44 / 58
本編
42.瞳に映し出されるもの
しおりを挟む
白い宝石のような大輪、幻の花を手に嬉しそうに頬を緩めている女性は、ジュードの腕の中に囚われて動けなくなっている状態であることをすっかり忘れているようだ。その細い首筋に顔を埋めてそこに強く吸い付くと小さな悲鳴が上がった。
「きゃっ」
手にした花を取り落として、大きな茶色の瞳を瞬かせるエルフリーデが驚きに捕らわれて抵抗出来ないうちにジュードはベッドにエルフリーデを組み敷いた。首筋に出来た赤い痕に手をやってそっとなぞると、ジュードの下に横たえられたエルフリーデはビクッと緊張に身を固くして目をキュッと閉じてしまった。
頬を赤くしたままピクリとも動かなくなったエルフリーデの胸元に手を当てると早鐘のようにトクントクンと鳴る心音が指先から伝わってくる。それからゆっくりとエルフリーデの胸元に耳を当てるとその音は更に激しさを増したように思えた。
「リーの心臓の音すごく速いね。布越しでも分かるくらいドキドキしてるけど。そんなに僕に触られるとリーは緊張するの? 普段僕がリーを抱き寄せてたときはこんなに緊張してなかったよね?」
「……ジュードのばかぁっ! なんでっなんで今そんなこというのよぅっ」
くすくすと楽しそうに笑って、あまりにも分かりきったことを聞いてくるジュードにエルフリーデはう~と悔しそうに涙を浮かべている。そうして一瞬、視線をジュードに戻したと思ったら、すぐまた逸らされてそっぽを向かれてしまった。
エルフリーデが可愛らしく悪態をついて顔を背けるから、ジュードは逃れようともがくエルフリーデの視界を占領したくて仕方が無くなってしまう。愛しい人の視線を自らに戻すために手を焼くのも悪くはない。ジュードにそう思わせることが出来るのはきっと後にも先にもエルフリーデだけだ。
「……あっ! ジュードやぁっ! やめてっ」
それも頑ななエルフリーデの反応や態度が自分を意識してのものだと分かると余計に嬉しくて意地悪をしたくなる。だから自分の方へ視線が向くようにジュードはエルフリーデの顎を指先で軽くクイッと動かした。
顔をジュードの方へ無理矢理戻されてしまったエルフリーデはまたう~と唸って悔しそうに涙ぐんだ瞳でジュードを睨み付けている。
そうして意地悪をしたいと思う反面、酷く甘やかしてしまいたくもなる。小さい子供が好きな子を虐めるような感情と好きな人をどっぷり甘い蜜に浸して甘やかしたいと思う大人の感情。相反する感情に押されながら困ったものだとジュードは恨みがましい目線を向けてくるエルフリーデの顔を眺めた。
「だからいやっていってるのに~っ! はなしてっジュードお願いはなしてってばぁっ!」
「駄目だよ。リー、ちゃんと僕を見て? こっちを向いて?」
「やだっ」
「見てくれないのならキスするよ?」
「えっ? ──ぁっ!」
ジュードは返事を待たずにエルフリーデの柔らかな唇に啄むようなキスをした。触れ合う程度の軽いもの。けれどエルフリーデはいつになく積極的なジュードの様子に戸惑いを感じているようで、何度もからかうように触れてくるジュードに困惑を隠せないでいる。
「ジュード……? どうして今日はそんなふうに触るの?」
エルフリーデの制止を無視して有無を言わせず意地悪なことを繰り返していたから、ジュードに翻弄され過ぎたエルフリーデは半ば疑いすら抱くようになってしまったようだ。
「わたしとはその、やっぱり今はしないってことなんでしょ? そうよね? だってジュード怪我してるものね? 少し良くなったって言ってもまだちゃんとは治ってないし……」
やっぱり少し怖くなったのか。エルフリーデは確認するように不安げに何度もジュードに尋ねてきた。そうして途端に逃げ腰になられると逃げられないように捉えて、けして逃げ出せない檻の中にでも入れてしまいたくなる。
ジュードは男の自分がどれだけエルフリーデに残酷なのかよく分かっていた。怖がられて逃げられるのが嫌だから、その本性を見せないようにずっとひた隠しに優しさだけで接してきたというのに。
こうしてジュードの上腕に両脇を挟まれて動けないようにベッドの上に組み敷かれていても、幼なじみの少女はそれをまるで分かっていなかった。ジュードにならされてもいいと言いながら、ジュードの本性にちゃんと気付いているようで気付いていない。
エルフリーデのジュードを見る目は、ジュードはやっぱり優しい人だと思っているようで。その昔と変わらない純粋で無垢な瞳を向けられてジュードは苛立ちを覚えた。こんな状態でもエルフリーデはどうやらまだ、優しいジュードが逃がしてくれると思っているらしい。
