体質が変わったので

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未来・怜(2)人斬りを追って

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 進路相談のプリントを見たお侍さんは、
「未来、か。いい響きだな」
と呟いて小さく笑った。
「それで怜は、何をしたいんだ。霊能師とやらを続けるのではないのか」
「ある日突然こうなったから、ある日突然この能力がなくなるかも知れないし。
 元々、公務員になろうと思ってたんです」
「ほう。幕府に仕えるということかな」
「そうですね。兄みたいに、困ってる人の助けになりたいし、役に立ちたいと思いますよ。
 と言っても、色んな仕事がありますしね。何に向いてるかも良くわからないし」
「何がやりたいか。まずはそこからでいいんじゃないかな。何になるのかは、その後。やりたいことがしっかりしていれば、その先で迷う事もない。迷っても、進む方向がすぐにわかる」
「そうですねえ。ありがとうございます。とても、為になる言葉でした」
「よせよせ」
 お侍さんは照れて、テレビを見た。
「テレビを見よう。さっきの時代劇は斬り合う侍がヘタすぎたが」
 そこは気になるようだ。
「ああ。ニュースが終わったら別の時代劇がありますよ。暴れん坊・・・徳川吉宗将軍の話です」
 テレビの前にチョコンと座ったお侍さんは、
「何。吉宗公!?」
と、興味津々だ。
 テレビではニュースをやっており、真面目な顔で、アナウンサーが通り魔事件が発生したと言っていた。
「通り魔?」
「辻斬りですかね」
 若い男が右手を付き出して振り回し、近くの人が、悲鳴を上げて逃げ出す。刃物を持っているらしい。
 その中で、足が竦んだのか、若い女性が棒立ちになっていた。それに目を留めて、男が近付いて行く。近くにいた人は逃げて行くが、その女性は、震えるばかりだ。
 やがて男は女性の真ん前に立ち、右手を大きく上げた。悲鳴が上がり、女性が呆然とその右手を見上げる。
 と、画面の端から飛び込んできた警官が、男の右腕を掴んで刃物を捨てさせ、男を路上に投げて抑え込み、右手を背中に捩じり上げる。女性は、もう1人の警官が腕を掴んで引き離して自分の背後に庇う。
 それで画面はスタジオに変わり、アナウンサーが、動機などについては取り調べ中だと言った。
 お侍さんは、はあ、と嘆息した。
「あれだけあそこに男もいたのに、誰もあの女性を助けんとは。警官とやらが間に合わんかったらどうなったか。いい世の中になったとは思うが、男は腑抜けたのかね」
「まあ、色々ですね。剣道をした事のない人もいますし、武器を持つ機会も普通は無いし。うちの兄は、仕事でなくとも、助けますけどね」
「武器を持たん世の中か。怜もそうか」
「僕はまあ、特殊な部類で」
 右手に刀を出して見せる。
「これで、霊を斬る事が多々あります」
「ほう」
 お侍さんが、食いついた。やはり、気になるのか。
「どの程度の腕だ」
「いやあ、何の経験もなく突然こうなって、少しは剣道を教えてもらったものの、強い相手には、もう、力任せで無理やりですね」
「道場剣術では限界があるし、死に物狂いの本気の殺し合いでは、余計にな。
 よし、わかった。これも縁だ。私が稽古をつけてやろう。怜が霊能師というのも、何かの導きかも知れんしな」
 お侍さんはそう言うと、僕に向き直った。
「本当のことを言おう。私は、この世に復活する為にあの世から舞い戻った幕末の人斬り、大石鍬次郎を探しに来た者だ。やつが今どこでどうしているのかはわからん。だが、必ず、怜達、霊能師とぶつかる筈だ。その時に今の世の道場剣術なんぞでは、間違いなく、死ぬのはお前達の方だろう」
 幕末の人斬りだと!?なんとまた、面倒臭い。僕は心の中で、嘆息した。そして、
「よろしくお願いいたします」
と、お侍さん、いや師匠に、僕は頭を下げた。







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