銀の花と銀の月

JUN

文字の大きさ
68 / 90

ヒルの化け物

しおりを挟む
 そいつはブヨブヨとしていて、身動きするたびにブルブルと体が震えていた。体表はぬめぬめとしており、形状は長細い。
「ヒルか」
「ヒルですね」
 ただ、大きさがおかしかった。小さい筈の口は大人の胴体以上に太く、長さは10メートルほどもある。
「こいつに血を吸われたら、一瞬で干からびるんじゃないか」
 ガアグはそう言って、ニヤリとした。
「だが、たかがヒルだ。火が弱点だろう!炎だ!」
 それで魔術師が魔術で火を叩きつけるが、届かない。魔術を防ぐ盾が全身に張り巡らされていたのだ。
「ならば斬るまで!!」
 ガアグはそう言って突撃して行った。
 が、刃先が体の表面を滑り、傷を付けられない。
「何だと!?」
 同じく殺到して行った部下達だったが、やはり攻撃は弾かれている。
 表皮も固く、槍で垂直に突いても浅く傷が入るだけで、しかも粘液ですぐに傷口が塞がってしまう。
「うわああ!?」
 ヒルが体をくねらせた拍子に、取り付いていたガアグらを弾き飛ばした。
 だが、その口からはバタバタと暴れる兵の下半身が出ており、ズルリと呑み込まれて消えた。
 そして、ヒルはほかのたくさんのエサ――ガアグ達の方を向いた。
「殿下、お下がりください!」
「ぬう……!」
「魔術はダメでも、周囲を燃やしてその炎で焼き殺せば!?」
 部下の1人が助言するが、副官は首を振った。
「森に火が広まったらどうする。それで火から逃れようとした魔物が街の方へ向かったら」
 ヒルはブルブルと震えながらガアグらに近付いて行き、涎のしたたる口を開いた。
 声がしたのはその時だ。
「頭を下げろ!」
 兵は命令には即従うように教育されているものだ。反射的にその場でしゃがんだ。
 その上を、ユーリ、カイ、ジンが飛び越えた。
「んなっ!?」
 副官が目を見開く。まさか第一皇子の頭上を飛び越える者がいるとは思わなかった。
 が、そんな場合ではないと即思い直す。
「ほいよ!」
 ジンが矢をその喉の奥に射かける。その矢は喉の粘膜をわずかに傷つけて、落ちた。
 同時にユーリが魔銃剣をヒルの体に突き立てる。そしてその状態で、魔術を撃ち込んだ。それで体内で炎が吹き荒れ、矢にくっつけて中に射かけた油に引火した。
 ヒルは体を苦し気にのたうち回らせ、何カ所か体表に裂け目ができる。
 その裂け目にカイが剣を入れてそこから一気に体を切り裂く。
 粘液にまみれた兵が数人出て来る。消化され始めている者もいるし、先程の者はまだ五体満足でグッタリしているだけだった。
 それをチラリと見ただけで、ユーリは首の辺りに入った切り目に魔銃剣を突き込み、頭の方へ向けて次の魔術を放つ。氷だ。
 それで頭部はシャーベット状になって行く。
「この辺かなっと」
 カイはその頭部を斬る。粘液が凍って、刃が入るのだ。それに皮も、凍り付いた事で弾力を失い、斬れるようになるのだ。
 2度剣を振るったところで魔石が露出した。
「あったぜ!」
 カイは剣をふるって、一抱えほどの魔石を周辺の肉ごと切り離した。
 それをカイに任せたまま、ユーリは出て来た兵に立て続けに魔術を浴びせていた。まずは消化液を洗い流し、それから治癒させる。
「おい!アラン!しっかりしろ!」
 我に返った兵達が、彼らに駆け寄り、名前を呼ぶ。
 最後に喰われた兵は無事だったが、半分溶けた者は、もう無理だった。ほかの体表が溶かされて火傷のようになっていた者は、皮膚が再生されて治ったが、意識はぼんやりとしたり、戻らなかったりしていた。
 脳が酸欠状態になっていたせいで、この先どうなるかはわからない。
 副官は部下が助かったのにホッとしたが、飛び込んで来たのが銀月だとわかると、複雑な気分になった。ガアグはユーリ達を、不機嫌そうに眺めていたのだ。
「一応礼は言っておこう」
 とてもそうは見えない様子でそう言うガアグに、ユーリは返す。
「いえ。それよりも、彼らを後送した方がいいですよ。助かった人も、脳に障害を負っている可能性が高いので」
「わかった」
 ガアグはそう言って副官を見ると、副官はホッとして、そのために動き始めた。
「さあて。まずは戻って、現状の様子を聞こうか」
 ユーリはカイとジンを振り返った。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

王女と2人の誘拐犯~囚われのセリーナ~

Masa&G
ファンタジー
王女セリーナが連れ去られた。犯人は、貧しい村出身の二人の男。だが、彼らの瞳にあったのは憎しみではなく――痛みだった。 閉ざされた小屋で、セリーナは知る。彼らが抱える“事情”と、王国が見落としてきた現実に。 恐怖、怒り、そして理解。交わるはずのなかった三人の心が、やがて静かに溶け合っていく。 「助けてあげて」。母の残した言葉を胸に、セリーナは自らの“選択”を迫られる。 ――これは、王女として生きる前に、人としての答えを、彼女は見つけにいく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...