銀の花と銀の月

JUN

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魔の森

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 戦場が森というだけなら、まだ良かった。山岳部隊なども軍にはある。
 だが、この魔の森では、集められた軍の兵士も魔術団の魔術師も、苦戦していた。
 というのも、彼らが想定し、訓練して来たのは、相手が人間であり、普通の魔素量での戦いだ。魔素が濃く、魔物が相手とあっては、たまに魔獣を討伐していた程度では、勝手が違っていたのだ。
 それでも、徐々に体が慣れて行ける者はまだいい。どうしても受け付けない者は、魔素に酔い、具合を悪くしたり、錯乱する事もある。
 そこを魔物に襲われると、ひとたまりもない。本人だけでなく周囲も巻き込み、被害が大きくなってしまう。
 探索者は迷宮の低階層から徐々に体を慣らして、「探索者」という人種になっていくのだ。
 ユーリ達が魔の森に着いた時、動けないで後方にいた者、フラフラで戦いになどならない者がかなりいた。体をどうにか慣らせ、魔物との戦いにも慣れて来た者の中には、ガアグも含まれていた。
「殿下、お待ちください!お、お1人で先行されますと」
 警護官は、視界も悪く、気配も読みにくいこの魔の森で、いつどこからいつ襲われるかと気が気じゃない。
「がはははは!心配いらん!」
 ガアグは機嫌よく笑った。
 しかし内心では、やり難さに舌を巻く思いだった。ガアグは剛力に物を言わせ、正面から1対1でぶつかって相手をねじ伏せるのが得意だ。しかもこんなに木が生えていては、邪魔で邪魔で仕方がない。
 チラリと部下を見ると、魔素の濃さや続く緊張に顔色を悪くしている者が少なくない。
 比較的魔術師は魔素に強いが、魔術士に頼っていると魔力切れですぐに動けなくなるので、やはり多用するわけにもいかない。
 魔素が濃いなら使った魔力分の魔素を補給して魔力にできそうなものなのに、魔素を取り入れられる量というものに変化がないのか、相変わらず魔術師達は魔力切れを起こしていた。
「ウヨタリ、メメンサの軍も、どうにか魔物を魔の森から流出させないように押さえてはいますが、ラトロヌだけはわかりません」
 副官の報告に、ガアグは鼻を鳴らした。
「あの国だけは、どうして協力ができないのか。全く」
 ラトロヌは未だに、頑なに自国への立ち入り、自国の状況を開示する事、共同で作戦に当たる事を拒んでいた。
 だからというのもあるが、以前、国境でウロチョロした挙句に帰って行き、イラッとしたガアグがつい追いかけて、ラトロヌ内で戦闘になってしまって大問題になりかけ、皇帝に叱責された上謹慎を言い渡された事があった。その事から、ガアグはよりラトロヌが、嫌いで嫌いで仕方がなくなっていたのである。
「うっかりラトロヌ軍と出会ったら、魔物と間違えて攻撃してしまうかも知れんな」
 ガアグの独り言に、部下達はギョッと息を呑んだ。
「殿下。戦争になります。おやめください」
 副官に注意され、ガアグは不機嫌に眉を寄せた。
「それも悪くないだろう。元々我がトゥヤルザ帝国は、そうして大きくなってきた国だろう。この広大な国土は戦火の証、多様な文化は併合の証。教科書にも載っているぞ」
 それがガアグの持論だ。
 ガアグは、先祖の成して来た併合、侵略の歴史を再び再開させ、トゥヤルザ帝国で大陸を統一したいと本気で考える人間だった。
 副官はどういさめようかと頭を悩ませたが、巨大なヒルのような魔物が現れ、そこでその話題は棚上げされた。

 魔動車で走り続け、ようやく魔の森の辺縁部に辿り着いたユーリ達は、そこの雰囲気に眉をひそめた。
 ケガをして呻く者もいれば、魔素酔いあるいは魔力切れで青い顔で倒れ込んでいる者もいる。
「何だ、これは。これが帝国の軍人か?」
 キリーが小声で呆然とした声を上げた。
「そう言ってやるな。徐々に慣らさずに突っ込んで行ったらこうなるんだぜ」
「たぶんガアグ殿下は、魔物を見て突っ込んで行ったんだろうな。魔素に強い体質だったのが災いしたってところかな、ほかの皆にとっては」
 カイとユーリが淡々と言い、事情を知っていそうな人物を探した。
 が、事情を訊く前に、森の中から狼煙が上がった。
「助けを乞う、魔術師、軍人?」
「あの方向は、ガアグ殿下……!」
 そちらから送られて来たばかりの兵がそう言って戻ろうとするのを、医療部隊の隊員が肩を貸しながら止める。
「放してくれ!」
「やめろ!そのケガを治して行ったところで、疲労までは取れないんだぞ!?」
「でも、殿下にもしもの事があったら、我々の部隊は!」
 ユーリ、カイ、ジンは歩き出し、カイがその兵の肩を叩いた。
「心配いらねえよ。オレ達銀月が来たんだぜ」
「この方向か。カイ、ジン、いつも通りだ」
「おう!」
「わかった」
 それでユーリ達は、魔素の濃さもものともせずに走り出した。


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