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怒りの一撃
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カイが前に立ち、やや後ろにユーリ、その後ろにジン。たったの3人である。
対してナジム達は、剣や槍を手にした私兵達が5人、その後ろにナジム、スレード、モルド、元ローランド侯爵がいる。しかし、ナジムはやる気になっているようだが、スレードは怯えまくり、モルドはやる気を全く感じさせないでそこに立っているだけだ。元ローランド侯爵は、取り敢えず抗戦の意志は強そうだった。
「人相手の実践経験はあるのかい、坊や達」
言って、先頭の男が躍りかかって来るのを、カイがしっかりと剣で受けた。
そして明らかに舐めた顔付きで次の男がユーリに斬りかかるが、ユーリにあっさりと流されて体勢を崩され、目を見開く。
「ばかな。魔術師だろう?」
「魔術士が前衛をできないと誰が決めた」
ユーリは魔銃剣でそいつの肘の筋に斬りつけた。
これが人と人との戦争なら、魔術士は後ろから魔術を放つのが当たり前だ。しかし魔物はお構いなしで、乱戦状態でのやり合いになる。
しかも、ユーリは怒っていた。
「こんなつまらない事で街道を行く人々を危険に晒し、ケガを負わせたり、商売に影響を与えたりしただけでなく、まずいと思ったらそれを人に擦り付ける。
自分が一番でないから気に入らない?知った事か。何でも誰でも、自分に忖度してくれると甘えるなよ。
挙句、思い通りにならないのは相手がおかしいから、帝位簒奪するなんて迷惑だ。反乱がどれだけ生活に影響を与え、国家を疲弊させ、隙を見せるか。皇族のクセにわからないのか?」
ジンが背後から矢を射て、こちらの異変に気付いたほかの私兵達が来るのを上空から降り注ぐ矢で牽制する。
しかしそこから、魔術師達が杖を構えた。
ユーリはそちらに目をやると、
「今話をしてる所なんだから邪魔するな!」
と、無造作に魔銃剣を向けて引き金を引いた。
撃たれた氷の槍は杭のような形で彼らのすぐ目の前に幅5メートルほどにわたって深く突き刺さり、その杭に挟まれた5メートルほどの地面が、陥没した。
「謝れ」
しかしナジムは無視して睨みつけた。
「そうか」
ユーリは静かにただそう言うと、レバーをフリーにした杖を空に向け、引き金を引いた。
ナジム達は嫌な予感がして、ヒクッと喉を鳴らした。
そしてモルドは思い出した。
「思い出した。授業で演習に行った時、僕ら学生を舐めて、不真面目に、演習を適当に終わらせようとしたやつらにこいつが怒って、笑顔のまま演習場の真ん中にクレーターができるほどの魔術をぶっ放したんだった。
空が曇って、雷が鳴りだして、隕石がゴロゴロ降って来て。この世の終わりが来たのかと思った……」
呆然として呟き、そして震え出す。
ほかのものは、チラリと空を見た。
「え、曇って来た?」
スレードの声に、全員が空を見た。
青空だった空にグングンと灰色の雲が集まり、黒くなっていく。そして、方々で稲光が発生して雲間が光った。
「やばい」
ナジムが真っ青になって呟くと、元ローランド侯爵は疑うようにユーリとナジムを見、そしてやはり空を見た。稲妻が走り、大音響と共にピシャンと丘の頂上へと落ちる。
「あ」
カイが言ったのを皮切りに、何かが落ちて来た。雨ではない。もっと、大きくて、硬そうで、赤い。
「キリーが言ったのに!丘を谷にするなって!」
ジンが叫びながら頭を抱える。
「隕石!?」
「逃げろ!!」
「どこへ!?」
阿鼻叫喚の混乱の中、地響きを立てて隕石の雨が降った。
これを離れた所から見ていた人々は、
「神がお怒りになった」
と震え、これから言う事を聞かない子には、
「隕石が降って来るよ」
というのが当たり前になるのだ。
それはともかく、轟音が響き渡り、次から次へと隕石が降り注ぐ中、元ローランド侯爵達反乱軍のメンバーは右往左往して逃げ回った。
隕石は、とても盾で防いだり流したりできるものではないし、小説のように切り裂いたり砕いたりできるものでもない。ただただ、当たらないように逃げ惑うのみだった。
やがて隕石の雨が止んだ事に気づき、恐る恐る空を見上げた彼らは、雲間から光が差し込むエンゼルラダーを目にして、そこに座り込んで呆然とした。
呆然としたのは、反乱軍だけではない。包囲していたオーランド侯爵軍やカイ達も同じだった。
「あ……ああ……」
元ローランド侯爵が座り込んで周囲を見回すのと同じ頃、現ローランド侯爵も目の前の光景を見て座り込んでいた。
なだらかな丘だったものは平地になり、頂上だった所を中心にクレーターになり、巨石が林立していた。
「ナジム。謝れ」
ユーリが言い、呆然として声も出ないナジムと半分失神しているスレードのそばで、モルドが泣きそうな声で言う。
「ごめんなさい!本当にすみませんでした!
