物を言わせればやぼと笑われる。
「やあ、どうぞ。
初めまして。遠目に見た時もきれいだと思ったけど、こうして近くで見ても、やっぱりきれいだね」
にっこりと言うベルリッツに、
「恐れ入ります」
とユーリは無表情で答えた。
ベルリッツは
(緊張してるせいかな)
と考え、深く捉えなかった。
「在学中から何かと名前は聞いていたから、興味はあったんだよ。まさか、こうなれるとは思わなかったけど」
ベルリッツは言いながら、禿を手招きし、小遣い程度が入った祝儀袋を渡した。心付けだ。これのない客も、やぼだ。
「あにさん、ありがとうございます」
禿はにっこりと笑い、それを受け取った。ユーリよりよほど愛想がいい。
「何か飲む?」
「いいえ」
「じゃあ、行こうか。楽しみだ。この俺が一番とはね」
笑ってユーリの肩に手を置いた。
と、その手が振り払われ、ベルリッツはキョトンとした。
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