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一家惨殺(2)西国で倒れた男
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新幹線を降りた後、橋を渡って高松へ。ぼっちゃん、道後温泉で有名なところである。
とは言え、観光地からは離れていた。
「患者は道端に倒れているところを発見されて、救急車で運びこまれて来ました。
検査の結果、肝硬変と腎臓の機能が落ちている事がわかりました」
若い主治医はそう言って、カルテをパタンと閉じた。
「ありがとうございました。
とにかく、会ってみるか」
「そうだねえ」
僕と直は、病室へ向かった。
部屋の前に立っている警察官の敬礼に軽く頭を下げ、ノックをして、ドアを開ける。
ベッドに寝た男は、疲れ切った顔をしていた。顔色も悪い。
「こんにちは。
ええっと、何とお呼びすればいいですか。名前を教えて頂けたらありがたいんですが」
男はこちらへ興味の無さそうな目をチラッと向け、
「権兵衛でも何でも、好きにどうぞ」
と言う。
「名無しの権兵衛ですかねえ」
「好きに……じゃあ、さんまとかミトングローブ左手とかえりなとかデビ夫人とかでもいいですか」
男は表情を変え、困ったように、
「じゃあ……うどんで」
と言った。
まずは、会話したぞ。しかし、うどんかあ。
「うどんさん。きつねですか、てんぷらですか」
「何でもいいから。詳しく突っ込むところ?」
男がちゃんとこちらを見た。ようし、ようし。
「え、だって、名字と名前みたいなものでしょ?カルテも、うどんと書いてもらわないと」
「おかめ、す、わかめもあるねえ」
「おかめさんとか、すさん?わかめちゃん――あ、すみません。サザエさんとごっちゃになりました」
「……もういいです。宅間で」
男は宅間と根負けしたように名乗り、溜め息をついた。
その傍らで、宅間さんを見下ろす4人の霊が、クスリと笑った。資料で見た、添川さん一家だった。
「さて、宅間さん。お話を聴かせていただきたいんですよ。あなたが譫言で言っていた『添川さん』とは、どの添川さんですか」
宅間さんが、緊張する。
と、いきなりドアが開いて、スーツを着た男が、警官に止められながら顔を覗かせた。
「ちょっと、あんた。病人に取り調べですか。状態が悪いのがわからないんですか。出て行って下さい!」
「あなたはどちら様ですかねえ?」
「弁護士の榊です」
榊と名乗ったその男は、名刺を僕と直に手渡して来た。
「お宅達は?県警から?巡査部長?」
「警視庁から来ました、御崎 怜、警部です」
「同じく、町田 直、警部です」
それで、榊さんはちょっと偉そうな雰囲気が収まった。そして宅間さんは、体をビクッとさせた。
「警視庁から。ほう。何でまた」
「陰陽課なんですがね」
「そう言えば、想像できるでしょう?」
僕達が言うと、宅間さんは落ち着きなく震えて布団を握りしめた。
追い出された僕達は、廊下で話していた。
「弁護士って、宅間さんが呼んだのかな」
「電話代はあったんだねえ」
「それにしても、驚いたな」
「10年間一家4人で憑りついて、何もせずに見ていただけなのかねえ?」
「それも怖いな……」
言っていると、榊さんが出て来た。
「あ、警察の……。
まだいたんですか。病状に触りますので、面会は禁止させていただきます。病院に、そうしてもらいますので」
「あの、宅間さんから弁護依頼があったんですか」
答えないだろうな、とは思ったが、一応訊いてみた。
「はい。それが何か?」
「名前も言わず、現金もなく、どうやってかけたのかな、と」
「テレフォンカードですよ」
「お知り合いだったんですかねえ」
「昔の、修習生時代に、近所で――そんな事どうでもいいでしょう!?」
喋りかけたのに、惜しい!榊さんは行ってしまった。