殿下、さっさと謝ってくださいよ!元は単なる嫉妬と失敗のごまかしでしょうが!」
ナジムは盛大に泣き出し、元ローランド侯爵はガックリと首を垂れた。お抱え魔術師は怯えながらも興奮してユーリを見、ほかの私兵達は腰を抜かしたり反抗する気を無くし、次々に我に返ったローランド侯爵軍に捕らえられて行った。
キリーはユーリにつかつかと近寄ると、肩を掴んでガクガクと揺すった。
「威力偵察って言ってただろ?それよりも、丘を谷にするなと言ったのに!」
「う、うっかりと勢いで戦闘に入っちゃって。はは。
た、谷にはしてない!平地だ!ちょっとだけ一部がへこんだけど」
カイとジンはその部分を見て呑気に言った。
「頂上だった所を中心にクレーターになってるぜ」
「そこに巨石が乱立してて、何か面白いよ」
「面白がるな!」
キリーが言うのに、ローランド侯爵が青い顔でややビクビクしながら言った。
「いえ、無事に解決できたので、ありがたい事です」
それに、慰めるようにジンが言う。
「えっと、観光名所みたいになりそうですよ」
キリーは肩を落として溜め息をついた。
対してナジム達は、剣や槍を手にした私兵達が5人、その後ろにナジム、スレード、モルド、元ローランド侯爵がいる。しかし、ナジムはやる気になっているようだが、スレードは怯えまくり、モルドはやる気を全く感じさせないでそこに立っているだけだ。元ローランド侯爵は、取り敢えず抗戦の意志は強そうだった。
「人相手の実践経験はあるのかい、坊や達」
言って、先頭の男が躍りかかって来るのを、カイがしっかりと剣で受けた。
そして明らかに舐めた顔付きで次の男がユーリに斬りかかるが、ユーリにあっさりと流されて体勢を崩され、目を見開く。
「ばかな。魔術師だろう?」
「魔術士が前衛をできないと誰が決めた」
ユーリは魔銃剣でそいつの肘の筋に斬りつけた。
これが人と人との戦争なら、魔術士は後ろから魔術を放つのが当たり前だ。しかし魔物はお構いなしで、乱戦状態でのやり合いになる。
しかも、ユーリは怒っていた。
「こんなつまらない事で街道を行く人々を危険に晒し、ケガを負わせたり、商売に影響を与えたりしただけでなく、まずいと思ったらそれを人に擦り付ける。
自分が一番でないから気に入らない?知った事か。何でも誰でも、自分に忖度してくれると甘えるなよ。
挙句、思い通りにならないのは相手がおかしいから、帝位簒奪するなんて迷惑だ。反乱がどれだけ生活に影響を与え、国家を疲弊させ、隙を見せるか。皇族のクセにわからないのか?」
ジンが背後から矢を射て、こちらの異変に気付いたほかの私兵達が来るのを上空から降り注ぐ矢で牽制する。
しかしそこから、魔術師達が杖を構えた。
ユーリはそちらに目をやると、
「今話をしてる所なんだから邪魔するな!」
と、無造作に魔銃剣を向けて引き金を引いた。
撃たれた氷の槍は杭のような形で彼らのすぐ目の前に幅5メートルほどにわたって深く突き刺さり、その杭に挟まれた5メートルほどの地面が、陥没した。
「謝れ」
しかしナジムは無視して睨みつけた。
「そうか」
ユーリは静かにただそう言うと、レバーをフリーにした杖を空に向け、引き金を引いた。
ナジム達は嫌な予感がして、ヒクッと喉を鳴らした。
そしてモルドは思い出した。
