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第二部
14 神聖なる任務
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日の出前の薄暗い朝。雇い主のラーティが城に向かうのを確認してすぐに、ガロンは昨晩ルーカスから申し出のあった任に就いていた。
ルーカスの与えた任務。それはラーティとウルスラの面会を、それとなく探ってほしいということだった。
夫が元婚約者筆頭候補に会うのだから気になるのは当然だろう。元々屋敷に残る予定だったガロンには断る理由もなかったので、直ぐに承諾の返事をした。
魔獣使いは契約を交わした魔獣と五感を共有することが可能だ。意識を集中させれば遠隔で操作することもできる。
ガロンは使役獣であるオカメンコインの特能の一つ「覗き見」…………ではなく、「覗き目」を使って覗き見……いや、覗き目をすることにした。
人の五十倍の視力を持つオカメンコインの特能「覗き目」を使えば、更に人の百倍程の視力を発揮し、山を二、三挟んだ向こうの町や村の様子も監察することが可能となる。
それにガロンは唇の動きを呼んで会話を読み取ることができる読唇術を持っている。口が角度的に見えないだとかでなければ、会話の内容も分かるのだ。
といってもこのオカメンコインの「覗き目」が使えるのは、前方に木や建物等の視界を阻害する障害物がない場合に限られる。
オカメンコインの「覗き目」は飽くまでも視力が飛躍的に上がるだけの特能なのだ。従って、なかなか使える場面は少ない。
今回も視界を遮断する物がないかオカメンコインに確認させながら、ラーティの跡をつけさせているのだが……
城の周りは高い外壁に囲まれており、外部からの魔獣による情報漏れ等を防ぐための手段があちこちに仕掛けられている。
阻害物が多いということは、おそらく「覗き目」は使えないだろう。ラーティ達の直ぐ近くで、オカメンコインを使うことになる気がしている。
それでも、オカメンコインは他の魔獣に比べ、偵察力に優れている。
大型インコの姿形で力は強く、鳥系の魔獣の中では攻撃力が高い。何より、偵察中も見た目の可愛さで、ご家庭の飼育しているインコが逃げ出したのだろうと、魔獣と気付かれず見逃されることも多々ある。
つぶらな黒い瞳に黄金の羽。頬は赤いチークを塗したような見た目の「可愛いは正義」を地で行くプリティ系の魔獣だ。使わない手はない。
それにガロンは勇者パーティーの仲間で、城への出入りが頻繁な魔獣使いだ。そのガロンが使役する魔獣として、このオカメンコインは認識されているので監視の目も緩い。城への侵入は難なくこなせるだろう。
となると、城にいる魔獣と遠隔で五感を合わせることとなるため、多くの集中力がいる。
ガロンはその特質上、ラーティから静かに精神を集中できる部屋を、屋敷の一角に与えられていた。今まさに、その部屋でこれからオカメンコインと五感を合わせる作業に取り掛かるところだったのだ。──が、
ガサゴソガサゴソ
「見えないわ」
「見えないね」
ガサゴソガサゴソ
さっきから部屋の中を鍵穴から覗き見ようとしている不埒な双子の物音に集中できない。
「これさ、鍵穴が小さすぎるんだよ。ヤスリ持ってくるからそれで穴をもうちょっと広げれば中の様子が見えるんじゃない?」
「そっか! そうよね。じゃあ私は音を抑える布でもそこら辺の部屋から探してくるわね! お互い目的の物が見つかったらここに戻って来ましょう」
「分かったよ。でもドリス、あんまり高そうな布は駄目だよ」
「分かってるわよ。フェリスも錆びたヤスリとか持ってこないでよ」
「大丈夫だよちゃんとそこは選別して持って……」
──ガチャリ。
ガロンは気配を消して扉に近付くと、双子の不意を突いて開けた。
「お前らな、勝手に人の部屋の鍵穴を広げようとすんじゃねぇ」
双子が「あっ」という顔をした。「あれだけ騒いでいれば分かるに決まってんだろ」とガロンが呆れて言うと双子は開き直った。