「リーはどうしてそう思うの? この位平気だって、リーに触れられない方が辛いって僕はさっき言ったばかりじゃないか」
「えっ? でもジュード怪我して……──きゃぁっ!」
ジュードはエルフリーデの両手を掴んでグイッと力尽くでベッドに押し付けた。
「僕も男だってこと、ちゃんと分かってる?」
「……ジュード?」
「僕は普段からリーに優しくしたいって思ってる。絶対に傷付けたくないって。だけど優しく出来ない事だってあるんだ。リーを傷付けて負担を強いる行為だって分かっててそれでも僕はリーを最後まで抱きたいって思ってる。力尽くで奪い取るような真似はしたくないけど。もうリーが泣いてもやだって言っても僕は止めないよ?」
陰のある挑発的な物言いと強く残酷な男の目線を向けるとエルフリーデは怯えたように身を竦ませ。瞳孔を大きく開かせた。その角度によって金にも見える茶色の大きな瞳には男の顔をしたジュードだけが映し出されていた。
「きゃっ」
手にした花を取り落として、大きな茶色の瞳を瞬かせるエルフリーデが驚きに捕らわれて抵抗出来ないうちにジュードはベッドにエルフリーデを組み敷いた。首筋に出来た赤い痕に手をやってそっとなぞると、ジュードの下に横たえられたエルフリーデはビクッと緊張に身を固くして目をキュッと閉じてしまった。
頬を赤くしたままピクリとも動かなくなったエルフリーデの胸元に手を当てると早鐘のようにトクントクンと鳴る心音が指先から伝わってくる。それからゆっくりとエルフリーデの胸元に耳を当てるとその音は更に激しさを増したように思えた。
「リーの心臓の音すごく速いね。布越しでも分かるくらいドキドキしてるけど。そんなに僕に触られるとリーは緊張するの? 普段僕がリーを抱き寄せてたときはこんなに緊張してなかったよね?」
「……ジュードのばかぁっ! なんでっなんで今そんなこというのよぅっ」
くすくすと楽しそうに笑って、あまりにも分かりきったことを聞いてくるジュードにエルフリーデはう~と悔しそうに涙を浮かべている。そうして一瞬、視線をジュードに戻したと思ったら、すぐまた逸らされてそっぽを向かれてしまった。
エルフリーデが可愛らしく悪態をついて顔を背けるから、ジュードは逃れようともがくエルフリーデの視界を占領したくて仕方が無くなってしまう。愛しい人の視線を自らに戻すために手を焼くのも悪くはない。ジュードにそう思わせることが出来るのはきっと後にも先にもエルフリーデだけだ。
「……あっ! ジュードやぁっ! やめてっ」
それも頑ななエルフリーデの反応や態度が自分を意識してのものだと分かると余計に嬉しくて意地悪をしたくなる。だから自分の方へ視線が向くようにジュードはエルフリーデの顎を指先で軽くクイッと動かした。
顔をジュードの方へ無理矢理戻されてしまったエルフリーデはまたう~と唸って悔しそうに涙ぐんだ瞳でジュードを睨み付けている。
そうして意地悪をしたいと思う反面、酷く甘やかしてしまいたくもなる。小さい子供が好きな子を虐めるような感情と好きな人をどっぷり甘い蜜に浸して甘やかしたいと思う大人の感情。相反する感情に押されながら困ったものだとジュードは恨みがましい目線を向けてくるエルフリーデの顔を眺めた。
「だからいやっていってるのに~っ! はなしてっジュードお願いはなしてってばぁっ!」
「駄目だよ。リー、ちゃんと僕を見て? こっちを向いて?」
「やだっ」
「見てくれないのならキスするよ?」
「えっ? ──ぁっ!」
ジュードは返事を待たずにエルフリーデの柔らかな唇に啄むようなキスをした。触れ合う程度の軽いもの。けれどエルフリーデはいつになく積極的なジュードの様子に戸惑いを感じているようで、何度もからかうように触れてくるジュードに困惑を隠せないでいる。
「ジュード……? どうして今日はそんなふうに触るの?」
エルフリーデの制止を無視して有無を言わせず意地悪なことを繰り返していたから、ジュードに翻弄され過ぎたエルフリーデは半ば疑いすら抱くようになってしまったようだ。
「わたしとはその、やっぱり今はしないってことなんでしょ? そうよね? だってジュード怪我してるものね? 少し良くなったって言ってもまだちゃんとは治ってないし……」
やっぱり少し怖くなったのか。エルフリーデは確認するように不安げに何度もジュードに尋ねてきた。そうして途端に逃げ腰になられると逃げられないように捉えて、けして逃げ出せない檻の中にでも入れてしまいたくなる。
ジュードは男の自分がどれだけエルフリーデに残酷なのかよく分かっていた。怖がられて逃げられるのが嫌だから、その本性を見せないようにずっとひた隠しに優しさだけで接してきたというのに。
