体質が変わったので

JUN

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死後婚(1)死者の婚活事情

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 民俗学を学ぶ花園真奈可まなかは、フィールドワークと称して、色んな所へ調査に出かける。春休みに出かけたその旅行も、東北のとある山間の集落に伝わる葬儀について調べるものだった。
 アジア各地のみならず世界中に、死後婚、冥婚と呼ばれるものがある。主に独身で亡くなった者を不憫に思い、せめてあの世で結婚させようというものだ。現代でもしている所はほとんどないが、日本でも戦後くらいまでは、ムサカリ婚などという名で行われていたものだ。
 ムサカリ婚というのは、亡くなった者と架空の者の花婿・花嫁姿を絵に描いて、ムサカリ絵馬という形で奉納するというもので、主に山形で行われていた。
 その集落で行われていたのは、結婚式ではなく、言わば合コンだ。未婚で亡くなった者の写真が一ヶ所に集められて、壁に貼られる。そうするとそのうちに写真がはがれるらしいので、そうなれば「婚姻が成立した」とされるらしい。まあ、昔は写真ではなく、名前を書いた紙だったらしいが。
 真奈可はびっしりと写真の貼られた寺の小部屋に案内され、写真を見て回った。
 戦時中らしきものもあれば、昭和の雰囲気のもの、中には最近のものまであるし、年齢も、30代もいれば、幼児までいる。
 親心と捉えるのか、死んでも婚活を迫られると捉えるのか、現代っ子にとっては微妙なところかもしれない。
 と、不意に足元からグラグラと揺れ出した。地震だ。震度自体はそうたいしたこともなさそうだ、とホッとした真奈可だったが、運の悪い事に、転がって来た瓶を踏んで転んでしまった。
 アッと思ったのもつかの間、すぐに意識も無くなる。
 いや、心停止していたのである。

 最初の異変は、臨死体験とでもいうべきものだった。
 知らない青年が、目の前にいた。細面で、年齢は真奈可と同じくらいか。その青年が、言った。
「7日後に、花嫁として迎えに行きます」
「へ?」
 真奈可はキョトンとした。
 が、そこで目が開き、寺の天井と、心配そうにのぞき込む住職の顔が見えた。先程の青年とは違う。
「恋人もボーイフレンドもいないのに、何……あ、これからできるという予言!?病院!?医者!?よしっ!」
「は、花園さん?大丈夫、なようですね」
 住職がホッとしたように笑う。
 心停止していたのはほんのわずかで、案内してくれた住職が心臓マッサージをしてくれたので事無きを得たのだが、この奇蹟体験が、この後とんでもない恐怖体験になろうとは、誰も予想してはいなかったのである。
 




 

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