腐男子は神様に願望を叶えてもらいました

ミイ

文字の大きさ
105 / 215
第2章

104. 話し合い

しおりを挟む
「ああ…たまに街に出掛ける時に着る。」とサックルさんは当たり前のように答えた。

「(えっ?熊さんが着るの?いや、熊さんが着たら破けるよね…?)」

と僕が不思議そうな顔で服を見つめているとサックルさんは真顔で「フェル…私は今、獣の姿だが獣人にもなれるんだぞ?」と言った。

「(あっ…そうだった…アニスが前まで普通に暮らしてたって言ってたんだった。)」と僕が思い出したような顔をすると

「…フェルが話しにくいなら今から獣人の姿になろう…。悪いが向こうを向いていてくれ。」と気を遣わせてしまった。

僕は「すみません。」と声を掛け言われた通りサックルさんに背を向ける。

すると洋服が擦れる音、地面の石がジャリジャリと踏まれる音が聞こえた。

暫くすると「いいぞ。」と声を掛けられて振り返ると、そこには身長2mくらいありそうなガッシリとした体型の男性が立っていた。
茶色の短髪で目は切れ長。少し色気のある雰囲気だ。
しかし、頭には可愛い熊耳が付いている。

僕が熊耳を見つめていると「フェル、コッチに座ってくれ。」とベッドに促された。

「悪い…。ここには来客用の椅子や机はないんだ。居心地は悪いかもしれないがそこを使ってくれ。」

サックルさんはそう言うと自分は床に座り始めた。

「あっ…サックルさん!そんな床になんて…僕の隣に座って下さい!」

と慌てて自分の横のスペースを空けた。

サックルさんは驚いて「…いいのか?」と言っている。
きっと、僕がアニスから番いの重要性を聞いているからだ。

「はい…ここの家主はサックルさんですから。」

と笑顔で言うと少し戸惑いがちに「そうだな。」と微笑んでくれた。







僕の隣に腰掛けたサックルさんは何かを発言する前に僕の首筋をクンクンと匂い「やはり、フェルからはいい匂いがするな…。甘くて花の蜜の様な匂い…。」とウットリとした顔で言った。

僕は失礼にもくまの◯ーさんを思い出し、フフッと笑ってしまった。

「…そうですか?僕にはわからないです…。」

「そうだろうな…これは獣人のように嗅覚が敏感でないと気付かない。それに普段は人から香らないんだ。香るのは獣人の発情期か自分の番いのみ。

フェルの隣にいる私には少しキツイ香りだな…。」

とサックルさんは鼻を押さえた。

「すいませんっ!」と僕はさり気無く距離をとったがサックルさんに首を振られた。

「多少、距離をとっても意味はない。元々、我々熊は犬や狼より嗅覚が優れているからな、だから少し距離をとるくらいじゃ変わらない。それにフェルは私の番いだ。フェルの香りは私にとってこの上なく魅力的で今も本当は抱き締めたくて仕方がない。

フェル…そなたはもう心に決めた人はおるのか…?」

と突然聞かれ、僕は返事に困った。

一瞬、タジェット兄様が出てきてすぐに返事をしなかったことに罪悪感が生まれたが、僕は心の中で"もう少し周りを見てみたい"という言い訳をした。

サックルさんは僕が言葉を発しないのをすでに居るという風にとったのだろう、こんなことを言い出した。

「フェル…頼みがある。
フェルにはもう…心に決めた人がおるのだろう?だったらその人と結婚するまででいい。たまにはここに足を運んではくれないか?本当はフェルを番いにしたくて堪らない。しかし、こればっかりは私の気持ちだけではどうしようもないのもわかっておる。私はせっかく現れた愛しい番いを不幸にはしたくない…。番いの幸せを私も側で見ていてあげたいのも事実だが…無理強いもしたくないんだ。フェル…無茶なことを頼んですまない。これが私に出来る精一杯の譲歩だ…。」

とサックルさんは苦しげに言う。

僕はその様子に凄く心が揺れた。

「あの…サックルさん、先に謝らせて下さい。僕、サックルさんに番いになって欲しいと言われた時、気が動転してすぐに断ってしまったんですがアニスに言われるまで獣人にとって"番い"というものがそこまで重要なものとは知らなかったんです…。何も知らずに断ってしまってすみませんでした。」

と頭を下げた。

「いや…私が何の説明も無しにいきなり言ったのが悪かったのだ、だから謝らないでくれ。」

サックルさんはそう言うと僕の頭を撫でてきた。

「…これでフェルが少しでも獣人に興味を持ち、そして私に興味を持ってくれたら嬉しいのだが…。」

と小さく呟いた声は近くにいる僕にはバッチリ聞こえてしまい、その健気な態度に僕は思わず「僕にはまだ心に決めた人はいません!」と言ってしまった。

言った後、自分で「(あちゃー!)」と思ったのは後の祭りだ。

サックルさんも驚き、暫く撫でていた手を止め「それは誠か…?」と聞いてきた。

僕は言ってしまったからにはキチンと言わなければ、と思い、

「はい…。ハッキリと言わずすみませんでした。」と言うと、

「そうか…まだおらぬか。じゃあ私にもまだチャンスはあるのだな。」

と嬉しそうに微笑んだ。

「(うわぁー!イケメンの笑顔!ありがとー!ごちそうさまですー!)」

と僕は内心バカなことを思い興奮していた。

すると「フェル…もう少し触っても良いか?」とサックルさんに聞かれ、タジェット兄様で慣れされていた僕は撫でられる延長くらいなら…と安易に「はい。」と返事してしまった。

しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...