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本編
13、世迷い言を貫くには①
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てっきり触れた相手の感情を読み取ることができる特異体質のせいで、過剰に触れられるのを嫌っているのかと思っていたら。実は処女をこじらせたせいで男嫌いが倍加しているとは想定外だ。
とでも思っていそうなオルグレンの反応に。リリヤはオルグレンの腕に抱かれたまま、拗ねるような顔をして俯いた。
「……俺は貴女を憎んではいない。だが貴女を許してもいない」
当然だ。普通はそうだろう。やっぱりオルグレンはリリヤを全然許してはいなかった。
「貴女が俺に命を返すか。もしくは伴侶として新たな形での命を授けるか。選択肢は二つに一つしかない。そうは言ったが……」
渋るリリヤに残された道は一つ。
頭上から淡々と聞こえてくる穏やかな声に、リリヤは再び面を上げた。
「命の返却を断られた以上、貴女を伴侶として迎え入れることになるが。貴女の方から良いと返事をもらえるまでは無理強いはしない」
「それはどういう……」
「経験もない貴女には酷な話だろう」
オルグレンは伴侶とすることの意味を考慮し。妥協しているのだ。
男と女の営みを分かりきった様子で、まさか百歳以上年下の子供に気遣われるとは。リリヤは頭を鈍器で殴られたような衝撃に暫し耐えた。
「…………私は、この特異体質のせいで男性不信なんです。処女だからといって何の理由もなくこんな過剰反応は致しません」
ありがたいを通り越して自分自身が情けなくなってくるではないか。
(……やっぱり私子供扱いされてるのね……。それもこの子……十六でそういうことはもう経験済みってことよね……)
オルグレンの初体験はいつだとか、相手はどこの誰なんだろうとか。リリヤは余計なことが気になって話に集中できないでいる。
(駄目だわ。素の部分を出し過ぎた……)
取り乱してはいけないと、リリヤは気持ちを引き締めた。
「そもそも大罪人を一国の公子の伴侶にするなどというお話、黒の魔女がお許しになるとは到底思えないのですが……」
「それについては問題ない。公国の現女王、黒の魔女の伴侶である王配殿下もまたその恩恵を受けた身。今し方、女王陛下より許可は得てある」
敵同然の相手を、命のために伴侶とする。とても利己的で無駄のない判断だ。
ここに来たときに言っていた、済ませなければならない用件とはそのことだったのかと。瞠目するリリヤの赤い瞳を、オルグレンは捉えて離さない。獲物を狙う狩人のような、鋭い眼光に気圧されそうになるのを、リリヤは必死に堪えていた。
「で、ですが……オルグレン様は先程私のことは何も知らないと……」
「貴女を知りたいとは思っている。昔からずっと」
「……っ」
「貴女は俺に命を返す気はないのだろう? ならばそれが最善の策というものではないのか?」
オルグレンはリリヤに自ら伴侶となることを承諾するよう促している。
三百年間ずっと貞操を守り続けてきた魔女を見るオルグレンの眼差しは。純粋で真っ直ぐな──恋い慕う相手に向けられる視線、そのもののように感じられて。リリヤはひたすら困惑していた。
「……そろそろ離して下さい。もう無理なことは致しませんから」
と言ってもオルグレンからは訝しげな表情しか返ってこない。
リリヤを抱き締めたまま、一向に離す気配のないオルグレンの胸元を、リリヤは突き放すように強く押したが。もちろんびくともしない。
(この子見た目はスラッとしていて女の子みたいに綺麗なのに力は強い……はぁ……やっぱり男の子なのね)
オルグレンに侮られていること、子供扱いされていること。全てはそう思われる行動をした自身への失望で、頭の中がやけに冷めてきた。
「どうした?」
オルグレンは一国の公子にしては市民感覚が強い。様子を伺うように、リリヤとの目の高さを合わせてきた。
「……オルグレン様。私はその選択をどちらも選ぶことはできません」
「どうするつもりだ?」
確かにオルグレンをそうせざるを得ない状況に追い込んだのは自分だ。しかし、命を奪った身で伴侶に納まるなど。図々しくも脅迫めいた取り引きで得た立場に、いったいなんの価値があるというのだろうか。
そうしてリリヤは決断した。
「私のことは極刑なり何なり好きに判断して頂いて結構です。たとえそれがどのような刑であろうとも、私は甘んじて受け入れます」
未来永劫、公国の民から公子の命を奪った盗人──大罪人として見られながら、第三公子の妻として生きていく道を選ぶ度胸もなかったのだと。所詮、その立場を担うだけの覚悟もなかったのだと。
