体質が変わったので

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異世界へ(1)都市伝説、異世界エレベーター

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 呼ばれて現場に着いたものの、交番勤務の加藤巡査は、溜め息をこらえていた。
「邪魔ばっかりしやがって!」
 男子高校生が目を吊り上げて怒る。
「エレベーターで上に行ったり下に行ったり。エレベーターで遊ぶな!」
 すると70代の男はそう怒鳴る。
「両方共落ち着いて。
 ええっと、君はエレベーターで、上に行ったり下に行ったりしていたんですね?」
「はい」
「あなたは、事務所から仕事に行こうとしてエレベーターで下に下りたものの、忘れ物に気付いてエレベーターで事務所に戻り、またエレベーターで出かけようと下に下りたら、鍵を閉めたか気になってもう1度エレベーターで事務所に戻ったんですね」
「そうだ。わしに非はない」
 聞いていた高校生が、カッと怒る。
「だから、あんたが邪魔ばっかりするから失敗ばっかりしてたんだって言ってるだろ!?」
「うるさいわ!」
 ぎゃあぎゃあと、掴み合わんばかりにわめく。
 同僚の田中巡査は、淡々と2人を引き離し、
「ああ、それそれ。
 失敗って何に?エレベーターを上下させることで、何をしてたの」
と訊く。
「異世界に行くところだったんだよ」
 高校生が答え、皆、あっけにとられたようにポカンと彼の顔を見た。
「すまん。今、何と?」
 ケンカ相手が訊き返す。
「異世界に行くところだったの!」
「……異世界?」
「そう!」
 加藤は思い出した。
「そう言えば、ネットで騒がれた事があったなあ」
 数年前だったと思いながら、溜め息をつく。
「頭がおかしいヤツだったのか」
「はあ!?」
 男が鼻で嗤って言うのに、高校生が怒る。
「まあまあ」
 田中巡査も改めて2人を引き離しながら、そっと嘆息を漏らした。
「これは、あれかな」
「そうですね。連絡を入れましょうか」
 こうして、陰陽課に連絡が入った。

 僕は、唸った。
「異世界エレベーターねえ」
 御崎 怜みさき れん。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「都市伝説なんだけどねえ、ネットじゃ随分とあるよ」
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「エレベーターで異世界へ行くのか?それで、エレベーターで帰って来るのか?」
「帰って来るところは出て来ないねえ。行ったきりかなあ」
 僕と直は、首を傾けて、件の高校生を見た。
 その高校生は、怒ったように言う。
「帰って来るんだよ」
「異世界から?」
「異世界から」
「……ネットの噂だよねえ?丸っきり信用するのはどうかねえ」
 すると彼はムッとしたように口を尖らせて、
「友達が行ったんだよ!」
と言う。
「ええっと、橋田……何と読むのかな。主人公?」
「ヒーロー」
「は?」
橋田主人公はしだひーろー!これだから嫌なんだよな、名前言うの!」
 キラキラネームというやつらしい。ヒーロー。嫌だな、僕も。
 何も無かったかのように、続ける。
「橋田君の友達が、エレベーターで異世界へ行ったとそう君に言ったと」
「そう!そうなんだよ!面白そうだろ?それで、詰まらないから、俺も異世界に行ってみようと思ってさあ。
 なのにあの爺さんが、わざとらしく邪魔ばっかりするから、全然成功しなくて……」
 溜め息をつく橋田君を見ながら、僕と直、交番の巡査2名も溜め息をつく。
「異世界は置いといて、あの人に悪気は無かったんだと思うぞ。忘れ物を取りに戻って、次は鍵が心配になって。ないか、そういうの」
「……まあ……」
「じゃあ、それで怒って怒鳴った事は反省しようよ。ねえ」
「はい。どうもすみませんでした」
 橋田君は素直に頭を下げた。根は悪い子ではないらしい。
「それで、異世界エレベーターなんですが……」
 田中巡査が恐る恐る言う。
「実は、このところやけにエレベーターで上下する若い子がいて、ビルの人間から苦情が来てるんです。異世界へ行く為とは今初めて知りましたが……」
 すると、橋田君は勢い込んで僕と直に言った。
「陰陽課の霊能師だろ?異世界って行った事ある!?」
「あるよ」
 橋田君と警官2人が「おお」と声を揃えた。
「エレベーターで行きはしなかったがな」
「じゃあどうやって!?」
「……企業秘密」
 橋田君はあからさまに残念そうな顔をする。
「そういいものじゃないからやめとけば?ユタも発狂するレベルだし」
「君の友達、君をからかったのか、異世界じゃないどこかへ行ってるだけかだよう?」
「いいや、そんな事は無い!思い出してウットリしながら言ったんだもん!」
 橋田君が言い張るので、チャレンジする人間も多いと言うし、一応ビルの中を調べてみる事にした。
 まあ、万が一にも、次元の裂け目があるなら大変だ。
 霊はいるんだが、ああ、面倒臭い。


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