体質が変わったので

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裏切り(3)告白

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 警察大学の前で本郷さんを人質に取った犯人は、たくさんの警官に囲まれて、少しパニックになりかけていた。
「落ち着け、な」
 本郷さんは言うが、そういう本郷さんも、声が震えている。
「何をしたやつなんですか」
 倉阪が本郷さんと組んでいた刑事に訊くと、
「拳銃でコンビニに強盗に入ったんだ」
という事だった。
 霊が、ニンマリと笑い、犯人と本郷さんを見比べるようにしている。
「あの霊、何か企んでるな」
「そうだねえ」
 それを聞いた温水教官は、ギョッとしたようにこちらを見た。
「え、それはどういう事だ」
「まず、本郷さんには霊が憑いています。空野逸美そらのいつみ。証言をした、例のホステスです」
 詳しい事を言わなくても、温水教官はそれが誰かわかったようだ。
「死んだという事か」
「はい。教官の転勤の直後、自宅バスルームで手首を切ったそうです。今、それに事件性が無かったか、情報漏洩の原因は誰だったのか、陰陽課の徳川警視正が働きかけて調査中です。
 その空野さんが本郷さんに憑いていたんですが、さっきからニタニタと笑ったりしています。何かする気だと思います」
「そうか。……どうしてそんなに例の件に詳しいのかは置いとくが、空野は何とかできるのか」
「何をしようとしているのかにもよりますが、まあ、僕と直――町田なら」
「わかった。そっちは任せる。だが、やつは拳銃を所持している。あんまり前に出るな」
「はい」
「はい」
 小声でやりとりをしながらも、目は本郷さん達から離さない。
「落ち着いているな、お前ら」
 倉阪と温水教官が言うのに、肩を竦める。
「幸か不幸か慣れてるんで。なあ」
「そうだねえ」
 その内、犯人は虚ろな目をし始めた。空野さんが犯人に憑いて操り出したのだ。
「あ、やばいかも」
 言い切らない内に、拳銃が無造作に発砲され、本郷さんの足元に撃ち込まれる。辺りは一段と緊迫した。
「や、やめろぉ!」
 本郷さんは体を縮めて声を上げ、犯人はハッと我に返ったように目を見開いた。空野さんは、楽しそうに笑っている。
「本郷……!」
 温水教官はイライラと辺りを見渡した。
「犯人を狙撃しないのか」
「できませんよ。本郷さんに当たったら……。狙撃部隊も向かって来てるとは思いますけど」
 本郷さんの相棒の刑事は言ったが、温水教官は
「それじゃ遅い」
と言った。
「ええ。間に合わないですね」
「空野さんは、やる気だねえ」
 小声が聞こえた範囲は、一気に緊迫したムードが高まって行く。
「温水教官なら、決められるのに」
「は?バカな。だって、本郷さんを恨んでるに違いないし」
 言い募る本郷さんの相棒など、僕も直も見ていない。温水教官を見ていた。
「教官。僕と直で前に出ます」
「御崎、町田、待て、おい!」
 温水教官の慌てた声を無視して、人垣の前に出て行く。
「初めまして。御崎と申します」
「町田と申します」
「な、何だお前ら――!」
 犯人が声を上げ、本郷さんが震えあがる。
「ああ、失礼しました。僕達は確かにここの学生ですが、今は霊能師として話しています。あなたに憑く、空野逸美さんと」
 それに劇的に反応したのは、本郷さんだった。
「これでは皆さんにやり取りがわからないですね。見えるようにしましょうか」
 直が札を飛ばし、空野さんの姿を露わにする。すると、軽いどよめきが起こった。
「空野さん。あなたはさっきまで、本郷さんに憑いていましたよね」
「そうよ」
「理由を聞かせて頂けますか」
「この男が憎いからよ」
「よせ!やめろ!幽霊の言う事なんて信用するのか――ひっ!」
 本郷さんは、空野さんに睨まれて首を竦めた。
「なぜ?」
「この男は私に偽証を10万で頼んでおきながら、上手くいったら、秘密が漏れるのを恐れて、私を始末させたのよ」
「知らんな。俺が偽証させたとか、組員に殺させたとか。訳の分からない事を言うなよ」
 精一杯本郷さんは空野さんに反論する。
「あら。組員に殺させたなんて、言ってないわよ」
「た、多分そんな所だと思ったからだ!」
「見苦しいわねえ。お友達に罪を擦り付けた男だけあるわね」
 空野さんはすうっと本郷さんの正面に回って本郷さんに目を合わせた。
 本郷さんは硬い表情で、目を逸らそうとしたのだろうが、動けずにいた。金縛り状態だ。
 その背後で銃を突き付けている犯人も、泣きそうな顔をしながらも、動けないようだ。
「私はねえ。10万で、知らない刑事の愛人だと言って、情報の中継をしたと言ったわよ。10万は契約金でしょう?口封じされるなら、引き受けるんじゃなかったわ。
 ねえ、わかる?押さえつけられて、無理矢理アルコールをガボガボと胃に流し込まれて、お風呂場に引きずって行かれて手首を切られた気持ち。
 自殺するなら、あんな格好でしたくないわよ。
 あんたも、死ぬべきよね。そう思ってずっと憑きまとってきたけど、いい機会だわ。撃たれて死になさいよ。血がじわじわと出て行くのを感じながら、みじめに死ねばいい。死ね」
 冷たい声音で空野さんが言うと、本郷さんは脂汗を流して硬直し、犯人は白目を剥いて失神していたが、その銃口が本郷さんの頭に向けて上げられていく。
 銃声がした。
 囲んでいる警官達は体を低くした姿勢で、その光景に目を疑う。
 とうに失神していた犯人の手から銃が落ち、本郷さんは死人のような顔色で目をつぶって硬直しており、不機嫌そうに空野さんがこちらを振り返っていた。
「どうして邪魔するの」
 低い声で、交番実習中の学生からの借り物の拳銃で犯人の腕を撃って拳銃を弾いた温水教官を睨みつける。
 硝煙の臭いのする銃を持ちながら、温水教官が呟いた。
「第2ラウンドってやつか、御崎、町田」
「ターゲット変更ですかね」
 僕は空野さんの怒りの視線を受けながら、肩を竦めた。



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