「でもさ、本当にいいの? そんなことしちゃって。覗き見とかって最低じゃん、てか変態じゃん」
人の部屋の鍵穴を広げようとしていたフェリスに言われたくない。
「何言ってるのよフェリス、当然でしょ? ルーカスの危機よ。ガロンが最低だろうが、変態だろうが、ここは何かが起こる前に対処しないと!」
はぁっ、悪びれもせずこの双子は……
一応これから何をするかは双子にも事前に話をしておいたのだが、それが却って変な気を起こさせてしまったようだ。
ドリスもフェリスも昔から問題行動ばかり起こしていたが、しかし基本モテるのだ。
典型的な悪い女と悪い男と言えば分かるだろうか。
そのちょっと世間一般から外れた、擦れた魅力に周りは惹かれるのだろう。あと性格に難はあるが、何といっても顔がいい。
ガロンにはただピーピー鳴いて周囲を威嚇している雛鳥にしか見えないが。
──まあ、美男美女の双子ってステータスは、ある意味レア度高くて最強だよな。おまけにコイツら最高レベルの魔法使いと治療師の双子だし。
だからか、昔から些細な悪戯から重大なしくじりに至るまで、周囲からも許容範囲と甘い目で見られ、見逃されがちでその上……
「僕に懐くな。お前ら人間だろうが」
ガロンに懐くのが魔獣なら分かるのだ。それが何故人間の、それもこの双子なんだ。
最近特にそうだ。双子はガロンにやたらと構われたがる。
ドリスは慕っていたラーティがルーカスと結婚してしまい、その穴を埋めるためガロンで暇潰ししているのはまあ分かる。
しかしフェリスは昔から、魔獣の世話をするガロンを何かと理由を付けては手伝ったりする。面倒事には関わらない主義なのに、ガロンが大変なときは察して手を差し伸べる器用さがモテる秘訣かと、思い始めたところだった。
「いいか、二人とも……これは雇い主であるラーティ様の奥方様からの指示だ。僕だって雇い主と王女の対話を覗き見るなど心苦しいが、しかし僕は致し方なく覗き見をするんだ」
「「…………」」
そんな堂々と節操のないことをと、双子の顔に書いてある。
賛同しているドリスはともかく、フェリスは「このままガロンを指示するべきか、それとも……」とまだ覗き見に対する迷いが立ち切れないでいる。一応弱い正義感で自問自答しているようだ。
「あのなーお前らだってさっきは人の部屋を鍵穴広げて覗き見しようとしてたんだろーが。僕からしてみりゃやってることにそう大差ねえんだよ」
知りたいなら知りたいって素直に言えばいいだろ? 教えてやるから可笑しな真似は止めなさい。
ガロンは面倒臭そうに言って、掛けてる眼鏡を軽く掛け直した。さっさと仕事に取り掛かりたいのだ。
「いいか、これは所謂神聖なる覗き見だ」
ドーン。
「し、神聖なる、」
若干よろけて衝撃を受けるフェリス。
「覗き見……!」
続いて姉のドリスがハッとする。
きっぱりとこの覗き見は悪ではないと言い切ったのは、勇者パーティーの仲間の中で最年長のガロンだ。ガロンは二十五歳、一方のドリスとフェリスは十八歳。
七つ年上のガロンからすると、双子は子供同然。そして双子からすると、ガロンは大人だ。
雇い主をこれから覗き見することに微塵の後悔も悪気もなく、いけしゃあしゃあと力説する年長者の言うことに、嘘はないと信じたいドリスとフェリスは動揺を押し殺し「な、なるほど……」と頷いた。
「うんうんそうよね。ルーカスのためだもの。ラーティ様を覗き見するのは致し方がないことなのよ」
「そっか。ルーカスのためだし、致し方がない、のかな……?」
よし、ようやくフェリスを丸め込むことができた。ガロンは彼の気が変わらない内に、次に進める。
「じゃあさっさと部屋に入れよ。このままだと大事なシーンを見逃すかもだろ」
まだ戸惑うフェリスをドリスごと室内に急かして誘導する。
双子を手近な椅子に座らせ、そこで「これでも食ってろ」とガロンは部屋に置いておいた保存食の干し肉入り小袋を手渡し、待機させた。
