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呪殺師・魅華(2)待ち人来たる
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蔦のようなものが足元から広がり、アッという間に、自分を中心とする檻になった。結界だと、習った知識からわかる。
さっきまでそこらにいた通行人も誰もおらず、取り出したスマホも使えない。
頭上を見上げると、てっぺんに丸く穴が開いていた。徐々にそれが小さくなっていく。それが完全に閉じたら、完全な結界が完成するという事なのか。
直は直観でそう思うと、カバンを引っ掻き回して、さっきまで課題で取り掛かっていた札を取り出した。そこに手早く「捕まった。つたのおり」と走り書きすると、それを放つ。
そしてそれが無事に鳩の姿に変じて上の穴から外へ飛び去った後、息をついた。
「はあ、頼むからちゃんと知らせてくれよ」
残りの札を確認すると、あと2枚だ。1枚は防御の術式が書かれ、もう1枚は新品で何も書かれていない。
この結界の大きさは、わからない。自分以外のものはいな――いや、いた。蔦に当たったのか、足元に小さなインコが落ちている。
「運の悪いやつだなあ」
言って、時々痙攣するような動きをするインコに、仲間意識を感じて手を伸ばす。
と、霊が2体、近付いて来た。そいつらが触れた所の草は生気を吸われて枯れ、そいつの濃さは増す。それが、こちらに目を付け、インコに、触手のように手を伸ばして来た。
「わっ、それ反則!」
カバン放り投げ、怯えて暴れるインコを引っ掴んで、走って逃げだした。
見え、札を使う事はできても、札がなければ見えるだけで、霊を祓う事はできない。そしてその札はたったの2枚。使いどころを考えないといけない。
幸い、あれの足はそう早くはないらしい。直とインコは、身を隠せそうな出っ張りの陰に飛び込んだ。
インコに目を落とすと、インコも驚いているのか、痙攣は収まっていたが、キョトキョトと見廻して、直の手から飛び立とうとしない。
てっぺんの穴は、小さいけれど、開いている。
「あそこから逃げるんだよ」
インコは顔を傾けるようにして直に正対し、上を見、また直を見た。
「言葉がわかってるみたいに見えるなあ」
直が思わず笑うと、インコはチチッと鳴いて、てっぺんの穴を目指して飛んで行った。
「元気でなあ。ええと、チュンコ?チュンキチ?」
見送って、
「そうだ。呑気に癒されてる場合じゃなかった」
と、我に返る。
あと2枚の札。どう使うべきか。既に1枚は防御の術式が書いてある。これがどの程度もつのかによって、もう1枚の使い道も変わる。
では、もち具合を確認するべきか。
「いやあ、度胸がいるよねえ、それ」
一撃でやられたら、アウトだ。祓うにしても、一枚しかない。もしこの後あれがぞろぞろ出てきたら?
「だめだ、おいそれと使えない。ああ、これからは、札はたくさん持ち歩こう。絶対にそうしよう」
ブツブツと決心を口にし、教科書を開いて役に立ちそうなものはないかと探す。
あれが、近づいて来るのがわかる。早くしないと、確実に見つかるだろう。
「あ、これだよ」
直は、急いでペンを掴んだ。
すぐ目の前を、そいつが通り過ぎる。それを直は、息を殺して見ていた。
直が見つけたのは、隠形の術式だった。それと防御の札で、粘らなければならない。
見る能力、聞く能力、祓う能力、それらは別のものらしい。手近に怜と京香さんしかいなかったから、どれもが揃っている怜が普通だと思っていたが、講習会に来てみると、必ずしもそうではないというのがわかった。
そして、神すら祓ってしまえる怜の方が、異常で、危険視されても仕方がないというのも。
でもここは、正直、祓う能力が羨ましい。
あれの手の届く範囲に入ると、流石にばれる気がする。
そろーっと、キョロキョロしているやつらの背中を見ながら、後退を始めた。
が、万時魔が多し。でこぼこに足を取られ、態勢を崩した拍子に、「わっ」と声を上げてしまった。しかも、捻挫したのか少し痛い。
「あ……」
背中に冷や汗が流れる。
「どうも」
直はにっこりと笑ってみた。
あいつが笑ったように見えたのは、決してフレンドリーな気持ちからではない。探していた獲物を見つけた喜びだろう。間違いなく。じっちゃんの名にかけるまでもなく!
「まだかよぅ、怜!」
「悪い。待たせたか」
景色にひびが入り、そこから、頼れる相棒がインコを肩にとまらせて結界に入って来た。
「怜。お前はナウシカかよ」
「?」
いつも通りのニュートラルな表情で首を傾ける怜と、同じタイミング、同じ角度で、偶然だろうがインコが首を傾ける。
それを見たら、直の肩からガックリと力が抜けた。
「おい、お前ら。覚悟はできてるんだろうな」
怜が、淡々と言った。
さっきまでそこらにいた通行人も誰もおらず、取り出したスマホも使えない。
頭上を見上げると、てっぺんに丸く穴が開いていた。徐々にそれが小さくなっていく。それが完全に閉じたら、完全な結界が完成するという事なのか。
直は直観でそう思うと、カバンを引っ掻き回して、さっきまで課題で取り掛かっていた札を取り出した。そこに手早く「捕まった。つたのおり」と走り書きすると、それを放つ。
そしてそれが無事に鳩の姿に変じて上の穴から外へ飛び去った後、息をついた。
「はあ、頼むからちゃんと知らせてくれよ」
残りの札を確認すると、あと2枚だ。1枚は防御の術式が書かれ、もう1枚は新品で何も書かれていない。
この結界の大きさは、わからない。自分以外のものはいな――いや、いた。蔦に当たったのか、足元に小さなインコが落ちている。
「運の悪いやつだなあ」
言って、時々痙攣するような動きをするインコに、仲間意識を感じて手を伸ばす。
と、霊が2体、近付いて来た。そいつらが触れた所の草は生気を吸われて枯れ、そいつの濃さは増す。それが、こちらに目を付け、インコに、触手のように手を伸ばして来た。
「わっ、それ反則!」
カバン放り投げ、怯えて暴れるインコを引っ掴んで、走って逃げだした。
見え、札を使う事はできても、札がなければ見えるだけで、霊を祓う事はできない。そしてその札はたったの2枚。使いどころを考えないといけない。
幸い、あれの足はそう早くはないらしい。直とインコは、身を隠せそうな出っ張りの陰に飛び込んだ。
インコに目を落とすと、インコも驚いているのか、痙攣は収まっていたが、キョトキョトと見廻して、直の手から飛び立とうとしない。
てっぺんの穴は、小さいけれど、開いている。
「あそこから逃げるんだよ」
インコは顔を傾けるようにして直に正対し、上を見、また直を見た。
「言葉がわかってるみたいに見えるなあ」
直が思わず笑うと、インコはチチッと鳴いて、てっぺんの穴を目指して飛んで行った。
「元気でなあ。ええと、チュンコ?チュンキチ?」
見送って、
「そうだ。呑気に癒されてる場合じゃなかった」
と、我に返る。
あと2枚の札。どう使うべきか。既に1枚は防御の術式が書いてある。これがどの程度もつのかによって、もう1枚の使い道も変わる。
では、もち具合を確認するべきか。
「いやあ、度胸がいるよねえ、それ」
一撃でやられたら、アウトだ。祓うにしても、一枚しかない。もしこの後あれがぞろぞろ出てきたら?
「だめだ、おいそれと使えない。ああ、これからは、札はたくさん持ち歩こう。絶対にそうしよう」
ブツブツと決心を口にし、教科書を開いて役に立ちそうなものはないかと探す。
あれが、近づいて来るのがわかる。早くしないと、確実に見つかるだろう。
「あ、これだよ」
直は、急いでペンを掴んだ。
すぐ目の前を、そいつが通り過ぎる。それを直は、息を殺して見ていた。
直が見つけたのは、隠形の術式だった。それと防御の札で、粘らなければならない。
見る能力、聞く能力、祓う能力、それらは別のものらしい。手近に怜と京香さんしかいなかったから、どれもが揃っている怜が普通だと思っていたが、講習会に来てみると、必ずしもそうではないというのがわかった。
そして、神すら祓ってしまえる怜の方が、異常で、危険視されても仕方がないというのも。
でもここは、正直、祓う能力が羨ましい。
あれの手の届く範囲に入ると、流石にばれる気がする。
そろーっと、キョロキョロしているやつらの背中を見ながら、後退を始めた。
が、万時魔が多し。でこぼこに足を取られ、態勢を崩した拍子に、「わっ」と声を上げてしまった。しかも、捻挫したのか少し痛い。
「あ……」
背中に冷や汗が流れる。
「どうも」
直はにっこりと笑ってみた。
あいつが笑ったように見えたのは、決してフレンドリーな気持ちからではない。探していた獲物を見つけた喜びだろう。間違いなく。じっちゃんの名にかけるまでもなく!
「まだかよぅ、怜!」
「悪い。待たせたか」
景色にひびが入り、そこから、頼れる相棒がインコを肩にとまらせて結界に入って来た。
「怜。お前はナウシカかよ」
「?」
いつも通りのニュートラルな表情で首を傾ける怜と、同じタイミング、同じ角度で、偶然だろうがインコが首を傾ける。
それを見たら、直の肩からガックリと力が抜けた。
「おい、お前ら。覚悟はできてるんだろうな」
怜が、淡々と言った。
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