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小さな相棒(3)バニシングツイン
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僕と直は、周二が衝撃から立ち直るのを待っていた。
「な、何……」
「双子の片方が、10パーセントから15パーセントの確率で、生まれる前に消えてしまうという現象が起こる。ほとんどが母胎に吸収されてしまうんだが、たまに、もう1人の胎児と一緒になってしまう事もある。バニシングツインといって、これは別に、お前に何の責任も無い。
体ができる前に消えてしまったから言葉のやり取りが苦手だし、弱いし、何よりずっと生まれる前から一緒だったから、憑かれているという感覚はなく、当たり前の感覚だった筈だ」
周二はコックリと頷いた。
「ずっとその子は一緒にいて、心配していたんだねえ。守る力はなくとも、鬼から守ろうと、必死で鬼の前に立って両手を広げてたよぉ」
「……」
「なあ。生まれ直してみないか。新しい戸籍で、新しい人生を」
「え?」
「紐は付けさせてもらうけど、かなり、普通の暮らしをできるよ」
周二は目をパチクリさせて、おろおろとし始めた。
「いや、だって、俺」
「霊能師として働いてもらう事にはなるが。僕のパスで居所もすぐに把握できてしまうし、蜂谷という霊能師の術で、不穏な事をしたら即座に手を打つ事になるが、普通の暮らし、お前の名前だ。どうだ」
「ま、待って」
「それは鎖でもあるけど、君を謂れなき疑惑から守るお守りでもあるんだねえ。これがあるから大丈夫っていう」
子供は、呆然とする周二の顔をペタペタと叩いて、何かを訴えている。
「お前……」
「まあ、急に今決めろとは言わない。考えておいてくれ」
「さあ、もう寝ようか。すっかり遅くなっちゃったねえ。
あ、その子と相談したらいいよ。札はそのままで」
周二は係官に付き添われて、戻って行った。
僕と直は、所長を見た。
「超法規的措置ですか」
「総理、法務大臣、どちらも許可は取っていますよ」
「これは守秘義務が課せられた話ですからねえ」
「わかっています。言いませんよ」
所長は言いながら、
「本当に心配なければいいんですが」
と、どこか迷惑そうな顔をしていた。
周二はずっと考え込んでいるらしい。それで時々、
「俺は悪い事をした。わかってなくとも、した事には違いない。それでもいいのかな」
などと、呟いているらしい。
「どうかな。霊能師としては、使えるんだよね」
徳川さんが言う。
「はい。霊はともかく、式を作って使役するスタイルが合うと思いますよ」
「戦力として、頼もしいと思いますねえ」
「じゃあ、条件を呑んで欲しいな」
「はい。まあ、そろそろ決めたかって、行ってきます」
「そう。うん。よろしく」
僕と直は、周二に会いに行くべく陰陽課を出た。
拘置所では、鬼の出現も収まり、元の雰囲気に戻りつつあった。
周二も運動場に出て、空を見上げていた。
と、急に悲鳴が上がった。
「何!?」
この前よりも大きな鬼がいた。半実体などではなく、完全に実体化したものだ。
「マズイ!」
運動場で散歩をしていた収監者達は悲鳴を上げて逃げ惑う。それを鬼は、誰彼構わず追いかけ、腕を振るって弾き飛ばす。
周二は血の気が引いた。今の力を封じられた自分には、できる事はない。でも、あれは自分を襲いに来た鬼だ。自分が逃げるわけには行かない。
「全員早く退避しろ!早く!急げ!」
ドアを開け、看守が収監者を鬼から避難させようとしている。
「だめだ。ヤツはあんなドア、壊してしまう――!」
周二は辺りを見回した。そして、するりと運動場の外、建物の外に出た。
「俺はここだぞ!間抜けな鬼め!」
鬼も看守も目を剥いた。
ぐおおおおお!!