魔王討伐で一年中一緒に旅をしていた双子なら、大人しくさえしてくれれば、同じ部屋にいても気は散らない。しかし双子の相手をしていたら大分時間を食ってしまった。
ガロンは双子から少し離れた、予め床に薄布を引いていたところに胡座をかいて座る。
瞑想を始めるように目を瞑り、意識を集中した。
オカメンコインと感覚を共有させるため、使役獣との繋がりを強化する念のような魔力を送る。
契約の痕跡を辿って先にラーティ達の跡を追わせていたオカメンコインの居場所を探り当てると、ガロンは感覚を共有させた。
部屋の中にいながら感じる外気の風、流れてくる草木の匂い。いつもより空を近くに感じる。
日の光を浴びて風を切るオカメンコインの力強い翼の感覚。
見つけた美味しそうな虫を追いかけたいのを必死に我慢しながら、オカメンコインはモフモフな羽を動かし、目的の部屋の前をパタパタと旋回していた。
後でオカメンコインに褒美のオヤツを与えなくてはとガロンは思いつつ、任務に集中する。
やはり予想通り、オカメンコインは城内に侵入していた。それも──
「うーん、やっぱり視覚が建物に遮断されて遠くからだと見えないな。となると近くから見るしかないか」
「「近くって?」」
ドリスとフェリスがモグモグと干し肉を食べながら、同時に聞いてくる。
「直接窓から見る」
「「…………」」
直接、窓から……? それってもはや特能関係なく、窓から覗き見しているただのインコなのでは? と、双子が思っていることに、ガロンは気付かない。
「げっ」
「どうしたのよガロン。急にすっとんきょうな声出して」
ドリスが小袋から干し肉を取る手を止めた。
「ラーティ様と目が合った」
ガロンの報告に、フェリスが口に咥えていた干し肉を吹き出した。
正確に言うと、部屋を窓から覗いているオカメンコインと目が合った、ということだが……
「ま、これで完全にバレた訳だし。ラーティ様は追い払う様子もないから、堂々と覗き見するか」
後で覗き見をラーティに咎められることよりも、部屋の中を窓から覗き見している大型インコ、色は黄色と目が合ってしまったとき、ラーティがどんな顔をしていたのか双子は知りたかったのだが……もちろんガロンはそんな双子の心境など知る由も無かった。
ルーカスの与えた任務。それはラーティとウルスラの面会を、それとなく探ってほしいということだった。
夫が元婚約者筆頭候補に会うのだから気になるのは当然だろう。元々屋敷に残る予定だったガロンには断る理由もなかったので、直ぐに承諾の返事をした。
魔獣使いは契約を交わした魔獣と五感を共有することが可能だ。意識を集中させれば遠隔で操作することもできる。
ガロンは使役獣であるオカメンコインの特能の一つ「覗き見」…………ではなく、「覗き目」を使って覗き見……いや、覗き目をすることにした。
人の五十倍の視力を持つオカメンコインの特能「覗き目」を使えば、更に人の百倍程の視力を発揮し、山を二、三挟んだ向こうの町や村の様子も監察することが可能となる。
それにガロンは唇の動きを呼んで会話を読み取ることができる読唇術を持っている。口が角度的に見えないだとかでなければ、会話の内容も分かるのだ。
といってもこのオカメンコインの「覗き目」が使えるのは、前方に木や建物等の視界を阻害する障害物がない場合に限られる。
オカメンコインの「覗き目」は飽くまでも視力が飛躍的に上がるだけの特能なのだ。従って、なかなか使える場面は少ない。
今回も視界を遮断する物がないかオカメンコインに確認させながら、ラーティの跡をつけさせているのだが……
城の周りは高い外壁に囲まれており、外部からの魔獣による情報漏れ等を防ぐための手段があちこちに仕掛けられている。
阻害物が多いということは、おそらく「覗き目」は使えないだろう。ラーティ達の直ぐ近くで、オカメンコインを使うことになる気がしている。
それでも、オカメンコインは他の魔獣に比べ、偵察力に優れている。
大型インコの姿形で力は強く、鳥系の魔獣の中では攻撃力が高い。何より、偵察中も見た目の可愛さで、ご家庭の飼育しているインコが逃げ出したのだろうと、魔獣と気付かれず見逃されることも多々ある。
