殿様の隠密

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化け猫騒動(2)再会も墓地

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 翌日、与四郎と啓三郎は墓地を訪れた。
 幽霊を確認し損ねたと残念がる与四郎が墓地を明るいうちに見に行こうとし、それに啓三郎も付いて来たのだ。
 すると、同じように気になった康次も墓地に来ていた。
「この辺だったな」
 猫が踊っていた辺りを見下ろす。昼間に見ると何という事もない墓地だ。墓石があって、花が供えられている。
 しゃがみ込んでいた与四郎が何かを摘まみ上げ、
「猫の毛だ」
と言いながら立ち上がると、次は火の玉の出た方へと近付いて行った。
「うむ。化け猫も毛が抜けるのか」
「じゃあ、飯も食うのか?飯って何だ。まさか人の生き胆とか?いや、まさか」
 啓三郎も康次も、昼間だと余裕がありそうに見える。
「何かあったか、与四郎」
「いいや。足跡と何か丸い跡があるだけだよ」
 それ以上は何も見付からず、3人は団子でもと連れ立って城下町へ歩いて行った。

「聞いたか、また昨日出たんだってよ、化け猫。墓地の隣の婆さんが朝から青い顔でお経を上げてたぜ」
 床几に座ってお茶を啜っていると、周囲の客の声が聞こえて来る。それを聞くともなく聞いていた。
「化け猫の声がし出したら、頭から布団をかぶって聞こえないようにしながら化け猫がいなくなるのを待つに限る」
「いつも闇夜か月の暗い晩だからな。もう3日ほどしたら化け猫も出ねえよ。飲んで帰るのはそれからだ」
 そう言って笑うのは職人らしいグループだった。
「米も高くなったけど、魚も高いな」
「ああ。獲れないのかな」
「でも、笹屋は相変わらずはんじょうしてるぜ。江戸に毎回大量の干物を運んでるしよ」
「笹屋が全部買い占めて江戸に運んじまってるのか?」
「守銭奴め」
 そう言うのは商人のグループだ。
 与四郎たちは運ばれて来た団子をむぐむぐとかみしめ、同時に立ち上がると笹屋の方へと歩き出した。
「あそこか。確かに、相変わらず賑わっているな」
 藩御用達の看板を掲げる大商店で、城下町随一の大きさ、品物の豊富さを誇っているし、江戸の香りを伝える店でもある。
 冷夏の影響で日本中が大打撃だったのが、ようやく立ち直りかけて来たとは言え、まだまだ苦しいのが現状だ。その中で笹屋は、冷夏なんてあったのかというような賑わいぶりだ。
 その笹屋を、斜め向かいの路地から3人で見ていた。
「さっきの話は本当かな」
「大量の干物を買い占めて江戸で売りさばいているって話か?どうかな。海産物は、藩が財政の立て直しのために漁獲量もきっちり管理して、藩の役所を通して売ってるんだ。買い占めて売るなんてできるわけもないだろう。市場の魚を買い占めたって足りなさすぎる」
 啓三郎はそう言うが、康次は難しい顔で考え込んだ。
「いや、考えられるとしたら、密漁だ」
 それに、与四郎と啓三郎も考え込む。
「密漁か。できればだけどな」
「漁師に仲間がいないと無理だな。もしくは役人か。
 まずは漁師を洗ってみるか。役人は流石に伝手がない」
 与四郎が言い、啓三郎が頷くと、康次は決意を込めたような目を輝かせた。



 
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