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赤い靴(1)夜中の街路で
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昼間は渋滞している国道だが、深夜は驚く程に空いていて、走る車はスピードを出している事が多い。
最近も死亡事故があったばかりで、道端に花束とペットボトルの水が供えられていた。
「ここ、出るんだって」
通りかかった学生グループが、花束をチラリと見て言った。
「出る?幽霊か?」
「そう」
「日本全国、事故はたくさん起きてるんだぞ。その全部で幽霊が出てたら大変だろうが」
「いや、ここは出るんだって。本当に」
「どこだよぉ?」
彼らは辺りを見回した。
「車が時々通りかかる他には別に誰もいないしなあ。俺達とあそこの女の人くらいで」
皆で、その女の人を見た。
黒いスラッとしたパンツに黒いシャツ、赤い靴の若い女性で、歩道で1人、熱心にダンスの練習をしている。
と、1人が気付いて足を止めた。
「待て!ストップ!」
小声で皆に注意を促し、足を止めさせた。
「何?」
「やばい」
「何が?」
「あの人、やばいから」
「だから、どうやばいの?」
気付いたその1人は青い顔を強張らせているが、他の皆は、訳が分からないという顔付きで、説明を求める。
と、緑色の車が走って来た。
その途端、踊っていた女は物凄い勢いで体を車の方に向け、滑空するように車道に飛び出したかと思うと、車のフロントガラスに貼りついた。
車はブレーキ音を響かせ、タイヤをスリップさせながら路面を滑り、ガードレールに激突した。
彼らはそれをあっけに取られて見ていたが、慌てて車に駆け寄って行く。
「大丈夫ですか!?」
フロント部分から助手席側にかけて大きく破損した車から、真っ青な顔で運転手が降り、辺りを見回す。
「今、女が急に飛び出して来て……あれ?どこだ?」
皆で、周りも車の下も見たが、どこにもそんな人はいない。
「え?何で?確かに今……あれ?」
運転手も見ていた彼らも混乱していたが、気付いていた1人だけが、青い顔で震え出した。
「だから、やばいって言ったんだよ」
「え?」
「あの女、幽霊だよ。この前ここで死んだ人。おれの高校の先輩の妹さん!」
「――!?」
全員、言葉を失って、立ち尽くした。
この事件を持ち込んで来た交通課員は、そこで溜め息をついた。
「女の霊が飛び出して来て、物凄い形相で車の中を覗き込んで運転手を睨みつけると皆言います」
「ここで、頻繁に目撃されているんですか」
僕は訊いてみた。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「はい。踊る女の霊は。
車に飛びこんで行くのは、どうも、緑色の車に限られるようなんです。この女性をはねたのが緑色の車だったからかもしれません」
「犯人はどうなったんですかねえ」
直が訊く。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「はねた後、自分も車を横の車線のトラックにぶつけて大破させ、死亡してます」
犯人をまだ捜しているのだろうか。
「わかりました。現場に行ってみます」
僕と直は、早速その現場に向かう事にした。
最近も死亡事故があったばかりで、道端に花束とペットボトルの水が供えられていた。
「ここ、出るんだって」
通りかかった学生グループが、花束をチラリと見て言った。
「出る?幽霊か?」
「そう」
「日本全国、事故はたくさん起きてるんだぞ。その全部で幽霊が出てたら大変だろうが」
「いや、ここは出るんだって。本当に」
「どこだよぉ?」
彼らは辺りを見回した。
「車が時々通りかかる他には別に誰もいないしなあ。俺達とあそこの女の人くらいで」
皆で、その女の人を見た。
黒いスラッとしたパンツに黒いシャツ、赤い靴の若い女性で、歩道で1人、熱心にダンスの練習をしている。
と、1人が気付いて足を止めた。
「待て!ストップ!」
小声で皆に注意を促し、足を止めさせた。
「何?」
「やばい」
「何が?」
「あの人、やばいから」
「だから、どうやばいの?」
気付いたその1人は青い顔を強張らせているが、他の皆は、訳が分からないという顔付きで、説明を求める。
と、緑色の車が走って来た。
その途端、踊っていた女は物凄い勢いで体を車の方に向け、滑空するように車道に飛び出したかと思うと、車のフロントガラスに貼りついた。
車はブレーキ音を響かせ、タイヤをスリップさせながら路面を滑り、ガードレールに激突した。
彼らはそれをあっけに取られて見ていたが、慌てて車に駆け寄って行く。
「大丈夫ですか!?」
フロント部分から助手席側にかけて大きく破損した車から、真っ青な顔で運転手が降り、辺りを見回す。
「今、女が急に飛び出して来て……あれ?どこだ?」
皆で、周りも車の下も見たが、どこにもそんな人はいない。
「え?何で?確かに今……あれ?」
運転手も見ていた彼らも混乱していたが、気付いていた1人だけが、青い顔で震え出した。
「だから、やばいって言ったんだよ」
「え?」
「あの女、幽霊だよ。この前ここで死んだ人。おれの高校の先輩の妹さん!」
「――!?」
全員、言葉を失って、立ち尽くした。
この事件を持ち込んで来た交通課員は、そこで溜め息をついた。
「女の霊が飛び出して来て、物凄い形相で車の中を覗き込んで運転手を睨みつけると皆言います」
「ここで、頻繁に目撃されているんですか」
僕は訊いてみた。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「はい。踊る女の霊は。
車に飛びこんで行くのは、どうも、緑色の車に限られるようなんです。この女性をはねたのが緑色の車だったからかもしれません」
「犯人はどうなったんですかねえ」
直が訊く。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「はねた後、自分も車を横の車線のトラックにぶつけて大破させ、死亡してます」
犯人をまだ捜しているのだろうか。
「わかりました。現場に行ってみます」
僕と直は、早速その現場に向かう事にした。
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