つぶらな黒い瞳に黄金の羽。頬は赤いチークを塗したような見た目の「可愛いは正義」を地で行くプリティ系の魔獣だ。使わない手はない。
それにガロンは勇者パーティーの仲間で、城への出入りが頻繁な魔獣使いだ。そのガロンが使役する魔獣として、このオカメンコインは認識されているので監視の目も緩い。城への侵入は難なくこなせるだろう。
となると、城にいる魔獣と遠隔で五感を合わせることとなるため、多くの集中力がいる。
ガロンはその特質上、ラーティから静かに精神を集中できる部屋を、屋敷の一角に与えられていた。今まさに、その部屋でこれからオカメンコインと五感を合わせる作業に取り掛かるところだったのだ。──が、
ガサゴソガサゴソ
「見えないわ」
「見えないね」
ガサゴソガサゴソ
さっきから部屋の中を鍵穴から覗き見ようとしている不埒な双子の物音に集中できない。
「これさ、鍵穴が小さすぎるんだよ。ヤスリ持ってくるからそれで穴をもうちょっと広げれば中の様子が見えるんじゃない?」
「そっか! そうよね。じゃあ私は音を抑える布でもそこら辺の部屋から探してくるわね! お互い目的の物が見つかったらここに戻って来ましょう」
「分かったよ。でもドリス、あんまり高そうな布は駄目だよ」
「分かってるわよ。フェリスも錆びたヤスリとか持ってこないでよ」
「大丈夫だよちゃんとそこは選別して持って……」
──ガチャリ。
ガロンは気配を消して扉に近付くと、双子の不意を突いて開けた。
「お前らな、勝手に人の部屋の鍵穴を広げようとすんじゃねぇ」
双子が「あっ」という顔をした。「あれだけ騒いでいれば分かるに決まってんだろ」とガロンが呆れて言うと双子は開き直った。
「でもさ、本当にいいの? そんなことしちゃって。覗き見とかって最低じゃん、てか変態じゃん」
人の部屋の鍵穴を広げようとしていたフェリスに言われたくない。
「何言ってるのよフェリス、当然でしょ? ルーカスの危機よ。ガロンが最低だろうが、変態だろうが、ここは何かが起こる前に対処しないと!」
はぁっ、悪びれもせずこの双子は……
一応これから何をするかは双子にも事前に話をしておいたのだが、それが却って変な気を起こさせてしまったようだ。
ドリスもフェリスも昔から問題行動ばかり起こしていたが、しかし基本モテるのだ。
典型的な悪い女と悪い男と言えば分かるだろうか。
そのちょっと世間一般から外れた、擦れた魅力に周りは惹かれるのだろう。あと性格に難はあるが、何といっても顔がいい。
ガロンにはただピーピー鳴いて周囲を威嚇している雛鳥にしか見えないが。
──まあ、美男美女の双子ってステータスは、ある意味レア度高くて最強だよな。おまけにコイツら最高レベルの魔法使いと治療師の双子だし。
だからか、昔から些細な悪戯から重大なしくじりに至るまで、周囲からも許容範囲と甘い目で見られ、見逃されがちでその上……
「僕に懐くな。お前ら人間だろうが」
ガロンに懐くのが魔獣なら分かるのだ。それが何故人間の、それもこの双子なんだ。
最近特にそうだ。双子はガロンにやたらと構われたがる。
ドリスは慕っていたラーティがルーカスと結婚してしまい、その穴を埋めるためガロンで暇潰ししているのはまあ分かる。
しかしフェリスは昔から、魔獣の世話をするガロンを何かと理由を付けては手伝ったりする。面倒事には関わらない主義なのに、ガロンが大変なときは察して手を差し伸べる器用さがモテる秘訣かと、思い始めたところだった。
「いいか、二人とも……これは雇い主であるラーティ様の奥方様からの指示だ。僕だって雇い主と王女の対話を覗き見るなど心苦しいが、しかし僕は致し方なく覗き見をするんだ」
「「…………」」
そんな堂々と節操のないことをと、双子の顔に書いてある。
賛同しているドリスはともかく、フェリスは「このままガロンを指示するべきか、それとも……」とまだ覗き見に対する迷いが立ち切れないでいる。一応弱い正義感で自問自答しているようだ。
