銀の花と銀の月

JUN

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走馬灯

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 エマ達はどうにか、上へ向かって進んでいた。例え最初から2階分でも、上へ向かっているというだけで違うものだ。
 ドラゴンなどの大物が出ないのは幸いだった。
「次に安全地帯が見付かったら、そこで一泊しましょう」
 リーダーが声をかけ、商人達もややホッとした表情を浮かべた時だった。
 下から、濃い魔素の塊が近付いて来るような感じがした。
「何だ?」
 ベテラン達でさえ、顔色を変えた。
 いや、ベテランだからこそか。
「これだけのものって……それこそドラゴンとかじゃないでしょうね」
 その緊張感は、後輩や、商人にも伝わって行く。
「急いで進んだ方がいい。急ごう、皆!」
 ハッとしたリーダーの言葉に全員が我に返ったようになり、疲れも何もかも忘れて、足を速めた。
 だが、濃い魔素の中で動くのに慣れていない商人達には、限界がある。ただでさえ、歩きやすい街中の道とは違うのだ。
 次第に遅くなり、魔素の塊は近付いて来る。
「追いつかれる!」
 殿を務めていた探索者が、焦った声を出した。
「ああ!あそこに階段がある!皆急げ!」
 リーダーが言った時、とうとうそれが姿を見せた。
 それは人だった。金糸や銀糸をふんだんに使った衣装は、ラトロヌのものに見える。それもかなり高そうだ。そしてその人物の頭には王冠が載っており、手には宝石のはめ込まれた剣を握っていた。そしてその高そうな衣装に上から、胴体部分には鎧のようなものが着けられている。
 説明はできないが、本能的に、その鎧は禍々しさを感じさせた。
「ヒイッ!?」
 誰かがか細い声を上げた。
「急げ!!」
 リーダーが言って、全員が走り出した。
 その背中に向かって下から来た男は掌を向ける。どう見ても、魔術を放つ気だ。
「嘘でしょ!?」
 引き攣った声で、一応魔術を使えはするという探索者が言う。
「あれ、何をする気だ!?」
「も、もの凄い、氷だと――」
「防げないんですか!?」
 エマが、銀月を思い出してそう言ったが、彼女は首を振った。
「無理!そこまでの盾は――来た!」
 人間は死ぬ前に走馬灯というものを見るらしい。エマはそう聞いていたので、
(ああ、これが走馬灯というやつなのか)
と目の前の光景を呆然として眺めていた。
 後ろ――列の先頭から飛び込んで来たユーリが、最後尾で盾を展開する。そしてその盾に、轟音を立てて冷気と太い氷の槍が何本もぶつかる。そして、表の盾が壊れていく。
 やがて氷と冷気の噴出が止まると、エマの横をすり抜けるようにしてカイが飛び出して行った。
 続くジンの声が、エマ達を正気付かせた。
「階段の途中は安全です!そこまで上ってください!」
「ジン!?それに、カイ!ユーリ!
 え、何で?走馬灯じゃないの?リアルなんだけど?」
 エマが首を捻るが、ライラとユンがエマの背中をバンバン叩く。
「ボケてる場合じゃないでしょ!エマ、急いで!」
「あれ、本物だよ!助けに来てくれたんだよ!」
 男と剣で打ち合うカイと隙を窺うユーリを見ながら、エマはやっとそれが幻ではないとわかった。
「ああ……!」
 エマはホッと気が抜けそうになるのをこらえ、踵を返した。
「そうね。ガードしなくちゃ」
 商人について歩き出した。

「誰だ、あのおっさん」
 カイが男から距離を取って訊く。
「知らん。でも、あれって、アトラの胴だったりしないか?たぶん」
 ユーリが言うと、ジンも嫌そうに同意した。
「うん、たぶんね」
 それでカイも、渋々認めた。
「変わった防具ってわけもねえよな」
 となると、考えつくのは同じだ。
「あれ、ラトロヌの王か」
 何でここにいるのか、密入国したのか、そういう疑問は浮かんだが、些細な事だ。一番の疑問は、なぜアトラの胴に憑依されているのか、である。
「やっぱり、ラトロヌの祠は解放されていたんだね」
「情報は開示しろよな。よそにも関係のあることは」
「ガアグの時とおんなじで、ぶん殴って割るって事でいいんだな?」
「それしか取り敢えず解決策がわからないしな」
 お喋りタイムはここまでらしい。ラトロヌ王は剣を構え、
「うおおおおお!」
と吠えた。


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