腐男子は神様に願望を叶えてもらいました

ミイ

文字の大きさ
112 / 215
第2章

111. 証言

しおりを挟む
「ここまで来ればなんとか大丈夫そうですね。」

とグランドさんは建物の物陰に隠れた。

「あっ…あの…?」

と僕が聞くと、

「お怪我はありませんでしたか?
私は騎士団第3部隊に所属しておりますグランドと申します。少し事情があり、あの場所に潜入しておりました。

それにしても…ドレスというものはなんとも動きにくいですね…。」

と言うと、徐ろにドレスの裾をビリッと破り膝辺りまで持ち上げると横で結んで留めていた。

「ヒールも…しかし、脱ぐわけにもいかないし…。はぁ~仕方ありませんね…、フェンネル君、私は少し様子を見てきます。暫くここで隠れていて下さい。」

グランドさんはそう言うと襲撃のあった方に戻って行った。

僕は1人建物の壁に凭れ座り込むとローザやアニス、サラ達の安否を心配した。






それから少ししてグランドさんが戻ってきた。

「お待たせ致しました。会場はなんとか収拾がつきそうです。フェンネル君、申し訳ありませんがこの近くにある騎士団所有の建物に来て頂けますか?私の報告と事件の関係者の証言が必要なのです。
心配はいりません。証言が済み次第、自宅には騎士団が責任を持ってお送り致します。」

グランドさんはそう言うと手を差し伸べてきた。

「あっ…はい、わかりました。」

僕はその手を握り返すと騎士団の建物へと向かった。






 
暫く歩くと、グランドさんが1つの建物の前で「こちらです。」と言い、門番と話をつけていた。

中に入ると簡素な部屋に案内された。

「申し訳ありません。ここはあまり一般の方が入らないのでお客様を招く様な部屋を用意してないのです。居心地は悪いかもしれませんが、そちらのソファーをお使い下さい。」

「いえ、お気遣いありがとうございます。それで、証言とは何ですか?」

僕はここに連れて来られるまで何の説明もされていなかったので証言と言われてもサッパリわからなかった。

「はい、本日あの会場で起こったことをそのまま伝えて欲しいのです。この後、あの街周辺を管轄している騎士団が数名参ります。その際にお伝え下さい。私1人の証言だけでなく、数名の証言を元に犯人を探し出すことになっておりますので。」

「はっ…はぁ~…。」

とよくわからないなりに返事をした。

「実は本日の農業祭の数日前、主催者宅に"農業祭を中止にしなければ死人が出る"という手紙が届いたのです。その後、主催者側から騎士団に相談が来たのですがもう中止に出来ない程、日程が迫っていた為そのまま実施せざるを得なくなりました。なので、この農業祭に騎士団を潜入させ、不審な動きをする者を見張っていた、というわけなんです。あの時までは特に何も起こってはいなかったのですが、あんな目立つような場所で起こるとは予想外でした…。フェンネル君、一般市民のあなたを巻き込んでしまって申し訳ありませんでした。」

グランドさんはそう言うと頭を下げて謝ってきた。

「えっ!?いや、大丈夫です!特に怪我もしていませんし…。でもあの会場に僕の友達がいたんです。きっと心配してるだろうから早く会いたいのですが…。」

と頼むと、快く探してくれることになった。

「では騎士団にご友人を捜索させ、フェンネル君がご無事なことをお伝えして参ります。そしてこちらからご自宅へお送りする旨も伝えます。」

「ありがとうございます。それだけが気掛かりでした。」

グランドさんは「いえ、当たり前のことです。」とカッコいいセリフを返してくれた。

それからグランドさんにお茶を淹れてもらい味わっていると、コンコンッと扉をノックされた。

グランドさんが「はい。」と立ち上がり扉を開けると騎士団の制服に身を包んだ知らない2人が立っていた。

「失礼します、私は騎士団第3部隊隊長のダグラスです。」

「同じく副隊長のバルサムです。」

そう自己紹介されたのでこちらも慌てて
「私はフェンネルと申します。」と名乗った。

「(隊長ってことは兄様のことも知ってるはずだよね…。挨拶した方がいいのかな…?でも挨拶して兄様に報告されたらマズイし…きっと火竜を使って飛んで来るよ…まぁ後からバレるのも怖いんだけどね…。)」

僕はどうしようか迷った末、兄様のことを挨拶してダグラスさんにこのことを口止めしてもらうように頼むことにした。

「(僕から報告します!ってキチンと説明しよう。じゃないとダグラスさんが罰せられるかもしれないし。)」

「早速ですが…先程のことを伺っても宜しいですか?」

と聞かれ、僕は女装選手権が始まってから投票、開票までは特に何もなく1位の発表の時に事件が起きたことを説明した。

「そうですか…特に舞台上からも不審な人物は見当たらなかったということですね、ありがとうございます。参考に致します。」

「いえ…お役に立てず申し訳ありません。」

と謝ると、

「いえいえ、フェンネルさんに証言して頂けて良かったです。それにお怪我もなくて何よりです。では、今からこちらのバルサムと数名を付けてご自宅までご案内致します。バルサム、くれぐれも宜しく頼むぞ。」

「畏まりました。」

ダグラスさんはそう言うと部屋を去ろうとした。

そこで僕は「あっ…あの…!」と呼び止めた。

ダグラスさんはこちらを振り返り「何か?」と尋ねてきた。

「あの…ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私の兄も騎士団に所属しておりまして、いつもお世話になっております。」

と頭を下げた。

ダグラスさんは、

「お兄様も騎士団に所属されてるんですね。お名前を伺っても宜しいですか?」

「はい…タジェット・ローランドと申します。」

僕がそう言った瞬間、室内は穏やかな雰囲気から一変、緊張が走った。

「(えっ…ダメだったのかな…?でも僕、もう中身は26歳だし社会人として挨拶はしないといけないし…それに兄様も怖いし…。)」

と思っていると、ダグラスさんは

「そっ…そうだったんですね…こちらこそいつもお世話になっております。フェンネル様…とお呼びしますね。私は隊長として、この件をローランド様にご報告しなければなりません。ご兄弟が事件に巻き込まれたとなるとローランド様もご心配なさるでしょう。宜しいですね?」

と肯定的に言ってきた。

僕はその言葉に「少し待って頂けませんか?」と頼んだ。

「ダグラスさんが隊長として報告義務があるのは重々分かっています。しかし、私があの…女装選手権に出ていたと知ると兄様は怒るだけじゃ済まないんです…!本当に本当にマズイんです…!だから申し訳ありませんが、私の口から言うまで内緒にして頂けませんか?」

「しかし…!」とダグラスさんは渋っている。

「ダグラスさんには決して迷惑はかけません!2日…いえ1日だけ待って下さい。家に帰ったら私が直接言います。」

と言うと、

「わかりました…。しかし、フェンネル様から証言があったことは記録として残しておきます。宜しいですね?」

僕はその言葉に「はい、ありがとうございます。」とお礼を言った。

そのままダグラスさんは部屋を去り、部屋には僕とグランドさんとバルサムさんが残った。

少し気まずい雰囲気が流れたものの「では、フェンネル様行きましょう。」とバルサムさんに声を掛けられる。

僕はグランドさんに「ありがとうございました。」と声を掛け、そのまま廊下に出た。

暫く歩いていると「副隊長、お待たせしました。」と2人の騎士が声を掛けてきた。

「(この人達も一緒に行くのかな?)」

と思っていると1人の騎士がバルサムさんにコソッと耳打ちしている。

その瞬間、バルサムさん「なんだと!」と焦り始めた。

しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...