「榊さんについて調べてもらおう。それで修習生時代に宅間さんと接点があったはずだから、何か出るかも」
僕と直は、徳川さんに電話をかけた。
とは言え、観光地からは離れていた。
「患者は道端に倒れているところを発見されて、救急車で運びこまれて来ました。
検査の結果、肝硬変と腎臓の機能が落ちている事がわかりました」
若い主治医はそう言って、カルテをパタンと閉じた。
「ありがとうございました。
とにかく、会ってみるか」
「そうだねえ」
僕と直は、病室へ向かった。
部屋の前に立っている警察官の敬礼に軽く頭を下げ、ノックをして、ドアを開ける。
ベッドに寝た男は、疲れ切った顔をしていた。顔色も悪い。
「こんにちは。
ええっと、何とお呼びすればいいですか。名前を教えて頂けたらありがたいんですが」
男はこちらへ興味の無さそうな目をチラッと向け、
「権兵衛でも何でも、好きにどうぞ」
と言う。
「名無しの権兵衛ですかねえ」
「好きに……じゃあ、さんまとかミトングローブ左手とかえりなとかデビ夫人とかでもいいですか」
男は表情を変え、困ったように、
「じゃあ……うどんで」
と言った。
まずは、会話したぞ。しかし、うどんかあ。
「うどんさん。きつねですか、てんぷらですか」
「何でもいいから。詳しく突っ込むところ?」
男がちゃんとこちらを見た。ようし、ようし。
「え、だって、名字と名前みたいなものでしょ?カルテも、うどんと書いてもらわないと」
「おかめ、す、わかめもあるねえ」
「おかめさんとか、すさん?わかめちゃん――あ、すみません。サザエさんとごっちゃになりました」
「……もういいです。宅間で」
男は宅間と根負けしたように名乗り、溜め息をついた。
その傍らで、宅間さんを見下ろす4人の霊が、クスリと笑った。資料で見た、添川さん一家だった。
「さて、宅間さん。お話を聴かせていただきたいんですよ。あなたが譫言で言っていた『添川さん』とは、どの添川さんですか」
宅間さんが、緊張する。
と、いきなりドアが開いて、スーツを着た男が、警官に止められながら顔を覗かせた。
「ちょっと、あんた。病人に取り調べですか。状態が悪いのがわからないんですか。出て行って下さい!」
「あなたはどちら様ですかねえ?」
「弁護士の榊です」
榊と名乗ったその男は、名刺を僕と直に手渡して来た。
「お宅達は?県警から?巡査部長?」
「警視庁から来ました、御崎 怜、警部です」
「同じく、町田 直、警部です」
それで、榊さんはちょっと偉そうな雰囲気が収まった。そして宅間さんは、体をビクッとさせた。
「警視庁から。ほう。何でまた」
「陰陽課なんですがね」
「そう言えば、想像できるでしょう?」
僕達が言うと、宅間さんは落ち着きなく震えて布団を握りしめた。
追い出された僕達は、廊下で話していた。
「弁護士って、宅間さんが呼んだのかな」
「電話代はあったんだねえ」
「それにしても、驚いたな」
「10年間一家4人で憑りついて、何もせずに見ていただけなのかねえ?」
「それも怖いな……」
言っていると、榊さんが出て来た。
「あ、警察の……。
まだいたんですか。病状に触りますので、面会は禁止させていただきます。病院に、そうしてもらいますので」
「あの、宅間さんから弁護依頼があったんですか」
答えないだろうな、とは思ったが、一応訊いてみた。
「はい。それが何か?」
「名前も言わず、現金もなく、どうやってかけたのかな、と」
「テレフォンカードですよ」
「お知り合いだったんですかねえ」
「昔の、修習生時代に、近所で――そんな事どうでもいいでしょう!?」
喋りかけたのに、惜しい!榊さんは行ってしまった。
「榊さんについて調べてもらおう。それで修習生時代に宅間さんと接点があったはずだから、何か出るかも」
僕と直は、徳川さんに電話をかけた。
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