払暁の風

JUN

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お化け寺(4)鯉

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 祐磨は快活な笑い声を上げた。
「そうか。お菊ちゃんは怒っていたか」
 弥太郎がコソッと両親にだけ全てを打ち明け、皆で家を留守にするように調子を合わせたのだが、他の皆は全てが終わってから知らされ、奉公人は驚きつつも良かったと胸を撫で下ろしたのだ。しかしお菊は拗ねて、口もきいてくれないのだった。
「弥太郎さんやおじさん、おばさんは知っていたのにって。でも、お菊ちゃんに言ったら絶対にバレるもん。お菊ちゃん、すぐに嘘とか隠し事がバレるんですよ、兄上」
 紀代松は困ったような顔で訴える。
「女の子はそういうものらしいからなあ」
「ううーん?」
「鯉を今度、見せてやったらいいだろう?それと、本当に星を見ようか。望遠鏡は、本当に興味がある。店の皆も招こう。佐倉、よろしく頼む」
「は、かしこまりました。
 それにしても、殿はお甘い」
「じいも望遠鏡を見たらきっと驚くぞ!思ってたよりもいっぱいまだ星があったんだ!小さいのとか、光が弱いのとか!」
「はいはい。それは楽しみでございますねえ」
「紀代松、哲太郎と鳥羽殿にも知らせてやれ。そうだなあ。明日はどうだろうか」
「訊いて来ます!」
 すっ飛んで行く紀代松を見送っていると、佐倉が溜め息をついた。
「今年は元服ですなあ。あの日が、ついこの間のようです」
「そうだな。その内には、紀代松にも全て話さなくてはな……」
「……どれ。上州屋にも、知らせて参りましょう」
「じい、風が出て来た。一雨来そうだぞ」
 池で鯉がポチャンと跳ね、波紋が広がった。



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