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お化け寺(3)幽霊退治と星
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星の観測会は、天気も良くて雲もなく、バッチリだった。
「あんなに大きく見えるなんて凄い!」
「ああ」
「星って、どのくらいあるんだろう」
「凄くたくさんあったな」
「どのくらい離れているんだろう。ここから長崎へ行って帰って来るのの、何倍かな」
「物凄いと思うぞ。いいから紀代。朝飯を食べろ」
「あ、うん」
哲太郎に言われ、思い出したように箸を進める紀代松に、お菊がお姉さんぶってお茶を渡す。
「仕方ないわねえ」
「あいがと」
それを、弥太郎達は微笑ましく見ていた。
食べ終えて、紀代松、哲太郎、弥太郎はこそこそと頭を寄せて作戦会議を始める。
「昨日は来なかったな」
「いつ来るかまで決めておいてくれれば良かったのになあ」
「引き込み役がわかればなあ」
三人で、奉公人を眺める。
この一年で考えると、新入りは数人いる。丁稚が二人、炊事をしてくれる女中が一人、店員が一人。このうちの女中は近所の後家さんで、昔から知っている人だ。
「怪しい動きをしないか見張ろうか」
「こんな子供がウロウロとくっついてたら、仕事の邪魔になるよ、哲」
「困ったな」
尚も三人は、ヒソヒソと会議を続け、お菊は、
「もう!男の子ばっかり集まってずるい!」
と口を尖らせた。
しばらくして、紀代松と哲太郎は上州屋の玄関に立っていた。
「どうもありがとうございました。弥太郎さんも、ありがとうございました。楽しかったです」
「いえいえ。またいつでもおいでください」
「急ですが、今夜よろしければうちにいらっしゃいませんか。姉上もいらしていて、おじさんやおばさんともお会いしたいとおっしゃっていましたよ。
兄上も、星を見ると言ったら、羨ましそうにしてらっしゃったので、弥太郎さんも是非。
お菊ちゃんも、どう?きれいな鯉がいるよ」
「行きたい!」
お菊が食いついた。
それに、弥太郎が乗る。
「そうですね。では、望遠鏡をお持ちしましょう。今日もいい天気ですし。ね」
それに、弥太郎の両親は笑って同意した。
「そうですな。では、お言葉に甘えて、お邪魔いたしましょう」
そして、紀代松と哲太郎は店の者に見送られて、上州屋を後にした。
夏の夜の怪談と星の観測会。
上州屋一家が家を出て、店はシンと静まり返る。住み込みの八人もどうかと誘ったら、新入りの店員一人だけが風邪気味だから残ると言い、皆、同行を申し出たのだ。
暗い夜道に、生ぬるい風が吹く。
そっと上州屋の裏木戸が開いて、店員おはまが顔を覗かせた。
そこへ、黒装束の男達が素早く入って行く。あの、廃寺にいたやつらだ。
「本当に誰もいねえのか」
「ええ。怪談と星の観測ですって」
「不用心だなあ。俺の言う事じゃねえけど。
で、蔵の鍵は」
「これよ。いつも店の帳場のところに置いてあるの」
「よし。今回の仕事は楽でいいねえ」
彼らはほくそ笑んで、蔵に近寄って行った。
そして、錠前に鍵を挿す。
そこで、声がかかった。
「そこまでだっ!」
ハッと振り返ると、紀代松、哲太郎、青山、鳥羽を先頭に、取り方が控えていた。
「怪談と星を見る会じゃ──!?」
紀代松は、得意そうに笑って言った。
「怪談だよ。お前ら、廃寺の幽霊だろう?幽霊退治さ」
「このガキ!」
手下の一人が突っ込もうとして、青山に転がされ、頭をぶつけて失神した。
「星は見えたか?」
彼に、哲太郎が問いかける。
「この野郎!」
「ひっ捕えよ!!」
鳥羽の命令で取り方がウワアッと躍りかかり、アッと言う間に賊は捕まった。
やる気満々だった紀代松と哲太郎だったが、青山に有無を言わさず後ろに庇われ、遠ざけられてしまった。
「お前が引き込み役か。従兄弟の紹介だったのに」
一番後ろで見守っていた上州屋主人が、言う。
「元々は向こうをやる気だったのが、意外とあの店は金が無いってわかったからね。『私の実家近くでどこか働き口を紹介してもらえませんか』って頼んだのさ。全く、してやられたよ」
ふてぶてしくそう言う美人店員に、弥太郎が肩を落とす。
「うそだ……優しくてきれいな……」
「弥太郎。まだまだ目を養わないとな」
