手出しさせてやろうじゃないの! ~公爵令嬢の幼なじみは王子様~

薄影メガネ

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本編

42.瞳に映し出されるもの

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 白い宝石のような大輪、幻の花ミレニアムインフェルノを手に嬉しそうに頬を緩めている女性は、ジュードの腕の中に囚われて動けなくなっている状態であることをすっかり忘れているようだ。その細い首筋に顔を埋めてそこに強く吸い付くと小さな悲鳴が上がった。

「きゃっ」

 手にした花を取り落として、大きな茶色の瞳をまたたかせるエルフリーデが驚きに捕らわれて抵抗出来ないうちにジュードはベッドにエルフリーデを組み敷いた。首筋に出来た赤いあとに手をやってそっとなぞると、ジュードの下に横たえられたエルフリーデはビクッと緊張に身を固くして目をキュッと閉じてしまった。
 頬を赤くしたままピクリとも動かなくなったエルフリーデの胸元に手を当てると早鐘のようにトクントクンと鳴る心音が指先から伝わってくる。それからゆっくりとエルフリーデの胸元に耳を当てるとその音は更に激しさを増したように思えた。

「リーの心臓の音すごく速いね。布越しでも分かるくらいドキドキしてるけど。そんなに僕に触られるとリーは緊張するの? 普段僕がリーを抱き寄せてたときはこんなに緊張してなかったよね?」
「……ジュードのばかぁっ! なんでっなんで今そんなこというのよぅっ」

 くすくすと楽しそうに笑って、あまりにも分かりきったことを聞いてくるジュードにエルフリーデはう~と悔しそうに涙を浮かべている。そうして一瞬、視線をジュードに戻したと思ったら、すぐまたらされてそっぽを向かれてしまった。
 エルフリーデが可愛らしく悪態をついて顔をそむけるから、ジュードは逃れようともがくエルフリーデの視界を占領したくて仕方が無くなってしまう。愛しい人の視線を自らに戻すために手を焼くのも悪くはない。ジュードにそう思わせることが出来るのはきっと後にも先にもエルフリーデだけだ。
 
「……あっ! ジュードやぁっ! やめてっ」

 それもかたくななエルフリーデの反応や態度が自分を意識してのものだと分かると余計に嬉しくて意地悪をしたくなる。だから自分の方へ視線が向くようにジュードはエルフリーデの顎を指先で軽くクイッと動かした。
 顔をジュードの方へ無理矢理戻されてしまったエルフリーデはまたう~とうなって悔しそうに涙ぐんだ瞳でジュードをにらみ付けている。

 そうして意地悪をしたいと思う反面、酷く甘やかしてしまいたくもなる。小さい子供が好きな子を虐めるような感情と好きな人をどっぷり甘い蜜に浸して甘やかしたいと思う大人の感情。相反あいはんする感情に押されながら困ったものだとジュードはうらみがましい目線を向けてくるエルフリーデの顔を眺めた。

「だからいやっていってるのに~っ! はなしてっジュードお願いはなしてってばぁっ!」
「駄目だよ。リー、ちゃんと僕を見て? こっちを向いて?」
「やだっ」
「見てくれないのならキスするよ?」
「えっ? ──ぁっ!」

 ジュードは返事を待たずにエルフリーデの柔らかな唇についばむようなキスをした。触れ合う程度の軽いもの。けれどエルフリーデはいつになく積極的なジュードの様子に戸惑いを感じているようで、何度もからかうように触れてくるジュードに困惑を隠せないでいる。

「ジュード……? どうして今日はそんなふうに触るの?」

 エルフリーデの制止を無視して有無を言わせず意地悪なことを繰り返していたから、ジュードに翻弄ほんろうされ過ぎたエルフリーデは半ば疑いすら抱くようになってしまったようだ。

「わたしとはその、やっぱり今はしないってことなんでしょ? そうよね? だってジュード怪我してるものね? 少し良くなったって言ってもまだちゃんとは治ってないし……」

 やっぱり少し怖くなったのか。エルフリーデは確認するように不安げに何度もジュードに尋ねてきた。そうして途端に逃げ腰になられると逃げられないようにとらえて、けして逃げ出せない檻の中にでも入れてしまいたくなる。
 ジュードは男の自分がどれだけエルフリーデに残酷なのかよく分かっていた。怖がられて逃げられるのが嫌だから、その本性を見せないようにずっとひた隠しに優しさだけで接してきたというのに。

 こうしてジュードの上腕に両脇をはさまれて動けないようにベッドの上に組み敷かれていても、幼なじみの少女はそれをまるで分かっていなかった。ジュードにならされてもいいと言いながら、ジュードの本性にちゃんと気付いているようで気付いていない。
 エルフリーデのジュードを見る目は、ジュードはやっぱり優しい人だと思っているようで。その昔と変わらない純粋で無垢な瞳を向けられてジュードは苛立いらだちを覚えた。こんな状態でもエルフリーデはどうやらまだ、優しいジュードが逃がしてくれると思っているらしい。

「リーはどうしてそう思うの? この位平気だって、リーに触れられない方が辛いって僕はさっき言ったばかりじゃないか」
「えっ? でもジュード怪我して……──きゃぁっ!」
 
 ジュードはエルフリーデの両手を掴んでグイッと力尽くでベッドに押し付けた。

「僕も男だってこと、ちゃんと分かってる?」 
「……ジュード?」
「僕は普段からリーに優しくしたいって思ってる。絶対に傷付けたくないって。だけど優しく出来ない事だってあるんだ。リーを傷付けて負担をいる行為だって分かっててそれでも僕はリーを最後まで抱きたいって思ってる。力尽くで奪い取るような真似はしたくないけど。もうリーが泣いてもやだって言っても僕は止めないよ?」

 かげのある挑発的な物言いと強く残酷な男の目線を向けるとエルフリーデはおびえたように身をすくませ。瞳孔どうこうを大きく開かせた。その角度によって金にも見える茶色の大きな瞳には男の顔をしたジュードだけが映し出されていた。
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