体質が変わったので

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親と子(2)記憶

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 僕と直は、病院で医師と向かい合っていた。小学校の前で倒れた不審者の入院先だ。
 患者である不審者こと斎藤茂久さんは、朝からの記憶がなく、気付いたら病院だったと言っているそうだ。それに、あの小学校にもその近辺にも行った事が無いらしい。
「それは驚いただろうねえ、病院で気付いた時」
 直が言う。
 町田 直まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「解離性遁走とか、精神疾患の可能性はありますか。もしくは詐病」
 訊くと、50代初めの医師は頷いて答えた。
「その辺はゆっくりと時間をかけて調べる必要があります。
 しかし……刑事さんは、臓器移植された方が、知らない筈の記憶を受け継ぐなんていう話を聞いた事はありませんか」
 僕と直は、思わず顔を見合わせた。
「あります。ドナーの記憶をレシピエントが受け継いで、見た事のない風景の事を話したり、経験した事のない出来事の事を知っていたりというのを、本で読んだことはあります。
 まさか」
「斎藤さんは移植手術を受けたんですかねえ?」
「うちの病院で心臓の移植手術を受けて、この前退院したばかりなんです」
「退院までは、そういうそぶりはなかったんですか」
「そう聞いています」
「……ドナーの情報を知りたいですね」
「本人や家族には教えない事になっていますので、充分に留意して下さい」
 そう前置きをして、1枚のメモ用紙を寄こす。
「小西美智。33歳。自宅マンションから飛び降りての自殺で、頭を強く打ち付けて脳死状態になり、臓器提供の意思が示されていましたので、臓器を摘出。そのうちの心臓を斎藤さんに移植しました」
「小西さんのマンションは、第一小学校の校区内ですねえ」
「小西さんに小学生の子供さんはいましたか」
「一緒にマンションから落ちましたが、小学2年生のこの娘さんは、植木の上に落ちた事もあって、軽傷で済みました」
「もしかして、母親の思念が心臓に宿って、娘を探して小学校へ斎藤さんを向かわせたとかかねえ?」
「話によると、『どこに』とか言っていたそうですよ」
 僕達3人は、心温まるそんなストーリーを想像してみた。
「予断は禁物だが、可能性はあるな。
 とにかく本人を視てからだな」
「だねえ」 
 僕と直は医師に礼を言い、斎藤さんに会うべく病室に向かった。
「死んでも子供が心配だったのかねえ」
「その気持ちはわかるなあ。今死んだら、きっと僕は出るな。うん。守護霊になる」
「うわあ。超強力だねえ」
「あ、でも、凛だけでなく美里も気になるし、兄ちゃん達も気になるなあ。どうしよう」
「長生きしようかねえ」
「そうだな」
 そんな事を言っているうちに、斎藤さんの入院している病棟に着く。
 が、どうにもバタバタしている。
「いた!?」
「いません!」
「どうしよう。斎藤さん、どこに行っちゃったのかしら」
 あたふたする看護師達の言葉に、ギョッとし、近くの看護師にバッジを見せて訊く。
「斎藤茂久さんがいなくなったんですか?」
 看護師は困ったような顔をして、
「はい。いつの間にか……」
と言った。
「斎藤さんの家へは」
「連絡済みです」
 僕と直はそこを離れた。
「小西さんの娘さんの所に向かったかな」
「行ってみるかねえ」
 さっきもらったメモに目を落とした。





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