「あのなーお前らだってさっきは人の部屋を鍵穴広げて覗き見しようとしてたんだろーが。僕からしてみりゃやってることにそう大差ねえんだよ」
知りたいなら知りたいって素直に言えばいいだろ? 教えてやるから可笑しな真似は止めなさい。
ガロンは面倒臭そうに言って、掛けてる眼鏡を軽く掛け直した。さっさと仕事に取り掛かりたいのだ。
「いいか、これは所謂神聖なる覗き見だ」
ドーン。
「し、神聖なる、」
若干よろけて衝撃を受けるフェリス。
「覗き見……!」
続いて姉のドリスがハッとする。
きっぱりとこの覗き見は悪ではないと言い切ったのは、勇者パーティーの仲間の中で最年長のガロンだ。ガロンは二十五歳、一方のドリスとフェリスは十八歳。
七つ年上のガロンからすると、双子は子供同然。そして双子からすると、ガロンは大人だ。
雇い主をこれから覗き見することに微塵の後悔も悪気もなく、いけしゃあしゃあと力説する年長者の言うことに、嘘はないと信じたいドリスとフェリスは動揺を押し殺し「な、なるほど……」と頷いた。
「うんうんそうよね。ルーカスのためだもの。ラーティ様を覗き見するのは致し方がないことなのよ」
「そっか。ルーカスのためだし、致し方がない、のかな……?」
よし、ようやくフェリスを丸め込むことができた。ガロンは彼の気が変わらない内に、次に進める。
「じゃあさっさと部屋に入れよ。このままだと大事なシーンを見逃すかもだろ」
まだ戸惑うフェリスをドリスごと室内に急かして誘導する。
双子を手近な椅子に座らせ、そこで「これでも食ってろ」とガロンは部屋に置いておいた保存食の干し肉入り小袋を手渡し、待機させた。
魔王討伐で一年中一緒に旅をしていた双子なら、大人しくさえしてくれれば、同じ部屋にいても気は散らない。しかし双子の相手をしていたら大分時間を食ってしまった。
ガロンは双子から少し離れた、予め床に薄布を引いていたところに胡座をかいて座る。
瞑想を始めるように目を瞑り、意識を集中した。
オカメンコインと感覚を共有させるため、使役獣との繋がりを強化する念のような魔力を送る。
契約の痕跡を辿って先にラーティ達の跡を追わせていたオカメンコインの居場所を探り当てると、ガロンは感覚を共有させた。
部屋の中にいながら感じる外気の風、流れてくる草木の匂い。いつもより空を近くに感じる。
日の光を浴びて風を切るオカメンコインの力強い翼の感覚。
見つけた美味しそうな虫を追いかけたいのを必死に我慢しながら、オカメンコインはモフモフな羽を動かし、目的の部屋の前をパタパタと旋回していた。
後でオカメンコインに褒美のオヤツを与えなくてはとガロンは思いつつ、任務に集中する。
やはり予想通り、オカメンコインは城内に侵入していた。それも──
「うーん、やっぱり視覚が建物に遮断されて遠くからだと見えないな。となると近くから見るしかないか」
「「近くって?」」
ドリスとフェリスがモグモグと干し肉を食べながら、同時に聞いてくる。
「直接窓から見る」
「「…………」」
直接、窓から……? それってもはや特能関係なく、窓から覗き見しているただのインコなのでは? と、双子が思っていることに、ガロンは気付かない。
「げっ」
「どうしたのよガロン。急にすっとんきょうな声出して」
ドリスが小袋から干し肉を取る手を止めた。
「ラーティ様と目が合った」
ガロンの報告に、フェリスが口に咥えていた干し肉を吹き出した。
正確に言うと、部屋を窓から覗いているオカメンコインと目が合った、ということだが……
「ま、これで完全にバレた訳だし。ラーティ様は追い払う様子もないから、堂々と覗き見するか」
後で覗き見をラーティに咎められることよりも、部屋の中を窓から覗き見している大型インコ、色は黄色と目が合ってしまったとき、ラーティがどんな顔をしていたのか双子は知りたかったのだが……もちろんガロンはそんな双子の心境など知る由も無かった。
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