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面影(4)後悔
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翌日から、青山がきっちりとついて回った。
あまりのきっちりさに、背後霊かと慶仁は言いたくなった。それで、ちょっと抜け出してやろうかとこっそり稽古中に裏から塀を乗り越えようとしたら、読まれていた。
「凄いな、青山。何でわかったんだろう」
わくわくとしている慶仁に、哲之助は、これでしばらくの間は青山殿に興味深々だろうから大人しくしているだろう、脱走を教えて良かったと、密かに安堵したのだった。
何事も無かったような様子で竹下も道場へ来、慶仁も竹下と話をしている。
そして、稽古が終わると連れ立って帰途についた。
「哲之助、おじさん、何か言ってたか?」
「いや、別に。けがが無くて良かったとだけだな。
それと、昨日の襲撃犯は、生き残っていた者も自害したから、結局どこの誰かわからないな」
「昨日の襲撃犯?」
竹下が反応する。
「ああ。昨日の帰りに三人がね」
「返り討ちだぜ」
竹下は取り敢えず胸を撫で下ろしながら、熊沢の兄弟につく人間に知られたのではないだろうかとの思いを深くした。
と、前方に浪人が四人ばかり現れ、道を塞ぐ。明らかに、こちらを目的にした様子だ。
「慶仁様、哲之助様。後ろへ」
青山が刀に手をやりながら前に出る。竹下も、それに並ぶ。
「何用か」
竹下が言うのに、中の一人がニヤニヤとした。
「個人的に恨みは無いが、頼まれたのでな。悪く思わないでくれ」
そう言いながら刀を抜き、他の浪人達も続く。
それで、青山と竹下も抜いた。
「手出しはさせん」
一瞬の睨み合いの後、
「てやああ!」
という気合の声と共に浪人達が刀を振り上げて突っ込んで来、青山と竹下が前に出てそれを受ける。
「昨日のとは別口か?まさかな」
「ああ。お前がそんなに方々で恨みを買っているとも思えないしな」
「だったら伏兵がいるかな?」
慶仁と哲之助は、刀を抜きながら辺りに注意を向けていた。
青山と竹下は、手際よくかかって来た浪人を斬り、次の浪人へと目標を定める。それで浪人達の腰が引けたらしい。
「これ以上は、金に釣り合わん!」
叫んで、鮮やかな逃げ足で、走り去っていった。
「うわ……」
慶仁と哲之助がその逃げっぷりに呆然としていると、振り返った青山と竹下がギョッとしたような顔をした。
「慶仁様!」
青山と竹下が走って戻って来るのと、哲之助が振り返るのと、背後から気配がするのとが重なった。
しゃがんで振り返るその頭上を、何かが通り過ぎた。
そこにいたのは、弓を持った侍だった。
「チッ」
舌打ちをして、次の矢を手にする。
と、横合いから刀を振りかぶった侍が飛び出して来た。
「えっ!?」
「失礼いたします!」
しゃがんだまま受けたものの、上からの力が強くて動けない。
それへ青山が斬りかかって行き、彼は後ずさって距離を取る。同時に竹下が慶仁と弓を持つ侍の間に入り、その瞬間、衝撃と重い音がした。
「竹下?」
「あ、矢が!」
哲之助の声に、竹下が自分をかばって矢を受けたのだと慶仁はわかった。
その場に竹下を寝かせ、弓を持った侍を睨む。その侍は、慌てて次の矢を手にしようとしていた。
「貴様ァ!」
慶仁は走り出した。後ろから哲之助も追って来る。
侍が矢をつがえた時、距離はまだ、左手に下げた刀の届く距離に入っていなかった。
慶仁は思い切り、右手を振りかぶる。
「ていっ!」
拾って握っていた石が、侍の顔目掛けて飛んでいく。
反射的にそれを避けると、彼はギョッとした。距離が近い。それでも、慎重に狙いを定めようとする。
だが、次の瞬間、慶仁が蹴り上げた砂が顔面を襲う。
「卑怯、ペッ」
「どの口が卑怯とか言う!?」
慶仁と哲之助が、刀の距離に入って来て襲い掛かる。
侍は弓で刀を受け、どうにか退散するのがせいぜいだった。
「クソッ」
悔しいが、青山と竹下が気になる。
青山の方も、侍がどうにか辛くも退散したところだった。
「竹下!」
竹下は、矢を深々と肩に受けていた。
「大丈夫か!?」
「大事ありません」
「医者だ、医者!」
「それよりも岡本様に、この事を一刻も早くお知らせしなければ──!」
何せ、救急車も電話もない時代である。グズグズとここで迷っているわけには行かない。
「幸い矢は急所を外れております。岡本様の屋敷からでも十分でございます」
頑なに言い張る竹下に負けて、四人で岡本の屋敷へと急いだ。
医者の手当てを受けた竹下は、膿みさえしなければ、大丈夫だという事だった。
しかし、自分のせいかと思えば、慶仁は気が気じゃない。
「どうすれば良かったのだろう」
動きを思い出して、ああでもない、こうでもないと、頭でシュミレートしてみる。
「相手は弓矢でしたし」
「でも、浪人の方ばかり向いていたから、発見が遅れたんだ」
「そうだな。俺達は、後ろを向いて警戒すべきだったのかもな」
「でもそれだと、私や竹下殿が賊に抜かれればおしまいです。むしろその方が距離がなくて、対処が難しい事になりますよ」
三人で反省会をして、ううむと唸る。
そうしているうちに哲之助の家に着き、また明日、と別れた。
そして家に帰り、祐磨と佐倉にあった事を報告すると、二人は深刻な顔をした。