「思い出した。授業で演習に行った時、僕ら学生を舐めて、不真面目に、演習を適当に終わらせようとしたやつらにこいつが怒って、笑顔のまま演習場の真ん中にクレーターができるほどの魔術をぶっ放したんだった。
空が曇って、雷が鳴りだして、隕石がゴロゴロ降って来て。この世の終わりが来たのかと思った……」
呆然として呟き、そして震え出す。
ほかのものは、チラリと空を見た。
「え、曇って来た?」
スレードの声に、全員が空を見た。
青空だった空にグングンと灰色の雲が集まり、黒くなっていく。そして、方々で稲光が発生して雲間が光った。
「やばい」
ナジムが真っ青になって呟くと、元ローランド侯爵は疑うようにユーリとナジムを見、そしてやはり空を見た。稲妻が走り、大音響と共にピシャンと丘の頂上へと落ちる。
「あ」
カイが言ったのを皮切りに、何かが落ちて来た。雨ではない。もっと、大きくて、硬そうで、赤い。
「キリーが言ったのに!丘を谷にするなって!」
ジンが叫びながら頭を抱える。
「隕石!?」
「逃げろ!!」
「どこへ!?」
阿鼻叫喚の混乱の中、地響きを立てて隕石の雨が降った。
これを離れた所から見ていた人々は、
「神がお怒りになった」
と震え、これから言う事を聞かない子には、
「隕石が降って来るよ」
というのが当たり前になるのだ。
それはともかく、轟音が響き渡り、次から次へと隕石が降り注ぐ中、元ローランド侯爵達反乱軍のメンバーは右往左往して逃げ回った。
隕石は、とても盾で防いだり流したりできるものではないし、小説のように切り裂いたり砕いたりできるものでもない。ただただ、当たらないように逃げ惑うのみだった。
やがて隕石の雨が止んだ事に気づき、恐る恐る空を見上げた彼らは、雲間から光が差し込むエンゼルラダーを目にして、そこに座り込んで呆然とした。
呆然としたのは、反乱軍だけではない。包囲していたオーランド侯爵軍やカイ達も同じだった。
「あ……ああ……」
元ローランド侯爵が座り込んで周囲を見回すのと同じ頃、現ローランド侯爵も目の前の光景を見て座り込んでいた。
なだらかな丘だったものは平地になり、頂上だった所を中心にクレーターになり、巨石が林立していた。
「ナジム。謝れ」
ユーリが言い、呆然として声も出ないナジムと半分失神しているスレードのそばで、モルドが泣きそうな声で言う。
「ごめんなさい!本当にすみませんでした!
殿下、さっさと謝ってくださいよ!元は単なる嫉妬と失敗のごまかしでしょうが!」
ナジムは盛大に泣き出し、元ローランド侯爵はガックリと首を垂れた。お抱え魔術師は怯えながらも興奮してユーリを見、ほかの私兵達は腰を抜かしたり反抗する気を無くし、次々に我に返ったローランド侯爵軍に捕らえられて行った。
キリーはユーリにつかつかと近寄ると、肩を掴んでガクガクと揺すった。
「威力偵察って言ってただろ?それよりも、丘を谷にするなと言ったのに!」
「う、うっかりと勢いで戦闘に入っちゃって。はは。
た、谷にはしてない!平地だ!ちょっとだけ一部がへこんだけど」
カイとジンはその部分を見て呑気に言った。
「頂上だった所を中心にクレーターになってるぜ」
「そこに巨石が乱立してて、何か面白いよ」
「面白がるな!」
キリーが言うのに、ローランド侯爵が青い顔でややビクビクしながら言った。
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