上州屋主人は弥太郎の肩に手を置いて、まあ気持ちはわかる、と慰めながら言った。
「あんなに大きく見えるなんて凄い!」
「ああ」
「星って、どのくらいあるんだろう」
「凄くたくさんあったな」
「どのくらい離れているんだろう。ここから長崎へ行って帰って来るのの、何倍かな」
「物凄いと思うぞ。いいから紀代。朝飯を食べろ」
「あ、うん」
哲太郎に言われ、思い出したように箸を進める紀代松に、お菊がお姉さんぶってお茶を渡す。
「仕方ないわねえ」
「あいがと」
それを、弥太郎達は微笑ましく見ていた。
食べ終えて、紀代松、哲太郎、弥太郎はこそこそと頭を寄せて作戦会議を始める。
「昨日は来なかったな」
「いつ来るかまで決めておいてくれれば良かったのになあ」
「引き込み役がわかればなあ」
三人で、奉公人を眺める。
この一年で考えると、新入りは数人いる。丁稚が二人、炊事をしてくれる女中が一人、店員が一人。このうちの女中は近所の後家さんで、昔から知っている人だ。
「怪しい動きをしないか見張ろうか」
「こんな子供がウロウロとくっついてたら、仕事の邪魔になるよ、哲」
「困ったな」
尚も三人は、ヒソヒソと会議を続け、お菊は、
「もう!男の子ばっかり集まってずるい!」
と口を尖らせた。
しばらくして、紀代松と哲太郎は上州屋の玄関に立っていた。
「どうもありがとうございました。弥太郎さんも、ありがとうございました。楽しかったです」
「いえいえ。またいつでもおいでください」
「急ですが、今夜よろしければうちにいらっしゃいませんか。姉上もいらしていて、おじさんやおばさんともお会いしたいとおっしゃっていましたよ。
兄上も、星を見ると言ったら、羨ましそうにしてらっしゃったので、弥太郎さんも是非。
お菊ちゃんも、どう?きれいな鯉がいるよ」
「行きたい!」
お菊が食いついた。
それに、弥太郎が乗る。
「そうですね。では、望遠鏡をお持ちしましょう。今日もいい天気ですし。ね」
それに、弥太郎の両親は笑って同意した。
「そうですな。では、お言葉に甘えて、お邪魔いたしましょう」
そして、紀代松と哲太郎は店の者に見送られて、上州屋を後にした。
夏の夜の怪談と星の観測会。
上州屋一家が家を出て、店はシンと静まり返る。住み込みの八人もどうかと誘ったら、新入りの店員一人だけが風邪気味だから残ると言い、皆、同行を申し出たのだ。
暗い夜道に、生ぬるい風が吹く。
そっと上州屋の裏木戸が開いて、店員おはまが顔を覗かせた。
そこへ、黒装束の男達が素早く入って行く。あの、廃寺にいたやつらだ。
「本当に誰もいねえのか」
「ええ。怪談と星の観測ですって」
「不用心だなあ。俺の言う事じゃねえけど。
で、蔵の鍵は」
「これよ。いつも店の帳場のところに置いてあるの」
「よし。今回の仕事は楽でいいねえ」
彼らはほくそ笑んで、蔵に近寄って行った。
そして、錠前に鍵を挿す。
そこで、声がかかった。
「そこまでだっ!」
ハッと振り返ると、紀代松、哲太郎、青山、鳥羽を先頭に、取り方が控えていた。
「怪談と星を見る会じゃ──!?」
紀代松は、得意そうに笑って言った。
「怪談だよ。お前ら、廃寺の幽霊だろう?幽霊退治さ」
「このガキ!」
手下の一人が突っ込もうとして、青山に転がされ、頭をぶつけて失神した。
「星は見えたか?」
彼に、哲太郎が問いかける。
「この野郎!」
「ひっ捕えよ!!」
鳥羽の命令で取り方がウワアッと躍りかかり、アッと言う間に賊は捕まった。
やる気満々だった紀代松と哲太郎だったが、青山に有無を言わさず後ろに庇われ、遠ざけられてしまった。
「お前が引き込み役か。従兄弟の紹介だったのに」
一番後ろで見守っていた上州屋主人が、言う。
「元々は向こうをやる気だったのが、意外とあの店は金が無いってわかったからね。『私の実家近くでどこか働き口を紹介してもらえませんか』って頼んだのさ。全く、してやられたよ」
ふてぶてしくそう言う美人店員に、弥太郎が肩を落とす。
「うそだ……優しくてきれいな……」
「弥太郎。まだまだ目を養わないとな」
上州屋主人は弥太郎の肩に手を置いて、まあ気持ちはわかる、と慰めながら言った。
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