こうしてジュードの上腕に両脇を挟まれて動けないようにベッドの上に組み敷かれていても、幼なじみの少女はそれをまるで分かっていなかった。ジュードにならされてもいいと言いながら、ジュードの本性にちゃんと気付いているようで気付いていない。
エルフリーデのジュードを見る目は、ジュードはやっぱり優しい人だと思っているようで。その昔と変わらない純粋で無垢な瞳を向けられてジュードは苛立ちを覚えた。こんな状態でもエルフリーデはどうやらまだ、優しいジュードが逃がしてくれると思っているらしい。
「リーはどうしてそう思うの? この位平気だって、リーに触れられない方が辛いって僕はさっき言ったばかりじゃないか」
「えっ? でもジュード怪我して……──きゃぁっ!」
ジュードはエルフリーデの両手を掴んでグイッと力尽くでベッドに押し付けた。
「僕も男だってこと、ちゃんと分かってる?」
「……ジュード?」
「僕は普段からリーに優しくしたいって思ってる。絶対に傷付けたくないって。だけど優しく出来ない事だってあるんだ。リーを傷付けて負担を強いる行為だって分かっててそれでも僕はリーを最後まで抱きたいって思ってる。力尽くで奪い取るような真似はしたくないけど。もうリーが泣いてもやだって言っても僕は止めないよ?」
陰のある挑発的な物言いと強く残酷な男の目線を向けるとエルフリーデは怯えたように身を竦ませ。瞳孔を大きく開かせた。その角度によって金にも見える茶色の大きな瞳には男の顔をしたジュードだけが映し出されていた。
2
あなたにおすすめの小説
騎士団長の幼なじみ
入海月子
恋愛
マールは伯爵令嬢。幼なじみの騎士団長のラディアンのことが好き。10歳上の彼はマールのことをかわいがってはくれるけど、異性とは考えてないようで、マールはいつまでも子ども扱い。
あれこれ誘惑してみるものの、笑ってかわされる。
ある日、マールに縁談が来て……。
歳の差、体格差、身分差を書いてみたかったのです。王道のつもりです。
可愛すぎてつらい
羽鳥むぅ
恋愛
無表情で無口な「氷伯爵」と呼ばれているフレッドに嫁いできたチェルシーは彼との関係を諦めている。
初めは仲良くできるよう努めていたが、素っ気ない態度に諦めたのだ。それからは特に不満も楽しみもない淡々とした日々を過ごす。
初恋も知らないチェルシーはいつか誰かと恋愛したい。それは相手はフレッドでなくても構わない。どうせ彼もチェルシーのことなんてなんとも思っていないのだから。
しかしある日、拾ったメモを見て彼の新しい一面を知りたくなってしまう。
***
なんちゃって西洋風です。実際の西洋の時代背景や生活様式とは異なることがあります。ご容赦ください。
ムーンさんでも同じものを投稿しています。
メイウッド家の双子の姉妹
柴咲もも
恋愛
シャノンは双子の姉ヴァイオレットと共にこの春社交界にデビューした。美しい姉と違って地味で目立たないシャノンは結婚するつもりなどなかった。それなのに、ある夜、訪れた夜会で見知らぬ男にキスされてしまって…?
※19世紀英国風の世界が舞台のヒストリカル風ロマンス小説(のつもり)です。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
お見合いから本気の恋をしてもいいですか
濘-NEI-
恋愛
元カレと破局して半年が経った頃、母から勧められたお見合いを受けることにした涼葉を待っていたのは、あの日出逢った彼でした。
高橋涼葉、28歳。
元カレとは彼の転勤を機に破局。
恋が苦手な涼葉は人恋しさから出逢いを求めてバーに来たものの、人生で初めてのナンパはやっぱり怖くて逃げ出したくなる。そんな危機から救ってくれたのはうっとりするようなイケメンだった。 優しい彼と意気投合して飲み直すことになったけれど、名前も知らない彼に惹かれてしまう気がするのにブレーキはかけられない。
殿下、今回も遠慮申し上げます
cyaru
恋愛
結婚目前で婚約を解消されてしまった侯爵令嬢ヴィオレッタ。
相手は平民で既に子もいると言われ、その上「側妃となって公務をしてくれ」と微笑まれる。
静かに怒り沈黙をするヴィオレッタ。反対に日を追うごとに窮地に追い込まれる王子レオン。
側近も去り、資金も尽き、事も有ろうか恋人の教育をヴィオレッタに命令をするのだった。
前半は一度目の人生です。
※作品の都合上、うわぁと思うようなシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる