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贄の家(1)二次会
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7月の暑い最中、アンドレの結婚披露宴は無事に終わり、新郎新婦の友人達は二次会に突入していた。
「アンドレって、そう言えば本名は井上なんだな。なあ、何でアンドレ?」
誰もその問いに答えられないまま、ずっとそれが全員の頭に残っていた。
「まあ、アンドレは純和風、日本男児の見本みたいなやつだが、相手の華子さんは、それこそフランス人形みたいな人だったな」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「子供が生まれたら、ハーフみたいな子になるのかねえ」
直が想像しながら言った。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「それで純日本人やとは、誰もわからんやろな」
おかしそうに智史が笑った。
郷田智史。いつも髪をキレイにセットし、モテたい、彼女が欲しいと言っている。実家は滋賀でホテルを経営しており、兄は経営面、智史は法律面からそれをサポートをしようと、弁護士になった。
「町田の奥さんって、可愛い感じの人だったよなあ。子供もいるんだろ?かわいいの?」
訊く仲間に、直が胸を張る。
「当然だねえ。上の女の子は優維、下の男の子は累。もう、可愛いの何の。ねえ、怜」
「あ、そうだ、御崎!美里様と結婚だと!?お前ってやつは!何で式を挙げないんだよ!呼べよ!」
抗議の意見が殺到する。
「会いたかった!!」
「美里様ぁ」
「子供もいるのか?」
「いるよ。凜って言って、この前2歳になった。何と、誕生日が直の所の累と同じなんだ」
「へえ。お前らどこまでも仲が良いなあ。
ってごまかすな!」
ワイワイ、賑やかに話が弾む。
新婦の友人達も新郎の友人達も未婚の者はかたまっているが、このテーブルはそういうのは無しの新郎のゼミ仲間のみの集まりだ。
「僕も美里も、面倒臭いのが嫌で」
「面倒臭いとはなんだ、面倒臭いとは!」
「仕事関係とか、呼ぶ人が絞り切れなくなるから大変だしな。写真を撮って、あとはほんの親しい人だけでお祝いした」
「何で呼んでくれないんだよう!」
そういうのが面倒臭いのだと、僕は思った。
「智史はどうなんだよ」
話を振ると、智史は笑った。
「これからや、これから。
岩谷はどないなん。どっかのお嬢様と結婚したやん、学生時代に」
「別れた。今、再婚して2年だ」
お互いの近況、出席できなかった仲間の近況を確かめ合い、話は尽きない。
が、不意にその時気配がよぎり、僕と直は、気を引き締めた。
「え、何やの?まさか?」
目ざとく智史が気付く。伊達に、心霊研究会で何度も経験していないということか。
テーブルのそばに、黒っぽい影が凝り、それが、透き通った人の姿になる。
「飯里か」
飯里 勤、ゼミ仲間だった男だが、卒業以来、どうなったのか知らない。
「飯里、どうしたんだ」
助けて
飯里はそれだけ言って、悲しそうな、苦しそうな顔のまま、消えて行った。
辺りはシーンとして、それを見ていた。
「うわあっ!」
皆の目には何も見えなかったようだが、ビデオで録画していた仲間は、画面を見ながら上ずった声を上げた。ビデオには、飯里が映っていたらしい。
恐々、僕と直に、皆が目を向けて来る。
「明日、飯里の家に行って来る」
「そうだねえ。何に困ってるのかわからないけど、助けてやりたいしねえ」
あまりいい感じがしなかったとは、言わないでおく。
「飯里は実家に帰ったんだったよな」
「ああ。確か、東北の山間部や」
「朝一で行こうかねえ」
面倒臭い予感がプンプンしていた。
「アンドレって、そう言えば本名は井上なんだな。なあ、何でアンドレ?」
誰もその問いに答えられないまま、ずっとそれが全員の頭に残っていた。
「まあ、アンドレは純和風、日本男児の見本みたいなやつだが、相手の華子さんは、それこそフランス人形みたいな人だったな」
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。
「子供が生まれたら、ハーフみたいな子になるのかねえ」
直が想像しながら言った。
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。
「それで純日本人やとは、誰もわからんやろな」
おかしそうに智史が笑った。
郷田智史。いつも髪をキレイにセットし、モテたい、彼女が欲しいと言っている。実家は滋賀でホテルを経営しており、兄は経営面、智史は法律面からそれをサポートをしようと、弁護士になった。
「町田の奥さんって、可愛い感じの人だったよなあ。子供もいるんだろ?かわいいの?」
訊く仲間に、直が胸を張る。
「当然だねえ。上の女の子は優維、下の男の子は累。もう、可愛いの何の。ねえ、怜」
「あ、そうだ、御崎!美里様と結婚だと!?お前ってやつは!何で式を挙げないんだよ!呼べよ!」
抗議の意見が殺到する。
「会いたかった!!」
「美里様ぁ」
「子供もいるのか?」
「いるよ。凜って言って、この前2歳になった。何と、誕生日が直の所の累と同じなんだ」
「へえ。お前らどこまでも仲が良いなあ。
ってごまかすな!」
ワイワイ、賑やかに話が弾む。
新婦の友人達も新郎の友人達も未婚の者はかたまっているが、このテーブルはそういうのは無しの新郎のゼミ仲間のみの集まりだ。
「僕も美里も、面倒臭いのが嫌で」
「面倒臭いとはなんだ、面倒臭いとは!」
「仕事関係とか、呼ぶ人が絞り切れなくなるから大変だしな。写真を撮って、あとはほんの親しい人だけでお祝いした」
「何で呼んでくれないんだよう!」
そういうのが面倒臭いのだと、僕は思った。
「智史はどうなんだよ」
話を振ると、智史は笑った。
「これからや、これから。
岩谷はどないなん。どっかのお嬢様と結婚したやん、学生時代に」
「別れた。今、再婚して2年だ」
お互いの近況、出席できなかった仲間の近況を確かめ合い、話は尽きない。
が、不意にその時気配がよぎり、僕と直は、気を引き締めた。
「え、何やの?まさか?」
目ざとく智史が気付く。伊達に、心霊研究会で何度も経験していないということか。
テーブルのそばに、黒っぽい影が凝り、それが、透き通った人の姿になる。
「飯里か」
飯里 勤、ゼミ仲間だった男だが、卒業以来、どうなったのか知らない。
「飯里、どうしたんだ」
助けて
飯里はそれだけ言って、悲しそうな、苦しそうな顔のまま、消えて行った。
辺りはシーンとして、それを見ていた。
「うわあっ!」
皆の目には何も見えなかったようだが、ビデオで録画していた仲間は、画面を見ながら上ずった声を上げた。ビデオには、飯里が映っていたらしい。
恐々、僕と直に、皆が目を向けて来る。
「明日、飯里の家に行って来る」
「そうだねえ。何に困ってるのかわからないけど、助けてやりたいしねえ」
あまりいい感じがしなかったとは、言わないでおく。
「飯里は実家に帰ったんだったよな」
「ああ。確か、東北の山間部や」
「朝一で行こうかねえ」
面倒臭い予感がプンプンしていた。
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