「兄上。もっと強くなりたいです」
慶仁の、これまでで一番悔しい経験だった。
あまりのきっちりさに、背後霊かと慶仁は言いたくなった。それで、ちょっと抜け出してやろうかとこっそり稽古中に裏から塀を乗り越えようとしたら、読まれていた。
「凄いな、青山。何でわかったんだろう」
わくわくとしている慶仁に、哲之助は、これでしばらくの間は青山殿に興味深々だろうから大人しくしているだろう、脱走を教えて良かったと、密かに安堵したのだった。
何事も無かったような様子で竹下も道場へ来、慶仁も竹下と話をしている。
そして、稽古が終わると連れ立って帰途についた。
「哲之助、おじさん、何か言ってたか?」
「いや、別に。けがが無くて良かったとだけだな。
それと、昨日の襲撃犯は、生き残っていた者も自害したから、結局どこの誰かわからないな」
「昨日の襲撃犯?」
竹下が反応する。
「ああ。昨日の帰りに三人がね」
「返り討ちだぜ」
竹下は取り敢えず胸を撫で下ろしながら、熊沢の兄弟につく人間に知られたのではないだろうかとの思いを深くした。
と、前方に浪人が四人ばかり現れ、道を塞ぐ。明らかに、こちらを目的にした様子だ。
「慶仁様、哲之助様。後ろへ」
青山が刀に手をやりながら前に出る。竹下も、それに並ぶ。
「何用か」
竹下が言うのに、中の一人がニヤニヤとした。
「個人的に恨みは無いが、頼まれたのでな。悪く思わないでくれ」
そう言いながら刀を抜き、他の浪人達も続く。
それで、青山と竹下も抜いた。
「手出しはさせん」
一瞬の睨み合いの後、
「てやああ!」
という気合の声と共に浪人達が刀を振り上げて突っ込んで来、青山と竹下が前に出てそれを受ける。
「昨日のとは別口か?まさかな」
「ああ。お前がそんなに方々で恨みを買っているとも思えないしな」
「だったら伏兵がいるかな?」
慶仁と哲之助は、刀を抜きながら辺りに注意を向けていた。
青山と竹下は、手際よくかかって来た浪人を斬り、次の浪人へと目標を定める。それで浪人達の腰が引けたらしい。
「これ以上は、金に釣り合わん!」
叫んで、鮮やかな逃げ足で、走り去っていった。
「うわ……」
慶仁と哲之助がその逃げっぷりに呆然としていると、振り返った青山と竹下がギョッとしたような顔をした。
「慶仁様!」
青山と竹下が走って戻って来るのと、哲之助が振り返るのと、背後から気配がするのとが重なった。
しゃがんで振り返るその頭上を、何かが通り過ぎた。
そこにいたのは、弓を持った侍だった。
「チッ」
舌打ちをして、次の矢を手にする。
と、横合いから刀を振りかぶった侍が飛び出して来た。
「えっ!?」
「失礼いたします!」
しゃがんだまま受けたものの、上からの力が強くて動けない。
それへ青山が斬りかかって行き、彼は後ずさって距離を取る。同時に竹下が慶仁と弓を持つ侍の間に入り、その瞬間、衝撃と重い音がした。
「竹下?」
「あ、矢が!」
哲之助の声に、竹下が自分をかばって矢を受けたのだと慶仁はわかった。
その場に竹下を寝かせ、弓を持った侍を睨む。その侍は、慌てて次の矢を手にしようとしていた。
「貴様ァ!」
慶仁は走り出した。後ろから哲之助も追って来る。
侍が矢をつがえた時、距離はまだ、左手に下げた刀の届く距離に入っていなかった。
慶仁は思い切り、右手を振りかぶる。
「ていっ!」
拾って握っていた石が、侍の顔目掛けて飛んでいく。
反射的にそれを避けると、彼はギョッとした。距離が近い。それでも、慎重に狙いを定めようとする。
だが、次の瞬間、慶仁が蹴り上げた砂が顔面を襲う。
「卑怯、ペッ」
「どの口が卑怯とか言う!?」
慶仁と哲之助が、刀の距離に入って来て襲い掛かる。
侍は弓で刀を受け、どうにか退散するのがせいぜいだった。
「クソッ」
悔しいが、青山と竹下が気になる。
青山の方も、侍がどうにか辛くも退散したところだった。
「竹下!」
竹下は、矢を深々と肩に受けていた。
「大丈夫か!?」
「大事ありません」
「医者だ、医者!」
「それよりも岡本様に、この事を一刻も早くお知らせしなければ──!」
何せ、救急車も電話もない時代である。グズグズとここで迷っているわけには行かない。
「幸い矢は急所を外れております。岡本様の屋敷からでも十分でございます」
頑なに言い張る竹下に負けて、四人で岡本の屋敷へと急いだ。
医者の手当てを受けた竹下は、膿みさえしなければ、大丈夫だという事だった。
しかし、自分のせいかと思えば、慶仁は気が気じゃない。
「どうすれば良かったのだろう」
動きを思い出して、ああでもない、こうでもないと、頭でシュミレートしてみる。
「相手は弓矢でしたし」
「でも、浪人の方ばかり向いていたから、発見が遅れたんだ」
「そうだな。俺達は、後ろを向いて警戒すべきだったのかもな」
「でもそれだと、私や竹下殿が賊に抜かれればおしまいです。むしろその方が距離がなくて、対処が難しい事になりますよ」
三人で反省会をして、ううむと唸る。
そうしているうちに哲之助の家に着き、また明日、と別れた。
そして家に帰り、祐磨と佐倉にあった事を報告すると、二人は深刻な顔をした。
「兄上。もっと強くなりたいです」
慶仁の、これまでで一番悔しい経験だった。
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