「だ、脱走か!?」
混乱の中、周二は走り出した。走り回って時間を稼げば何とかなる。そんな気がしていた。
「な、何……」
「双子の片方が、10パーセントから15パーセントの確率で、生まれる前に消えてしまうという現象が起こる。ほとんどが母胎に吸収されてしまうんだが、たまに、もう1人の胎児と一緒になってしまう事もある。バニシングツインといって、これは別に、お前に何の責任も無い。
体ができる前に消えてしまったから言葉のやり取りが苦手だし、弱いし、何よりずっと生まれる前から一緒だったから、憑かれているという感覚はなく、当たり前の感覚だった筈だ」
周二はコックリと頷いた。
「ずっとその子は一緒にいて、心配していたんだねえ。守る力はなくとも、鬼から守ろうと、必死で鬼の前に立って両手を広げてたよぉ」
「……」
「なあ。生まれ直してみないか。新しい戸籍で、新しい人生を」
「え?」
「紐は付けさせてもらうけど、かなり、普通の暮らしをできるよ」
周二は目をパチクリさせて、おろおろとし始めた。
「いや、だって、俺」
「霊能師として働いてもらう事にはなるが。僕のパスで居所もすぐに把握できてしまうし、蜂谷という霊能師の術で、不穏な事をしたら即座に手を打つ事になるが、普通の暮らし、お前の名前だ。どうだ」
「ま、待って」
「それは鎖でもあるけど、君を謂れなき疑惑から守るお守りでもあるんだねえ。これがあるから大丈夫っていう」
子供は、呆然とする周二の顔をペタペタと叩いて、何かを訴えている。
「お前……」
「まあ、急に今決めろとは言わない。考えておいてくれ」
「さあ、もう寝ようか。すっかり遅くなっちゃったねえ。
あ、その子と相談したらいいよ。札はそのままで」
周二は係官に付き添われて、戻って行った。
僕と直は、所長を見た。
「超法規的措置ですか」
「総理、法務大臣、どちらも許可は取っていますよ」
「これは守秘義務が課せられた話ですからねえ」
「わかっています。言いませんよ」
所長は言いながら、
「本当に心配なければいいんですが」
と、どこか迷惑そうな顔をしていた。
周二はずっと考え込んでいるらしい。それで時々、
「俺は悪い事をした。わかってなくとも、した事には違いない。それでもいいのかな」
などと、呟いているらしい。
「どうかな。霊能師としては、使えるんだよね」
徳川さんが言う。
「はい。霊はともかく、式を作って使役するスタイルが合うと思いますよ」
「戦力として、頼もしいと思いますねえ」
「じゃあ、条件を呑んで欲しいな」
「はい。まあ、そろそろ決めたかって、行ってきます」
「そう。うん。よろしく」
僕と直は、周二に会いに行くべく陰陽課を出た。
拘置所では、鬼の出現も収まり、元の雰囲気に戻りつつあった。
周二も運動場に出て、空を見上げていた。
と、急に悲鳴が上がった。
「何!?」
この前よりも大きな鬼がいた。半実体などではなく、完全に実体化したものだ。
「マズイ!」
運動場で散歩をしていた収監者達は悲鳴を上げて逃げ惑う。それを鬼は、誰彼構わず追いかけ、腕を振るって弾き飛ばす。
周二は血の気が引いた。今の力を封じられた自分には、できる事はない。でも、あれは自分を襲いに来た鬼だ。自分が逃げるわけには行かない。
「全員早く退避しろ!早く!急げ!」
ドアを開け、看守が収監者を鬼から避難させようとしている。
「だめだ。ヤツはあんなドア、壊してしまう――!」
周二は辺りを見回した。そして、するりと運動場の外、建物の外に出た。
「俺はここだぞ!間抜けな鬼め!」
鬼も看守も目を剥いた。
ぐおおおおお!!
「だ、脱走か!?」
混乱の中、周二は走り出した。走り回って時間を稼げば何とかなる。そんな気がしていた。
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