白の魔女はあらゆる重圧から逃げることを選択した。偽善者で薄汚い裏切り者。世間一般からはそう、白の魔女は人々の目に映ることになる。
とでも思っていそうなオルグレンの反応に。リリヤはオルグレンの腕に抱かれたまま、拗ねるような顔をして俯いた。
「……俺は貴女を憎んではいない。だが貴女を許してもいない」
当然だ。普通はそうだろう。やっぱりオルグレンはリリヤを全然許してはいなかった。
「貴女が俺に命を返すか。もしくは伴侶として新たな形での命を授けるか。選択肢は二つに一つしかない。そうは言ったが……」
渋るリリヤに残された道は一つ。
頭上から淡々と聞こえてくる穏やかな声に、リリヤは再び面を上げた。
「命の返却を断られた以上、貴女を伴侶として迎え入れることになるが。貴女の方から良いと返事をもらえるまでは無理強いはしない」
「それはどういう……」
「経験もない貴女には酷な話だろう」
オルグレンは伴侶とすることの意味を考慮し。妥協しているのだ。
男と女の営みを分かりきった様子で、まさか百歳以上年下の子供に気遣われるとは。リリヤは頭を鈍器で殴られたような衝撃に暫し耐えた。
「…………私は、この特異体質のせいで男性不信なんです。処女だからといって何の理由もなくこんな過剰反応は致しません」
ありがたいを通り越して自分自身が情けなくなってくるではないか。
(……やっぱり私子供扱いされてるのね……。それもこの子……十六でそういうことはもう経験済みってことよね……)
オルグレンの初体験はいつだとか、相手はどこの誰なんだろうとか。リリヤは余計なことが気になって話に集中できないでいる。
(駄目だわ。素の部分を出し過ぎた……)
取り乱してはいけないと、リリヤは気持ちを引き締めた。
「そもそも大罪人を一国の公子の伴侶にするなどというお話、黒の魔女がお許しになるとは到底思えないのですが……」
「それについては問題ない。公国の現女王、黒の魔女の伴侶である王配殿下もまたその恩恵を受けた身。今し方、女王陛下より許可は得てある」
敵同然の相手を、命のために伴侶とする。とても利己的で無駄のない判断だ。
ここに来たときに言っていた、済ませなければならない用件とはそのことだったのかと。瞠目するリリヤの赤い瞳を、オルグレンは捉えて離さない。獲物を狙う狩人のような、鋭い眼光に気圧されそうになるのを、リリヤは必死に堪えていた。
「で、ですが……オルグレン様は先程私のことは何も知らないと……」
「貴女を知りたいとは思っている。昔からずっと」
「……っ」
「貴女は俺に命を返す気はないのだろう? ならばそれが最善の策というものではないのか?」
オルグレンはリリヤに自ら伴侶となることを承諾するよう促している。
三百年間ずっと貞操を守り続けてきた魔女を見るオルグレンの眼差しは。純粋で真っ直ぐな──恋い慕う相手に向けられる視線、そのもののように感じられて。リリヤはひたすら困惑していた。
「……そろそろ離して下さい。もう無理なことは致しませんから」
と言ってもオルグレンからは訝しげな表情しか返ってこない。
リリヤを抱き締めたまま、一向に離す気配のないオルグレンの胸元を、リリヤは突き放すように強く押したが。もちろんびくともしない。
(この子見た目はスラッとしていて女の子みたいに綺麗なのに力は強い……はぁ……やっぱり男の子なのね)
オルグレンに侮られていること、子供扱いされていること。全てはそう思われる行動をした自身への失望で、頭の中がやけに冷めてきた。
「どうした?」
オルグレンは一国の公子にしては市民感覚が強い。様子を伺うように、リリヤとの目の高さを合わせてきた。
「……オルグレン様。私はその選択をどちらも選ぶことはできません」
「どうするつもりだ?」
確かにオルグレンをそうせざるを得ない状況に追い込んだのは自分だ。しかし、命を奪った身で伴侶に納まるなど。図々しくも脅迫めいた取り引きで得た立場に、いったいなんの価値があるというのだろうか。
そうしてリリヤは決断した。
「私のことは極刑なり何なり好きに判断して頂いて結構です。たとえそれがどのような刑であろうとも、私は甘んじて受け入れます」
未来永劫、公国の民から公子の命を奪った盗人──大罪人として見られながら、第三公子の妻として生きていく道を選ぶ度胸もなかったのだと。所詮、その立場を担うだけの覚悟もなかったのだと。
白の魔女はあらゆる重圧から逃げることを選択した。偽善者で薄汚い裏切り者。世間一般からはそう、白の魔女は人々の目に映ることになる。
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