払暁の風

JUN

文字の大きさ
20 / 28

水戸への旅(1)弘道館

しおりを挟む
 祐磨、浜崎、慶仁は、熱い茶を飲んでいた。
「水戸ですか」
 突然出て来た言葉に、慶仁は首を傾げた。
「ああ。武者修行だ。強くなりたいと言っていただろう」
 竹下の怪我は順調らしいが、まだ、不自由しているだろう。
「弘道館。文武不岐を掲げ、馬術、兵術、剣道などの武術の他、天文、医術、算学、儒学などの学問も両方を大切にしている水戸の藩校だよ。どうだろう」
「行きたいです!」
「そうか」
 祐磨と浜崎は、頷いて笑った。
「あ。哲之助も行きたいかな」
「そうだな。哲之助も良ければ、是非誘ってみるといいね」
「ちょっと、行って来ます!」
 すっ飛んで行く慶仁に祐磨と浜崎は目を細めるが、十分に離れた所で表情を引き締めた。
「さて。問題は道中か」
「今、手の者に熊沢一派について探らせている。今のところわかっているのは、熊沢には子供があと三人いて、まだ誰が継嗣か決まっていないということだな」
「では、襲って来たのはその内のどれかの一派ですか」
「どうも、長男臭い。二男、三男は相手にもしていないようで、慶仁が唯一まずい相手だと思ったんだろうなあ。まあ、この前の襲撃で竹下殿がケガをしただろう。それで、ちょっかいが公になり始めて、目立つ真似はよろしくないと、長男も自重気味ってわけらしい。
 行くなら今だな」
「急がせましょう」
 祐磨と浜崎で相談が進み、慶仁と哲之助の水戸行きの話は、急速に進んだのだった。

 一八五七年に本開館式があったばかりの、日本で最も大きな藩校で、影響を受けた偉人も多い。
 十五歳になると家塾の教師が保証人となって入学願いを提出し、試験を受けて、合格すれば入学が許可された。生涯教育を原則とし、卒業はなし。四十歳以上は通学が任意となる。
 また、身分別に毎月の最低出席日数が決まっており、高い身分の者ほど、それが多い。
 月に二回の試文の試験の他に年一回の文武大試験があり、成績優秀者は表彰を受ける。

 急遽二人は試験の手続きをし、試験勉強をする事になった。
 学ぶ為に、まずは入学試験に合格しなければ話にならない。ドキドキ、ワクワクしながらも、プレッシャーを重く感じる二人だった。
「入学試験は、論語や孝経などから出題される購読だ」
 浜崎お勧めの教師が来て、勉学の程度を計られ、試験勉強を行う。
 そして早春。二人は水戸へと出立したのだった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

花嫁

一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...